2-1 家族構成
母と祖父とは玄関口で別れ、メイドに案内されて入った部屋は、ユオヅ村の家の居間より広い。20畳近くありそう。ベッドとソファとテーブルとチェストがいくつかある。お部屋の横には衣裳部屋とお風呂とトイレもあるんだって。私の居住スペースだけで、前の家くらいの規模がある。金持ちすごい。
私はすぐさまメイドに風呂に突っ込まれ、全身くまなく丸洗いされた。いつの間にやら用意されていた若草色のドレスを着せられ、髪を整えられて化粧を施される。この間私は、当初こそ抵抗したものの、抵抗は無駄だとさっさと白旗を上げて、なすがままだった。
私の支度が終わるとメイドが退室し、代わりに黒いスーツのような服を着た白髪のおじさんが入ってきた。
「ホワイト家筆頭執事のセバスチャンでございます。シヴィルお嬢様には、ご家族様との顔合わせ前に、ホワイト家について簡潔に説明させていただきます」
なるほど。確かにこの家のことを全く知らないよりも、ある程度知ったうえで顔合わせした方がスムーズだ。
私は「セバスチャンさん、よろしくお願いします」と返事をして、セバスチャンと共にソファに腰かけた。
「お嬢様、まずは私のことはセバスチャンとお呼びください。我々使用人に対し、敬称や敬語は不要でございます。辺境伯家の沽券に関わりますゆえ」
「わかり……わかったわ」
「よろしゅうございます。ではまず、家族構成から説明いたします」
家長であるホワイト辺境伯――つまり私の父――は、エリック・ホワイト58歳。(おじいちゃんと歳近い!)今のところ辺境伯領の運営に関しては、全権を持っている。辺境伯はこの国には4つしかない高位貴族で、公爵家、侯爵家に次ぐ家格。
第一夫人、つまり正妻はエスメラルダ夫人57歳。元は公爵家の令嬢で、先々帝の帝孫で現皇帝の従妹でもある。バックの権力が強いので、実質この家では最も発言力がある。大変高い教育を受けており、貴族としての意識も高い。故に自分にも他人にも厳しい。貴族の中の貴族と称される女傑。
長男のギデオンお兄様37歳。辺境伯家の跡継ぎで、領地運営の大部分に携わっている。形式上第1騎士団団長も務めている。侯爵家から妻を迎えており、長女、長男、次男をもうけている。
ギデオンお兄様の奥様、サフィナお義姉様33歳。コバルト侯爵家次女。コバルト侯爵領は帝国領最北端に位置するところで、戦神をまつる敵国ドルストフ帝国との国境沿いにあることから、毎年のように国境紛争が起こる土地。その土地柄から、サフィナお義姉様も戦う令嬢として、若かりし頃は戦乙女なんて呼ばれていたんだとか。
次男、モーフィアスお兄様35歳。辺境伯家傘下のトーリッジ伯爵家に婿入りしている。
長女、サブリナお姉様32歳。お隣のビリジア侯爵に嫁いでいる。隣と言っても結構遠い。
次男のモーフィアスお兄様と、長女のサブリナお姉様は基本嫁ぎ先にいるので、普段はこの家にはいないそう。今日は顔合わせだからと来てくれているようだ。
次がお妾さん達。
サンド男爵の次女、マリーベル様42歳。元々は母と同じく辺境伯家のメイドだったそう。
ブラウン伯爵家の長女、ユージェニー様46歳。詳細は不明だけどバツイチらしい。まさかと思うけど、辺境伯と不倫して別れたんだろうか。わからん。
お妾さん達が第2、第3夫人になっていない理由は、セバスチャンは言わなかった。気になったけど、時間もないし今度聞くことにする。
で、お妾さんの子ども達。母親2人がどちらもお妾さんなので、子どもも厳密にはホワイト家の人間と認知されていないらしい。戸籍は母方だそうだ。一緒に住んでいるのだから暗黙の了解なんだろうけど、認知してやれよと思わなくもない。何か理由はあるんだろうけど。
三男がトバイアスお兄様17歳。ユージェニー様の息子さん。現在はこの領の第2騎士団で従騎士をやっているそう。
次女のドナお姉様。15歳。マリーベル様の娘さん。なんと10歳から王都の教会総本山に入っていて、毎日潔斎やらなにやらしなければならないそうで、今日も不在だそうだ。お役目が終わって還俗したら帰って来れるとのこと。それっていつなんだろうね。
三女のルサルカお姉様。ユージェニー様の娘さん。私と同い年。鑑定を見る限り、私が4女だから、ルサルカお姉様の方が誕生日が早いのだろう。
最後に、ギデオンお兄様の子ども、つまりは私にとっては甥っ子姪っ子。
長女のソフィア14歳。姪っ子のはずなのに年上だ……。あちらも複雑だろうな。しかもすでに婚約者がいるらしい。
長男のトーマス11歳。すでにギデオンお兄様についてお勉強しているそう。トーマスも婚約済。本家筋は人生の決定が早いね。
次男のジャスティン9歳。ジャスティンは男の子らしく騎士に憧れているようで、毎日騎士に強請っては訓練に精を出しているのだとか。来年からは騎士団で小姓(見習い)を始める予定とのこと。
「家族構成は以上になります」
「多いねぇ。ええと」
「シヴィルお嬢様を入れて14名ですな」
「わぁー……」
ちゃんと覚えられたかな。ものすごく心配だわ。ドナお姉様以外全員いるわけだし、失敗できない。
14名って、家族多すぎるよ。ホワイト家の第1スキル「繁殖」が仕事しすぎだよ。ぴえん。
かなり複雑な家族構成を頭に叩き込み、なおかつその背後関係とか色々考えたかったのだけれど、「時間ですな」とセバスチャンが言って、立つように促された。
あぁ、もっと考える時間が欲しかったけれど、確かに私の腹の虫も大騒ぎしている。この後の夕食会で、ちゃんとご飯を食べられると良いのだけど。
セバスチャンと共に廊下を進み、ホワイト家の一同が会した食堂の前に到着し、その扉が開かれる。
魔道具のシャンデリアの下には、モスグリーンの毛足の長い絨毯の上に長テーブルが置かれている。真っ赤なテーブルクロスの中心に、花柄のライナーが敷かれて、銀食器と燭台、花瓶が飾られている。
そして、壁際には多数のメイドが立ち、それぞれの手にはクロスやワインが提げられていた。
なんだかこれに似た光景を、樹里の記憶の中で見たわね、なんて思いながらも、その長テーブルに着席している家族たちをそれとなく観察しながら歩く。
下座から若い世代、上座には上の世代。そして一番上座に座る、白髪交じりの水色の髪をした男。
セバスチャンとメイドに教えられたとおりに礼を取る。背筋を伸ばして僅かに膝を折り、ドレスの裾を摘んで床につかないようにする。
「お初にお目にかかります。本日より名を連ねることになります、シヴィルと申します。以後よしなに」
私に向けられる、歓迎の視線、好奇の視線、警戒の視線、侮蔑の視線、視線すらも寄こさない無関心。
私は甘かった。ここは家なんかじゃない――戦場だ。
作者:名前考えるの面倒くさい
辺境伯:頑張れ
作者:お前のせいだよこの野郎




