1-13 ドゥシャン・ゴリンデル
お爺ちゃん視点です
シヴィルにスキルのことを聞いて、俺が思いだしていたのは、かつて親父に聞いた話だ。
ウチの家系に現れる「改造」スキルは、原初スキルの一つだって話だ。
第1スキルは先天性のものだ。突然変異で生えたりはしないし、種類は多岐にわたる。
だがそれは、元々ある数種類の原初のスキルから、派生したものにすぎないと言われている。
例えば威圧や魅了なんかのよくある第1スキルだが、これは「支配」から派生したと言われている。
親父が言うには、治癒や身体強化なんかのスキルも「改造」から派生したんじゃないかって話だった。
なんで派生なんかが生まれるかというと、第1スキル保持者が、保持していない人間と子どもを作ると、その子どもが授かるスキルが分岐すると言われている。
親のスキルをそのまま受け継ぐこともあれば、受け継がないこともあり、そして、希釈されて弱いものになる場合もある。それが派生スキルということだ。
このことは王侯貴族や教会では暗黙の了解であり、だから貴族は貴族としか結婚しない。昔は美人な捕虜やら市民に嬉々として手を出していただろうから、これに気づいたころにはかなりの派生が出来ていて、危機感を持ったのだろう。
実際ウチだって、過去は元貴族の傭兵団の仲間内で結婚したり、他国の捕虜になった貴族の人間と子どもを作ったりした。ちなみに俺の嫁も元貴族。
第1スキル保持者同士だと、どちらか一方が遺伝するか、たまには融合や統合されたスキルに変化したりもするらしい。
シヴィルもステラも一人っ子だったから、「改造」が発現しない可能性も勿論あった。でも、どちらも受け継いだようで俺は嬉しかった。
この世にはもう、たった3人の家族だからな。
突然だが、昔話をしよう。ゴリンデル家の話だ。親父に聞いた話だし、随分昔の話だから、本当の事かどうかは保証しねぇが。
さっきの、貴族や教会では暗黙の了解って話と繋がるんだが、これは平民たちには一切知らされていない。
なんでかっていうと、知られたら「貴族たちは力を独占している」と思われて、反感を買うからだ。独占してるのは事実なんだから、そりゃ良く思われないに決まってる。
実際、過去にそれで暴動が起きて、滅亡した王国がある。
それが、ゴリンデル家の祖国であるラーシュナー王国だ。
国民たちの暴動によって革命が起きて、ラーシュナー王国は滅亡した。そうして新たに生まれた国は、スキルに関係なく市井からも有能な者を集めることを国是とした国。
その新たな国でもゴリンデル家を含むいくつかの貴族家は、貴族として在位した。
ウチのスキルを考えれば、勝てるわけがねぇって国民が思ったのかもしれないし、当時ゴリンデル家当主は元帥だったらしいから、その武勇にビビったってことも考えられるし、混乱の隙をついて他国が攻め入ってくることを危惧して、残しておきたかったとも考えられる。
だが恐らく、ゴリンデル家は王家を裏切って革命軍に着いた。じゃなきゃ新体制の国家で、貴族として存続できるわけがねぇし、普通に考えて王を殺した簒奪王の下に着こうなんて思わねぇ。
多分、その頃のラーシュナー王国は、スキルのことがトドメになっただけで、かなりの悪政を敷いていたんだろう。
なんならゴリンデル家を含む残留した貴族家が、市民を扇動したのかもな。
そんで、新国家はレイジェラ王国っていう国になった。王も側近たちも、ほとんどは第1スキルを持たない元平民。
保持していたのはゴリンデル家を含めた6家だけで、ちなみにジョバンニん所もそうだ。まぁアイツはエルフだから関係ねーけど。
レイジェラ王国はそれなりにいい国だった。頑張れば上に行けるって、国民たちもみんな頑張って奮起したから、国力はうなぎ上りだったらしい。
だがそれも、たったの30年で終わりを告げる。
どれだけ頑張っても、第1スキル保持者に勝てない。「改造」「演算」「魔眼」「精霊親和」なんかの保持者に、努力では追いつけない部分が絶対にある。
その焦燥は、当時のゴリンデル家当主たちも感じ取っていたから、国にいいように使われるのを甘んじて受け入れていた。
だがそれでも、スキルを持たない者たちは言う。
どれほど国民に尽くしても、身体を欠損する怪我をして戦っても、寝食を忘れて財源確保に奔走しても、それでも期待に100%応えられなければ「力を持っているくせに出し惜しみしている」と。
力のある者は臣民に尽くすべし。
奴らが人民のために身を粉にするのは当たり前のことだ。
力があるくせに、俺達には何もしてくれない。
スタンピードで被害が出たのは、奴らが怠けたからだ。
奴らは信用できない。
何もしなくても力を持っている奴らは、我々に胡坐をかいているのだ。
そしてその力がいつか、自分たちに牙をむくのではないか――。
やがて、レイジェラ王の王命で、ゴリンデル家を含む旧貴族家に粛清が下る。罪状は国家反逆罪。
募りに募った不安や恐怖心は、王達の心を縛り上げて、やがてそれを真実だと思い込んでしまった。
いち早くその情報を掴んだ「演算」の持ち主が、「精霊親和」の持ち主に伝えて、精霊の力を借りて6家すべてに伝達。ゴリンデル家が主導して戦い抜き、どうにか逃げ切った。
その6家の生き残りで結成されたのが、「ゴリンデル傭兵団」だったわけだ。
後日談として、レイジェラ王国はそれから間もなく他国から攻められて滅んだ。将軍だったゴリンデルと、軍師だった「演算」がいなくなれば、恐れる物はなしと意気軒昂する国もあったんだろう。
そういうわけで俺らの祖先は素性を隠し、大陸各地を転戦し、どうにかこうにか生き残ってきた。
そんで、俺が15の頃に親父が契約した貴族に騙されて、戦場で背後撃ちされて壊滅しかけた。それで親父も兄も弟も死んだ。
俺もしばらくは頑張ったけど、元々は200名を超える超有名な傭兵団だったのに、半数近くにまで人数が減って、ヘッドハンティングやらで人が更に減って、戦力低下の危機感から逃げ出す奴も現れて。
最終的に残った旧貴族家は、俺とジョバンニと、あとは魔眼持ちの奴の家系だけ。
そのあたりのドサクサしてる時に嫁に出会ったもんで、嫁には苦労を掛けた。だから、傭兵はすっぱりやめて狩猟団になって、最終的には騎士に仕官したってわけだ。
余談だが嫁は敵国の貴族の娘で魅了スキルを持ってた。殺されたくない、奴隷に落とされたくない一心で俺に魅了をかけて、まんまと俺の嫁に収まった。
嫁が俺にそれを打ち明けた時は、とっくの昔に魅了は解かれていたんだが、「あの状況ならしょうがねぇわな」で納得してしまうあたり、俺はすっかり嫁にマジになってたんだと思う。
そういうわけで安定した職に就いて、嫁にもステラにも楽させてやれると思った矢先に、嫁が死んだ。
さらにはステラが辺境伯に手籠めにされたって聞いたときは、本当にブチ殺してやろうかと思った。
でもステラが俺のために我慢したってのに、俺が無茶やらかしたら、ステラが我慢した甲斐がない。だから俺も耐えて、ジョバンニを頼ってユオヅ村に引っ越した。
そうしてシヴィルが生まれてみりゃぁ、俺もステラもシヴィルの虜になった。もう辺境伯なんざどうでもいい。シヴィルが幸せならなんでもいい。
俺の孫は世界で一番可愛い。何度でも言ってやる。
俺の孫は! 世界で一番! 可愛い!
世界中のじーさんが、同じこと思ってるだろうけども。シヴィルが元気ならなんでもいいんだ。
旧貴族とか、過去の裏切りとか、辺境伯の事とか、そんな恨みが全部吹っ飛ぶくらいには。
とはいえ、シヴィルの初恋は、見ていて複雑だ。叶わぬ恋は可哀想だとも思うが、お前にはまだ早いと思ったり。むしろ渡さんとも思ったり。
シヴィルの成長が楽しみではあるが、最近とみにステラに似てきて娘くさくなってきたシヴィルのことを、村の若い奴らや、イザイア様がポーっと見てるの、俺知ってるんだからな。
身分の差があれど、ガキの内なんてある意味自由だから、俺は心配だ。おかしなことにならなきゃいいが。
ステラもそうだったが、まったく女の子ってのは、心配が絶えない。




