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その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第1章 幸福な子ども時代

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1-16 辺境伯のお迎え 2

「ほう、知っていたか」

「ええ、まあ」


 今知ったんだけどね。でも母から話は聞いていた。


「結論から言うと、そなたを我が家の嫡子として認知すると、父上が決定された」

「何故です?」

「今まで放っておいたのに、今更と思うのも無理はないな」

「……ええ」


 ギデオンお兄様は、苦笑しながら足を組み替える。


「なにもなければ、これまで通り放っておいた。しかし、放っておけない事情をそなたが起こしたのだ」

「私が?」

「そうだ。ドミトル・モロクを知っているだろう?」

「はい」


 勿論覚えている。先月まで入院していた、SAHから生還した患者さんだ。

 あぁ、そうか。モロク商会はホワイト辺境伯領最大手で、ホワイト辺境伯家の御用商人。ドミトルさんは元から、辺境伯の命を受けて、私達一家を見張る役目を担って外商していたのだ。

 それで私がドミトルさんを助けてしまったから――。


「息の根も心の臓も停まった人間を蘇生するなど、ありうべからざることだ。そなたは間違いなく奇跡を起こした。こんな辺境の村で埋没させていい存在ではない。父上はそう判断し、そなたを嫡子とし迎え入れる決定をしたのだ」


 あぁ、やらかした。それに尽きる。でも、それ以上に怒りも感じる。


「ギデオンお兄様、奇跡というただの一言で片づけるのは、医学に対する冒涜です。呼吸や心臓が停まっていても、早急に対処すれば蘇生する方法は確立されています。実際この治療院は、心肺蘇生法によって何人もの患者さんを救ってきました。それを奇跡などという適当な単語で片づけられるのは、医学者に対する侮辱です。

 それに、私は治癒魔法を使ったわけでもありません。それはあの場にいた方々に聞いていただければわかることです。たまたまお耳に入ったから驚かれたのでしょうが、私は特別な存在などではありません」


 腹立ちまぎれに言い捨てて、小さく息を吐く。こんな長文で普段喋らないから、ちょっと息切れしたわ。

 私が腹を立てたのは、ギデオンお兄様には伝わったようだ。ギデオンお兄様も溜息を吐く。


「確かに、ドミトルの妻や同行していた従業員も、魔術光は確認できなかったと言っていた。では、どうやってあの奇跡を起こした?」


 入室してきた時から気になっていた。司祭様が何故ここにいるのか? 決まっている。私を審理の魔眼で裁定するためだ。教会が司法に介入するのは、この審理の魔眼を持った「噓発見器」の功績に他ならない。

 それに、教会に代表されるもう一つの役割と私の功績を鑑みれば、お兄様ひいては辺境伯の目論見くらいわかる。


「医学の知識と技術によるものです」

「では、それだけで救ったのか?」

「はい。医学的には――」

「偽なり」

「っ!」


 司祭様から嘘だと看破された。しまった、肯定するべきじゃなかった。はぐらかすべきだった!

 ギデオンお兄様が、愉悦に口角にあげた。




「ふむ。医学と魔法以外となると、スキルか?」

「……」

「答えなさい」

「答える、義務がありません」

「よろしい、肯定と受けとろう」

「……」


 ダメ、勝てない。思考加速スキルを持った高位貴族の長子に、私みたいな12歳の子どもが勝てるわけがなかった。

 悔しくて涙が浮かんでくる。このままだと私は、辺境伯家に連れて行かれてしまう。


「お兄様! 私は、この村を離れたくはありません!」

「気持ちは理解できないこともない。しかし、そなたの持つスキルと能力は、聖女を凌駕しているのだ」

「聖女になんてなりたくありません! 強制力はないはずです!」

「教会にはな。父上からそなたには、ある」

「私を聖女にして、辺境伯閣下は政治利用したいだけでしょう!? 私にとっては赤の他人の「辺境伯」に、何故私の人生を捧げねばならないのです!?」


 ついにボロボロと涙をこぼしながら訴える私に、ギデオンお兄様は瞳を伏せて、一つ嘆息する。そして、私に強い視線を向けた。


「決まっているだろう。それが貴族の義務だ」

「私は貴族ではありません!」

「これからそうなる。それは避けられない」


 どうして、どうして? どうして、私以外の他人が、しかも関わりのなかった人が、私の人生を操作するの? 

 生まれながらの貴族なら、これも納得できたかもしれない。だけど、私は違う。納得なんて、出来るわけがない。

 私は顔を覆って項垂れる。未だに止まらない涙が、指の隙間からこぼれた。



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