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12.カタルヘナの町でサンさんにアドバイスをしてみた

 こちらの世界はわいの元いた世界と、とても良う似とる。

 動物も、植物も、似通ったものが多いし、単語も自動変換されるようで困ることはない。

 せやけど勿論、違う部分もある。

 シシが猪よりも小型のマンモスに似とるように(マンガみたいやで)、猫の背中にちっさい羽根が生えとるように(超ラブリー)、エミューというダチョウに似とるフラミンゴ・ピンクの鳥がいても不思議やない訳や。

 けどな、妙に気位の高いそいつに乗らなきゃあかんいうのは堪忍して欲しい。そいつは跳ねるように歩くし、乗ってるとめっちゃバウンドして尻が痛いんやで!


「他に移動方法はないのん!?」

「これが一番速いんですよ!」

「速くても、着く前にわいの体がバラバラになるぅぅぅぅ!」

 わいはエミューの長い首にしがみ付き、振り落とされんように必死やった。

「メロさん、片膝を立てると楽ですよ。ほら」

「そんなん出来るかぁあああああ!」

 なんでや。わいと同じようにエミューになんか乗ったこと無かったのに、シクロ君はあっさりと乗りこなしとる。

 運動神経の差なんか? 不公平やで! だったらわいはうどんの加護の力で何とかしたる。

 む~ん、と眉間に力を入れて唸った。鞍よりも補助ベルトみたいなもんを想像する。そしたら尻の下からニョロッと大量のうどんが出て来て、腰をエミューの胴体にしっかりと固定してくれた。

「うどんちゃん、おおきに~。ちょっとはマシんなったで~」

 わいはホッとして、エミューの首から手を緩めた。


 わいとシクロ君はまず、サンさんが店を構えとるカタルヘナの町へ行った。切子グラスを売った金があるので、それで旅支度をするつもりや。

 わいはこっちの旅に必要なもんなんて全くわからへんので、サンさんを頼らせて貰うことにした。

 空手で来るのも勿体ないので七味を運んできて、ついでに土産に持ってきたアクリルの板も渡す。

「わっ、凄いツルツル!」

 サンさんがアクリル板の滑らかさに吃驚しとる。

 彼は七味を入れる筒は見ていても、窓ガラス代わりのアクリル板は見てないからな。そら驚くかもな。

「これをな、壁に嵌めこんでショーウィンドーを作ったらええと思うんや」

「しょおうぃんどう?」

「こういうのん。外から家の中が見えるやつ」

 わいは絵を描いて見せ、アクリル板を窓に嵌め込むと陽の光が室内に入るという事、透明なので外から中を見られるという事を説明した。

「カーテンいう布で塞がないと中が丸見えで暮らせへんけど、店なら通りかかる人に商品を見て貰えてええやろ」

「見せる陳列棚ですか!」

「そうそう、そんな感じ」

 日本やったら店のコンセプトやとかメッセージを打ち出すアイキャッチの役割を果たすんやけど、まだそこまで求めるのは早いやろ。

 取り敢えずは大きな窓で道行く人の目を引き、どんな商品を扱っとるのか伝えられたらええ。

「ショーウィンドー……わたしの店に、ショーウィンドー……」

 サンさんが憧れの女性にでも出会ったようにポーッとしとる。

 大丈夫かいな?

「夕方はライトアップをしたり、後ろに背景になる布を垂らしたりするとええで」

 こちらの世界はそう遅くまで店が開いていないので、強い灯りは必要ないやろ。

「商品だけやなくて、商品を使っとる見本なんかも見せるとええで。例えばテーブルセッティングを見せたりとかやな――」

「待って下さい!」

 わいがペラペラと喋っている途中で、サンさんに手の平を突き付けられて止められた。

「書き留めますから、少し待って下さい。全部しっかりと書き留めて、後からじっくりと考えなくては。全く、凄いアイデアです。どこからこんな考えを思いつくのですか?」

「えー、それは……」

 日本にいて、芸能活動をしていたらこのくらいの事は誰でも思い付く。見せる、という事に関してなら、わいはもっともっと幾らでもアイデアを出せる。

「こういう、仕事をしとったんや。わいは人の注目を集めるのが大好きで、『これええやろ?』って触れ回るのが好きで、キラキラしたもんで周囲を埋めとった。夢みたいな生活やけど、楽しかったんや」

「メロさん……」

 ちょっと淋しくなってしまったけど、わいは直ぐに気を取り直してサンさんに言う。

「だからな、アイデアだったら幾らでも出すわ。サンさんがええと思うことはどんどん試してみてな」

「分かりました。一緒に夢を見ましょう」

 笑顔でそう言ったサンさんに、わいも笑みを向ける。

 それは自分の夢ではないけど、人が叶えるのを見ているのもええもんや。

 別にもう、わざわざ海辺の町までいかんでもええかな~なんて思い始めたけど、そこはお目付け役(シクロくん)がしっかりと手綱を締めてくれる。

「メロさん、じゃあショーウィンドーが出来上がるまでに戻って来られるように、早く出発しましょうか」

「あ、やっぱり行くのん?」

「僕は行かなくてもいいけど……」

「すまん。やっぱいかなあかんかった」

 うどんを広めないと黒い犬がやってくる。ブルブル、もうあいつには会いとうない。

「じゃあ今日中に支度をして、明日の朝には町を出ましょう」

 わいはシクロ君の言葉に頷いて、サンさんに言われるがまま旅の支度を調えた。


 こうして、個人で旅をするには便利だというエミューを二頭用意して貰い、カタルヘナの町を出発したんやが……。

「乗り物つらっ! 揺れるのつらっ! 車が恋しいでぇ」

 幾らうどんベルトで固定されているとはいえ、エミューの歩く振動が体に伝わるんはしんどい。前の世界の車って優秀やわぁ、サスペンションって偉大やわぁ。

「メロさん、少し休みますか?」

 シクロ君の言葉に頷いて、わいはガクブルする脚でエミューから降りた。

 木にエミューを繋ぎ、水を飲ませて塩を与える。

「痛っ! 手ぇ噛むなや!」

 どういう訳かわいが乗っとる方のエミューは気性が激しく、フゴーフゴーと鼻息も荒い。

「もうっ、お前なんか、プリケツって呼んだるわ!」

「なんですか、それ? 名前ですか?」

「そうや。そっちは大人しいから『モー』やな」

「モー……。よろしくな、モー」

 シクロ君は嬉しそうにモーの頭を撫でた。


 休憩を多めに取り、うどんの力も借りつつ何とか初日を終えた。

 野宿なんてわいには無理やないかと心配しとったが、疲れとったせいであっという間に眠ってもうたわ。

 エミュー達がいるので特に見張りは立てず、夜中に一度、シクロ君が焚き火に燃料を追加していたみたいや。

 こちらの燃料は牛の糞を乾かして、ある植物の皮と灰を混ぜ捏ねて固めたものを使う。

 これが優れもので、四、五時間は真っ赤に燃える炭のように熱いままなんや。しかも冷えても火を点ければまた使える。

 何度も使って灰になったら、また新しい燃料を作るのに再利用も出来る。なんてエコなんや。元の世界でも見習えばええのに。

 難点は使い古しを新品として売る詐欺が横行しとる事くらいやろか。


「科学がなんでもええ訳やないんやなぁ」

「なんですか、メロさん?」

「いや、なんでもない。それよりも、そろそろええんとちゃう?」

「あ、もう良さそうですね」

 シクロ君は器用にフライパンからトルティーヤを取り上げ、チーズを巻いて二人分の朝食を作ってくれた。トウモロコシの香りと溶けたチーズがよう合っていて旨い。

「シクロ君は何でも出来るんやなあ」

「ちがっ、何でもなんて出来ませんよ! 実はトルティーヤの作り方だって、クロスに教えて貰ったんです」

「おう、そうやった。連絡すんのを忘れとったけど、村の皆は元気にしとる?」

「はい。隊長と、副隊長はメロさんに会いたいってうるさいそうですけど、他の皆はいつも通りに頑張っているそうです」

「シクロ君、隊長(・・)やなくて団長(・・)な。親衛隊は非公式やからぁ」

「非公式ってなんですか?」

「わいや、わいのパトロンが認めてないっちゅうことや」

「メロさんのパトロン?」

「この場合、うどん仙人なんかなぁ、いや寧ろうどん? うどんがわいの庇護者?」

 わいはブツブツと呟きながら考えたが、よう分からんくなったんで諦めた。

「さ、そろそろ片して出発しよか」

「そうですね、少しでも先に進みたいですからね」

「休憩が多くてすんません」

 わいはシクロ君に謝りつつプリケツに跨がった。

 プリケツは今日も元気良く跳ね歩いてくれそうや。

「プリちゃん、お手柔らかにな」

「クワッ!」

 プリケツは一声上げて勢い良く走り出した。


 何度目かの休憩で初めて旅人に出会った。

 大きな背負子を背負った行商人で、海辺の町から来たと言うのでうどんを振る舞いつつ話を聞かせて貰った。

「これは旨い! このツルツルした喉越しが堪らないよ」

「おっ、おじさん通やね。喉越しが分かるなんて流石やわ~」

「そ、そうかい? こいつは温かかったらもっと旨そうだなぁ。刻んだめかぶと混ぜて、お湯でも掛けてさ」

 めかぶっ!めかぶがあるんか! だったら出汁昆布も……。

「なぁ、乾燥させた昆布とかいま持っとるん?」

「乾燥させた昆布? そんなもの、どうするんだ?」

 お~う、マジかっ! 出汁昆布がないんかっ!

「こ、昆布をお湯で煮て、出汁を取ったり――」

「昆布は生で食うに決まってるさぁ! 魚じゃないんだから、茹でないよぅ」

 ガハハ……と笑い飛ばされてわいは血の気が引いた。

 まさか、まさか出汁をとる文化がないとは……。

「そうするとぉ、鰹節なんてものも……」

「なんだ、それ? 食い物か?」

 あぁん、メロちゃん泣いちゃう!

 わいは挫けそうな気持ちを必死に立て直す。

 もしかしたらこのおっさんが知らないだけかもしれへんし、違う名前で、似たようなものがあるかもしれん。まだ諦めるのは早いで。諦めたら負けや。

「おっちゃん、そしたら干物はあるんかいな?」

「勿論、干して叩いたのがあるよぅ。わしらは食わないけどな」

 どうやら遠地への販売用に、タタミイワシのようなものがあるらしい。それならまだ救いはある。

 それに、乾燥昆布ならわいが作ったってええ訳や。

 わいはおっちゃんにタタミイワシを少し売って貰い、道中で食べ方を工夫してみながら海辺の町へ向かった。

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