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埋め込まれた記憶

前回までのあらすじ


主人アズメリアとの契約が終わった。


俺の胸には、花弁と十字架の紋章が刻まれた。


明日までに、主人に与えられたこの世界の知識を整理しなければならない。

 名門貴族の令嬢と契約した俺。


 契約後すぐ、主人に記憶を分け与えられた。

 

 明日までの仕事は、この新しい知識を確認すること。やらなければ懲罰が待っている。


 調べたいことは一杯ある。黒い石造りの地下牢をぐるりと見渡した。風もないのにカンテラが不気味に揺れている。まるで見えない何かが悪さをしているようだった。得体のしれない法則が、この部屋に息づいているのかもしれない。以前住んでいた世界とは、やはりここは別の場所なのだ。もう以前の人間の生活に戻れないと思うと、さびしい気持ちにもなる。


 だが、落ち込んでいても仕方ない。俺はもう、魔物になったのだ。名門貴族令嬢の配下として、明日からは働かねばならない。しかも、この世界は今現在、戦時なのだという。命の危険もあるわけだ。始まったばかりのこの生涯をすぐに手放したくはない。情報だ。生き残るには、情報が必要だ。


(何から調べようか?)


 やはり、自分の主人のことから検索したほうがいいだろう。検索するといったが、触っていない情報端末が脳内にある感覚なのだ。勿論パスワードは存在しない。アクセスしたいだけできる。便利なのだが、いきなり多くを与えられ過ぎて戸惑ってしまうほどだ。


(アズメリア・アヴェンタゴールド嬢。百二十年近い歴史を持つ名門アヴェンタゴールド家の次期当主。第十二代目当主フレスベルグの一人娘である。年齢は十七歳。共和国の貴族階級の中でも、特に魔術に優れており、若くして上級魔物をニ体従える才覚の持ち主である。双子の姉がいたが、アズメリアが十四のときに死別。神聖ロマネスク共和国の筆頭十三家の一角である名家の命運は、彼女の双肩にかかっている)


 アヴェンタゴールドだの神聖ロマネスク共和国だの、仰々しい固有名詞が目白押しだ。だがまあ、地道に馴染んでいくしかないだろう。詳しく知りたい固有名詞を頭の中に思い浮かべると、それに付随した説明が現われる。この要領で、補充したい知識を明日の朝までに記憶しなければ。


 次は、俺が転生したこの国家について調べてみよう。


(神聖ロマネスク共和国。別名は共和国。世界の西側に存在する大陸ユリゴアから突き出す半島に建てられた国家。厳格な身分制を採用する国でありそれらは、奴隷、市民、貴族階級からなる。王族は存在せず、市民と貴族はほぼ同義語であるが、位の高い魔物を従えているかどうかで呼び名が異なる。政治的には市民と貴族の間に隔たりはなく、この二階級が統治をおこないロマネスク人以外の異民族奴隷を従えている。王族などの特権階級が存在しない厳格な共和制であり、政治は全て直接民主制により意志決定される。間接民主制は全く採用されていない。投票は魔力を利用して効率的に行う。この風習から、魔力を使えるロマネスク人と例外的に才覚ある異民族が市民階級とされてきた。国家運営は急激な革新こそないものの堅実であり、人口構造や財政も安定である。現在、ユリゴア大陸でもっとも規模の大きい先進経済連合――別名グランドユニオン――と、戦争状態にある)


 現代日本とはずいぶん違う国だな。古代ヨーロッパっぽい。あれだ。共和制時代のローマ帝国だ。帝政になる前の。王様とか皇帝とかいないんだな。だぶん、元老院とかがあるんだろう。代わりに。


 俺がいる国と戦争している国についても知りたいな。先進経済連合だっけ。


(先進経済連合。別名グランドユニオン。いくつもの資本主義国が統合してできた巨大連合。高度資本主義が発達している、高度福祉社会である。魔術文明ではなく、機械文明が発達している。人口二百万人の共和国に対し、人口一千万人の大国なのだが、高度福祉社会の問題である少子高齢化に悩まされており、財政赤字が深刻である。この国では政府=巨大企業集団コングロマリットであり、資本家が多くの実権を握っている。世論と労働者の不満を国外へ向けるため、共和国の所有する魔術文明を我がものとするため、半年前から共和国へ宣戦布告した)


 なんだか、敵国は前世の先進国に似てるな。少子高齢化とか。財政赤字とか。というか、向こうの方が大きい国なのか。劣勢なのかな、俺の転生した国?


 あとは、何を調べればいいだろう。あと二つだな。戦争と俺自身のこと。


 今起こっている戦争は、体制戦争という名前らしい。社会体制が違う国同士で起こった戦争だからだろう。


(体制戦争。半年前の七月に開戦。当初は国力で勝るユニオンが電撃的勝利を収めるかに思われたが、共和国の保有する魔物軍に苦戦し、局面は長期戦の様相を呈している。開戦三か月は大規模な戦闘があったが、どれも共和国軍の勝利に終わっている。しかしユニオン側も主力を全て失ったわけではなく、新型の機動兵と機動兵器の開発・投入を急務としている。後半の三か月は小規模な小競り合いが散発する程度で、大きな戦闘は一度も起こっていない。年が明けて、ユニオンは大規模作戦を実行に移そうとしているとの情報もある。これ以上、戦争が長期化すればユニオン側の反戦世論が大きくなってしまうためだ)


 共和国、意外と強いんだな。魔物が重要な役割を果たしているようだ。俺ももしかしたら活躍できるかも? いや、ないな。主人にあんまり期待されてなかったし。雑務とか、後方支援とかのあんまり重要じゃない軍務につくのかもしれない。


 最後に、俺自身のことを調べてみよう。魔物の俺のことを、詳しく知りたい。


 だが、返ってきた説明はあっけないものだった。


(この魂が有する魔獣格――グリムベルデ。漆黒の毛皮に黄金の爪と一本角を持つ熊。体長約七メートル。体重二千五百キロ。魔界の極圏に単独で生息する。有する能力は多いが、それらはすべて平均値。冴えない器用貧乏の魔物)


 なんだかがっかりした。調べなきゃよかった。


 失望と共に、眠気がやってきた。もうかなり遅い時間だ。あとは体を休めて朝を待とう。


 明日から、俺の魔物ライフが本格的に始まるのだ。


 ……おやすみ。冴えない俺。






 


 

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