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その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第1章 幸福な子ども時代

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1-12 10歳

 10歳式を終えて、成人の15歳までの準備段階に入る。つまりは今年から徒弟制度によって、徒弟にならなければならない。


 多くの自由市民は家業を持つ身で、例えば農家だったりお店をやっていたりするので、その家業を受け継ぐために家業の徒弟に入るのがほとんどだ。

 平民の場合は家業を持てず、いわゆる労働者階級なので、どこかに奉公先を探す。大抵は親の知り合いの所を紹介してもらう。


 成人して就労するようになれば給料はもらえるのだが、徒弟の間は「お願いして見習いをさせてもらっている立場」であるから、給料はない。

 むしろ、失敗作分の素材の代金を請求されたり、損失分の補填をしろと言われないだけまだ親切とのこと。


 無給ではあるけれども、その後の一生を左右する経験や知識を学ぶ事が出来る、それが徒弟制度。

 だから、10歳の少年少女にとって、どこに徒弟に行くのかというのは、とっても大切な事なのだ。



 ウチはと言えば、狩人なので、祖父に狩りに連れて行ってもらえればいい。


「でもね、治療院も興味があるの」

「知っていて損をする知識ではないものね。なんなら私達のスキルも誤魔化せるでしょうし」

「うん」


 10歳式から身の回りの物や友人知人を鑑定しまくり、レベルが3になった。そうしたら、スキルの概要がわかるようになった。

 私の改造はレベル8。祖父はMAXで母は9。それでも祖父と母は、「改造」の全容を知らなかったと驚愕していた。「改造」は使おうと思わなきゃ使えないスキルだから、気づかなかったみたい。

 祖父と母は、精々身体強化と治癒くらいだと思っていたらしい。だが調べてみたら、ちょっと違った。



「改造」

 肉体に作用する。細胞レベルでの変質が可能であり、強化及び弱体、変性など、術者の発想によって無限に肉体を変質させる。


レベル

1 身体操作10%

2 身体操作30%

3 身体操作50% 

4 身体操作70% 

5 身体操作90% 

6 修復

7 自動修復

8 覚醒

9 放出 

10 付与 


 つまり、祖父や母のレベルになると、他者を治癒したり、逆に病気にしたり、変身も出来れば、自動修復の効果を付与されたお守りや回復薬なんかも作れるわけで。

 このレベルごとの詳細はまだ見れないのだけど、覚醒とかなんか怖いよね。多分改造できるの、体だけじゃなくて脳もなんだろうなぁ(遠い目)。


「思っていた以上にやべぇ……」


 と、珍しく祖父が白目を剥いていたのが印象に残った。いつもは自重しない祖父だけど、私から話を聞いても「やってみよう!」とはならなかった。流石の祖父も、なんだか怖く感じたらしい。



 とまぁこういうわけで、狩人として生きていくことも勿論なのだけれど、木は森の中に隠せとばかりに、治療院にいた方が誤魔化せるという目論見もある。勿論、樹里が医療従事者だったから、昔から興味があったというのも否定はしない。


 ジョバンニおじさんに祖父からお願いしてくれて、私は治療院で治療師見習いになることが決まった。

 早朝に訓練場で弓の稽古をして、少し日が昇ってから治療院へ。夕方になる前に家に帰って、少し剣の鍛錬をしてから、家のお手伝い。中々忙しくなった。

 

「薬草採取なんかは見習いの仕事だから、シヴィルに取りに行ってもらうよ。シヴィルなら魔物が出ても大丈夫だろ?」


 と、一人で魔の森に行かされそうになったので、そこは流石にゾンの同行を願い出た。いくら私でも一人じゃ大丈夫じゃないよ。ジョバンニおじさん――以下師匠――は、人を何だと思ってるのかな?



 薬草を入れる籠はゾンに持ってもらって、私は剣を腰に佩いた。この剣は母の知り合いのある人が、私の10歳祝いでプレゼントしてくれた。祖父によると中々の業物だそうだ。

 これを貰った時は飛び上がって喜んだ。


 紙もそうだったが、剣だって決して安いものじゃない。そんな高価なものをプレゼントしてくれるのだから、ある人というのは、多分……。

 ううん、考えないでおこう。名前を言わないのだから、知って欲しいわけじゃないんだろうし。



 話を戻そう。その剣を携えて、私とゾンは魔の森に入った。ゾンはもう14歳で、来年には成人だ。だから体もかなり大きくなっていて、見た目にはほとんど大人みたいに見える。


 大人の男性が近くにいるというだけで、私は安心して森を進んでいたのだけれど、50mほど行ったところで「おい、おい!」とゾンに切迫した声で呼ばれた。


「なに?」

「深くに入りすぎじゃないか?」


 ゾンは何を言っているのかな。まだ50mだよ。この辺は入口だよ。もしかしてゾンは、あまりこの森に入ったことがないのかな?


「この辺りは魔物も出ないから大丈夫だよ」

「そっか」


 ゾンはどこかホッとした顔をする。


「でも、師匠にソパルメとウィッキョ草は、絶対取ってこいって言われたじゃない? あれはこの辺には生えてないから、もう少し奥に行かなきゃ」


 ちょっと緩んだゾンの顔が、再び真顔になってしまった。子どもの頃はあんなに向こう見ずなガキ大将だったのに、ちょっと成長したら慎重者になったなぁ。どこかで痛い目でも見たのだろう。


「大丈夫だよ、ゴブリンくらいなら私一人でも倒せるから」

「……俺も、魔法は使えるから」

「うん。頼りにしてる」


 元々負けず嫌いなゾンだ。怖気づいて帰るなんて言わない。そもそもこの辺は本当に大丈夫だし。ちょっと前に、近辺の魔物は祖父と倒しまくったから。実戦経験大事。


 少ない下草を踏みながら、目的の薬草が生えていそうな場所を目指す。予想通り、魔物は出なかった。


 

 ゾンと手分けして薬草を摘んでいく。鑑定を使うと、目に映る植物にも名前が表示されるので、見た目が酷似した雑草なんかも間違えずに済む。このスキルは採取においては無敵だ。感動。

 ソパルメはジメジメしたところに生えているので、木陰や岩の裏を重点的に見て回る。その間ゾンは、少し開けたところでウィッキョ草を摘んでいた。

 

「わっ!?」


 ゾンの声が聞こえて、すわ魔物かと慌てて岩陰から出たら、苔を踏んで滑っただけだった。びっくりさせないでよ、もう。

 ホッと一息ついて、恥ずかしがるゾンに「ぷ。ダッサ」と小さく追い打ちをかけた後、再度作業に戻った。


 腹の虫がお昼を訴えてきたので、そろそろ休憩にしようかなと考えていたら、またゾンが声を上げる。

 今度はどうしたのかと、曲げっぱなしだった膝を軽く屈伸しながら、ゾンのいる方を仰ぎ見た。


 驚いて尻もちをついたゾンの前方、2mほどの所には、犬の頭をした小さな人型の魔物、コボルトが3頭立っている。

 慌てて立ち上がろうとするゾンよりも早く、コボルトはゾンに向かって走り出す。


 油断していた私は一瞬虚を突かれて、でもすぐに剣を抜いて走った。コボルトはもうゾンの目の前。反して私はゾンから5mは離れていた。

 森では油断するなって、あれほど厳しく言われていたのに! スキル全開! 間に合えっ!


 コボルトが向かってくるので、ゾンは立ち上がるのもままならず中腰で右側に避ける。私はその左を抜けて、今にもゾンに棍棒を振り下ろそうとしていたコボルトの1頭を一刀で切り伏せ、立て続けに返す刀で残り2頭も切り捨てた。


 コボルトが倒れたことに気づいて、振り向いたゾンと目が合う。ゾンが無事だったことで気が抜けて、私はゾンの前にしゃがみ込んだ。


「間に合った……。ゾン、ごめんね。私油断してて……大丈夫だった?」

「大丈夫……。お前は?」

「良かったぁ……。うん、私も大丈夫」


 二人で「はぁぁぁ」と大きく溜息を吐く。今になって一気に汗が噴き出してきた。ゾンも両手が小さく震えている。すごく焦ったし、怖かった。


 少し落ち着いてから、場所を変えて二人で水筒片手にパンをかじる。コボルトの死体はゾンの土魔法で地面に埋めた。


「はぁ……。油断するなんて、修行が足りないなぁ」

「俺も。何もできなかったし」

「お爺ちゃんに怒られる」

「俺も親父にこき下ろされるんだろうなぁ……」


 溜息を吐きながら食べるパンは、いつも以上に味気ない。二人で一しきり反省会をして、ゾンは気持ちを切り替えたのか「よしっ」と自分のほっぺたを叩いた。


「反省終わり! 二人とも無事だったんだしな」

「うん」

「それにしてもお前、スゲェな。3頭相手に一瞬で倒すなんて」

「そこは……まぁ、小さい頃から鍛えてたし。コボルトは強くないから」

「あぁ、そういえばイザイア様と訓練してんだっけ」


 イザイア様の名前が出て、胸にちくりと痛みが走る。そんな私をゾンは横目で見ながら、膝に頬杖をついた。


「諦めろよ。イザイア様は貴族なんだから」

「うるさいな、わかってるよ」


 何で知ってるの! っていう驚き以上に、わかってることを言われて、ついイライラして冷たく返してしまった。それもゾンは織り込み済みなのか、からかう気なのか、ニヤニヤしている。


「身の丈に合った相手にしろよ。例えば俺とかな?」

「よく言うよ! モアと絶対結婚するって啖呵切ったって、師匠が言ってたよ! 浮気者!」

「はぁ!? なに言いふらしてんだ、あのくそ親父!」


 からかうつもりが、反撃を食らってゾンは顔を真っ赤にして悶えている。ざまーみろ。

 でも、言い合いをしていたら、ちょっと気分が楽になった。ゾンは昔から面倒見がいいから、気遣ってくれたんだろうなぁ。


 でも、ゾンとモアか。比較的長命なハーフエルフと、短命種の獣人。種族が違うから子どもは出来にくいし、確実にモアは早くに死んでしまう。師匠が反対するのも無理はないんだよね。

 それでも、それをわかっていても、ゾンはモアと結婚したいんだな。


「私は応援してるよ」

「いらねーし」

「もう、意地張らないで。一緒にさ、すっごい効き目の薬を作ろうよ。そうしたらモアはもっと長生きして、ずっとゾンと一緒にいられるでしょ。師匠もきっと認めてくれるよ」

「……そーだな」


 ゾンはずっと恥ずかしがっていたけれど、多分このことは村の皆が知ってるんだよね。でもこれを言ったら余計に意固地になりそうなので、黙っておいた。




 ちなみに。コボルトに襲われた時のことを話したら、案の定祖父にも母にも怒られた。



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