2-13 犯人捜し 1
身内に不幸があり、心の喪中でございました。ブクマ等で更新をお待ちいただいた方には、ご迷惑をおかけいたしました。
また本日から連載を再開させていただきますので、お付き合いいただけると嬉しいです。
尚、本日は安いんでいた分も含めて3話投稿いたします。
一先ず目につく人を片っ端から鑑定してみたのだけど、他人に干渉できそうなスキルを持っている人はいなかった。唯一怪しいと思ったのは、ギデオンお兄様の長女のソフィアの魅了だけど、当時彼女は2歳だったから絶対白。
私達の中で容疑者と目されるマリーベル様なんだけど、どうもスキル自体は関係なさそうな「窃盗」なのよね。ちなみに第2スキルね。第1スキルはもっと関係なさそうな「毒耐性」だった。それにしても貴族の子女が「窃盗」って……。何故かレベルは上限の10だし、貴族なのにこのスキルをそれだけ使用しているというのはどうなんだろう。それはさておき、辺境伯の件とは関係なさそうだ。
次に、噂の出所なんだけど、下手につついて藪蛇になるわけにもいかないので、ユージェニー様の言いつけで動いている侍女パメラの方は難航している様子。母の方でも探っているのだけれど、都合よくその話をしている人はいないみたい。やはり、基本的には情報統制されているからだろうとのこと。
ちなみにパメラは、誰かがその話をしているのを立ち聞きしたわけじゃなくて、別の使用人から話しかけられて聞かされた。だからその使用人に、「あなたは誰に聞いたの?」と尋ねたそうなのだが、その使用人は情報源どころか、その噂すらも知らない様子で、驚いていたそうだ。
どうも演技ではなさそうで、パメラはその使用人に一応口止めはしたそうなのだけれど、これで手掛かりはゼロになってしまった。
「それにしても、自分で話したことを全く覚えていないなんて、そんなことがありますの?」
ルサルカお姉様のこの疑問に尽きる。ちょっとした会話なら忘れそうだが、こんなにインパクトのある話は、早々忘れないだろう。
となると、やはりこの噂は作為的に流されたもので、その使用人に犯人が干渉したということだ。
辺境伯の事となると、もしかすると外部の人間かもしれず、そうなると犯人の特定など自分達には無理だと思っていた。だけど、他人に干渉できる何らかのスキルを持った人間が、使用人にまで干渉するのだから、これは間違いなく内部の人間だろう。
こんな殺伐とした話をしているが、今日は私の部屋でルサルカお姉様とユージェニー様と3人でお茶している。傍らには母も控えている。ユージェニー様はやはり母の事はすぐには受け入れられないのか、どこかぎこちない様子があるけれど、嫌な態度は取らなくなった。ユージェニー様の気持ちを思えば、母に辛く当たらないだけでも大したものだと思う。
かたやルサルカお姉様は、謝ってすっきりしたのか、元々の性格であろう天真爛漫さが全開だ。
「犯人を見つけたら、シヴィルにやっつけていただかないとね!」
「私がやっつけたら、多分犯人は死にますが……」
「いいのよ!」
「いや、ダメでしょ……」
祖父と私が訓練しているのは、お二人は時々見ていたのだけれど、私も祖父も人間離れしているので、お二人はよくわかっていなかったらしい。そこでトバイアスお兄様と――私に散々手加減するように言い含めたうえで――立ち合いしてみることになった。模擬剣のトバイアスお兄様と、徒手空拳の私。結果は私が一瞬でお兄様を地に沈めて勝利。勿論怪我はさせなかったし、謝ったけどお兄様は落ち込んでいた。
これを見た二人は、「騎士団なんてと思っていたけれど、むしろシヴィルが騎士団に入った方が、領のためにはなりそうね……」と、なんだかわからないが納得していた。理解を得られたので結果オーライである。
おっと、話がそれた。
つまり事件は手詰まりになった。手掛かりは内部の人間という、その一点だけだ。ユージェニー様が唸る。
「こうなると、標的から予想するしかないかしら」
「標的ですか?」
「ええ。標的として考えられるのは、12年前の時点なら旦那様、ステラ、私。現在ならシヴィル様とルサルカも対象になるわね」
「うーん、私の場合でしたら、本家筋は盤石なのでなさそうですが、マリーベル様か、あるいは辺境伯家の権威を守りたい使用人も考えられますね。ユージェニー様だと……」
「これが他家なら真っ先に疑うのは奥様だけれど、性格的に奥様はないわね」
「そう思います」
「となると、やはりマリーベル様かしらね」
ここで私は母に向いた。
「お母さんの場合は?」
「マリーベル様をはじめとする、貴族子女出身の使用人の派閥……かしら」
「派閥? 使用人に派閥があるの?」
私も疑問に感じたけれど、それはユージェニー様も同様だったようで、ユージェニー様が尋ねた。その質問に、母はユージェニー様に返答した。
「はい。当家の使用人には、貴族子女、自由市民がおります。多くの貴族子女は、家人の専属侍女・侍従となることが多く、自由市民の使用人は専属使用人の補助や、下男下女であることがほとんどです。しかしあの当時、私がその前例を破りました。その為、使用人に派閥が出来てしまったのです」
「奥様はそのことを?」
「勿論、ご存知です。多くの使用人は、奥様の意志に従っていたようですが、一部の貴族出身の使用人は、私に対して敵愾心を持っていた様子でした。ですが、奥様はもとより侍女長、執事長も能力を公正に判断し人事裁定いたしますので、当時は問題になるほどではなかったと」
「つまり、大多数が奥様付きになったステラの能力を評価して納得していたけれど、一部はそうではなかったということね?」
「その通りでございます」
「そして、その中にマリーベル様も含まれていた」
「はい。マリーベル様が旦那様のお妾になられた当時は、私の上を行くために旦那様を誘惑したとの噂はありました。事実かは定かではありませんが……」
「いいえ」
母は言葉を濁そうとしたけれど、ユージェニー様はそれをぴしゃりと断じた。
「実際はどうあれ、これほどマリーベル様の名が挙がるのよ。まずをもって調べるべきはマリーベル様だわ」
「確かにそうですわね」
ルサルカお姉様もそれに同調したので、私は私の調べられた限りのマリーベル様の情報を伝えた。勿論スキルの事もだ。何故スキルを調べられたのかを聞かれたけれど、そこは乙女の秘密ということで適当に誤魔化した。
「その窃盗というスキルは、やはり盗みに関するものかしら?」
「そのようです。何かを盗むときに、盗みの成功率があがり、発見率が下がるなどの効果があるそうです。かなり習熟度が高かったので、隠蔽スキルもあれば家宝でも盗めるでしょうね」
「そう……関係はなさそうだけれど、仮にも貴族に生まれてこんなスキルを授かるなんて、どのような環境だったのかしら……」
本当に。まるで浮浪児が授かるスキルだ。しかし、マリーベル様はきちんと貴族として生まれ育っていて、それは間違いないそうなので、余計に不思議だ。
「あとは火魔法の適性もあるようですが、初級どまりですね。私の方で分かったのはこのくらいです」
「ありがとう。でも、これだけだと何とも言えないわね」
「例の貴族出身の使用人の派閥ですけれど、その方たちは今でもこのお屋敷にいらっしゃるの?」
ルサルカお姉様の質問に、母は少し考えて「はい」と答えた。
「あの頃敵対派閥にあった方は、現在マリーベル様付きのお二人となっておられるようです。他の方は婚姻などで職を辞されたのでしょう」
「では、パメラとステラは、その二人を監視してくださる?」
「かしこまりました」
「こちらは当面、シヴィル様とはまだ対立している風を装いましょう。あなたには嫌な思いをさせるかもしれないけれど……」
「いいえ、大丈夫です」
「ありがとう。では、私とルサルカでマリーベル様とお茶会でも開いて、探りを入れてみるわ。シヴィル様からは、それとなく奥様からお話を聞いてみていただける?」
「はい、わかりました」
仲良くなったら非常に頼もしいユージェニー様が、私達にテキパキと指示を飛ばす。今はまだ雲を掴むような話だけれど、随分昔のこともあるし、今は何もとっかかりがないから、地道に行くしかない。
そして、もしこのことが解決したとして、私達はその黒幕に何を求めるのか。罰か謝罪か賠償か、もしくはその全てか。せめて、母には謝って欲しい。変な噂を流して母の名誉を傷つけたんだから、謝罪位は欲しい。
後の処罰は、ユージェニー様達や辺境伯の裁量に任せてもいいかもしれない。私はまだこのあたりの事がよくわからないから。
お茶を飲んで溜息を吐く。貴族って大変だ。ユオヅ村にいた時は、こんなことで悩んだことはなかった。あの村の人は田舎なのもあるけれど、みんな素朴で優しかった。師匠やゾン、モア、リカ達、みんな元気かなぁ。
殺伐とした貴族屋敷と、村のホンワカ平和具合に格差がありすぎる。故郷の村の事を思い出して、私は軽くホームシックになった。




