1-15 辺境伯のお迎え 1
血の滴る剣を右手に提げ、ゆらりと幽鬼のように佇む私の周りには、鎧を着た男が8名、呻きながらうずくまって死屍累々の体を晒している。私はそれを一顧だにせず、私に畏怖か嫌悪か知らないが、眉をしかめて見つめる男に振り返り、紫色の瞳で強く睨み剣を突き付ける。
「これでもまだ納得がいかないなら、私は従いません。条件を飲んでくれますよね? それとも、お兄様も斬られたいですか?」
どうしてこうなった。
今日も今日とてお仕事お仕事。
朝の訓練の後体を拭いて、出勤した私は白いエプロンを着て仕事を始める。ちなみにエプロンは半そで割烹着みたいな形をしていて、自分で縫ったよ。やっぱり専用の服は衛生上でも大事。白衣って作業着だからね。
「シヴィルちゃん! ロブソンさんが来てるよ!」
「はーい」
受付担当の師匠の奥さんに呼ばれて行くと、待合室で鍛冶屋のロブソンさんが待っていた。ロブソンさんはこの村唯一の鍛冶屋で、武器から鍋までなんでも手掛けるドワーフの鍛冶屋さん。少し前に医療器具の発注を頼んでいた。
案内した事務室で、注文の品を見せてもらう。
「注文の針だが、巻き鉄じゃぁこれが俺には限界だ」
二人でお茶を飲みながら、布にくるまれて差し出された注射針を確認する。可能な限り細くとお願いしていた針だけど、見る限り20G近い太さ。子どもや高齢者にはかなり厳しいけど、使えなくはないサイズだ。
まぁ、金属だし動かない患者さん前提だから、その前提で行くと子どもも高齢者もまず無理なんだけどね。
「ありがとう。このくらいなら大人になら使えるから、治療の幅も広がるよ」
「そうかい。それならよかった」
ホッとした顔を浮かべたロブソンさんに、私も笑顔を向ける。点滴の有無で、結構予後は左右されるからねぇ。あのSAHで一命を取り留めたドミトルさんも、ロブソンさんの技術提供のおかげで助かったようなものだし。
「いつも無理ばかりで、ごめんなさい。でも、本当に助かってる」
「いいってことよ」
メスやら鑷子やら、いつもメンテナンスしてもらっているので、ロブソンさんには本当に助けられている。徒弟に入る前は剣や矢じりの調整や作成くらいでしか関わらなかったけど、ロブソンさんなくしてこの村は回らないのだ。
残ったお茶を飲み干していると、事務室の扉をノックする音がした。
「はぁい」
「ロブソンさんごめんなさいね。シヴィルちゃんに、またお客さんなんだけど……」
「えぇ?」
珍しい。今日は客の多い日だ。私は奥さんからロブソンさんに振り返った。
「ごめんなさい。また何かあったらお願いするね」
「おう、毎度」
退室するロブソンさんを立ち上がって見送ったのと入れ違いに、金属の全身鎧を身につけた男性が2人と、僧服を着た司祭様が1人入ってきて、その後に身なりのいい中年男性が1人入室してきた。ドアの外の両側にも、全身鎧を身につけた人が2人並ぶのが見えた後、ドアが閉まった。
え、何事?
「そなたがシヴィルか?」
「は、はい」
身なりのいい男に誰何され、軽く混乱しながらもなんとか答えた。その男は私を上から下まで眺めた後、何に納得したのか頷くとこう言った。
「そうか、今後は我が家で身元を引き受ける。ついてこい」
は?
今度こそ思考が停まった。おかしいでしょう、初対面の人についていくわけないし。子どもだってついていかないわ。え、何この人。事案かな?
一先ず未成年者略取を犯そうとする人物を鑑定。
氏名:ギデオン・ホワイト
年齢:37
職業:ホワイト辺境伯第1騎士団団長、ホワイト辺境伯家長男
HP:11874
MP:164
第1スキル:繁殖
第2スキル:思考加速
第3スキル:剣術Lv4、盾術Lv3、槍術Lv4、弓術Lv2、体術Lv3、馬術Lv3、政治学Lv6、経済学Lv5、火魔法Lv2、水魔法Lv3、土魔法Lv1
は? 騎士団長なのに弱くない?
ちなみに今の私はこう。
氏名:シヴィル・ゴリンデル
年齢:12
職業:ゴリンデル家長女、ホワイト辺境伯家4女、治療師見習い
HP:18583
MP:282
第1スキル:改造
第2スキル:鑑定
第3スキル:剣術Lv7、拳闘術Lv5、体術Lv8、弓術Lv8、隠密術Lv3、解体術Lv6、医学Lv8、薬学Lv6、教導Lv3、料理Lv4、掃除Lv3、洗濯Lv3、裁縫Lv4
祖父は私の倍以上のステータスである。まだ私も伸びる余地が十分あるわね。
いや、現実逃避してる場合じゃないわ。
あぁ、ついに来たか。第1スキルが生々しいわ! 子ども多そうだね辺境伯家は!
とりあえず用件はわかったが、まだ事案である。バレないように小さく溜息を吐いて、男性を見上げる。
「身元を引き受けるとは、具体的にはどういうことでしょうか? ギデオンお兄様?」




