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契約

前回までの簡単なあらすじ


不慮の事故で死んでしまった主人公、俺。


異世界に熊の魔物として転生するも、目の前の主人と従者から外れ扱いされてしまう。

 神様に言われ、異世界に転生した俺。


 しかし、生まれ変わったばかりの俺を、主人の美少女はそれほど歓迎していない。幸先良くはなさそうだ。


「でー、どうするの? アズ? 再召喚する?」


 主人の左にいる従者(もしかすると先輩の魔物かもしれない。人間の頃はなかった感覚だが、魔物になると同族かどうかが肌でわかるのだ)が、悪戯っぽく中央の金髪少女に聞き返す。


「気にいらないならば、それもよさそうだが。だが、どのみちメモリーの問題だ。引き直しても改善されるわけではないかもしれんぞ」


 同じく右側に使える武人が意見を添える。彼女は左側の気まぐれっ娘よりも現実主義者な感じだ。三人の中で一番俺に関心がなさそうでもある。三人の中で圧倒的な力を感じるから、自分よりも弱い俺に興味が無いのかもしれない。単純な力では、中央の令嬢よりも多分上だ。武人の灼眼にねめつけられただけで、俺の体毛が逆立つ。


「どうするもこうするも。契約するしかないでしょう。悔しいけど、召喚獣を呼び寄せられる私の容量メモリーの問題ね。ベルベラの言う通り」


 中央の金髪令嬢は、そういって右の武人女性を一瞥した。あの強そうな紅髪の美人は、ベルベラという名前だったな。あと、右のおちびちゃんの方は……。


「キイラの案はおあずけよ。再召喚しても、同じ程度しか呼び寄せられない。残念だけど、時間の無駄ね」


 おちびのほうは、キイラか。たぶんこの娘も魔物だろうな。気配でわかる。容姿が二人より幼いところを見ると、まだ幼体なのだろうか? でも、俺より強そうだ。天真爛漫な彼女の両目から放たれる視線は、完全に俺を舐めている。くそう。こんな子供に侮られるとは。今の俺、そんなに弱そうに見えないのにな。ちょっと悔しい。いい働きをして、見返せればいいんだけど。


 それにしても、俺に全く発言権が無い会話だ。目の前で繰り広げられているのに、完全に蚊帳の外。巨大なクマの石像か何かだとおもわれているのだろうか。どんどん三人のやり取りに置き去りにされていく。少し参加したいが、喋るなと命令されているしな。どうしようか。西遊記の孫悟空みたいに懲罰されるのも嫌だし。


 だが、心配は杞憂に終わった。意を決した金髪の主人がこちらを向く。


「契約をするわ。この私、アズメリア・アヴェンタゴールドと主従の契りを結びなさい。共和国の十三名家の一角である我が一族の下僕として、その命をささげるのよ」


 これ。断れないんだろうなぁ。何語かわからないような口上を、すでにむこうは口にしてるし。両脇の従者二人は、俺が妙な真似をしないか注意深く主人のかわりに見張っている。俺を逃がすつもりはないようだ。


 (そういえば、通常の会話には困らないのに、むこうが話す魔術語みたいなものはさっぱりわからない。どういうことなんだろう。なにかわけがあるのか……?)


 しばらくすると、自分の胸に灼熱の痛みが起き始めた。最初は焚火に手をかざしている程度だったが、徐々に耐えがたいものになってくる。赤熱した金属を押し当てられているような感覚。焼印だ。獰猛な獣のうめき声が、俺の犬歯が生えた口から洩れる。眉間にしわが寄った恐ろしい猛獣の表情が見えているはずだが、三人は気にしていない様子だ。


 じきに、灼熱の痛みが止んだ。顎を引いて胸部を確認すると、精細な金細工の花を背景にした紅い十字架の紋様が、刻まれている。色鮮やかだ。俺の黒い毛皮を下地にして、金色の花弁と鮮血の十字架があるのだ。痛かったが、なかなかかっこいい。どこの所属か一目でわかる。


 口上を唱え終ったアズメリア(俺のご主人さまだ)が、静かに俺を見据える。


「終わったわ。これからは、名門貴族の僕として恥ずかしくないような働きをしなさい。……ベルベラ。キイラ。下がっていいわ。この駄熊と少し話がある」


 従者の二人は目で合図した後、黒い光に包まれ、一瞬で消えた。すごいな。瞬間移動だ。どうやってやるんだろう、あれ? 俺もできるのかな。晴れて貴族に服従する魔物になったことだし。


 大きなホールの反対側から、金髪のご主人さまが歩み寄ってくる。高そうなブーツが大理石を規則的に叩く音が、俺の背筋を自然と伸ばす。


 ずいっと俺を見上げ、体の隅々まで値踏みする。だが、そこにはあまり明るい感じはない。欲しくないが無理やり引き取らねばならなかった遠い親せきの遺品をながめるようだ。歓迎されている感じは依然としない。おしゃれで美人な女性が、自分に似合わない服を着なければならないときに、ああいう顔をする。やれやれ。俺はファッショナブルじゃないようだ。


「冴えないわね」


 それが、主人の第一声だった。


「は。申し訳――」


「――喋るな。駄熊」


 ぴしゃりとまた言葉を遮られる。うやうやしく受け答えしようと思ったのに。


 息をのむほど澄んでいる碧眼が、ニヒルに細められる。


「未熟なものね。せいぜい、全てが平均値。筋力、敏捷性、総魔力、術力、頑健性――すべてがほぼ魔獣の平均でしかない。五つの合計値も平均水準。中級のなかの中級ね。中の中の、中。魔物の五大要素がこれなら、特殊能力の方も期待できないわね。調べるまでもない」


 どうやら俺は、ものすごく平凡な存在に転生してしまったようだ。まあ、前世でも凡庸な人間だったし妥当と言えば妥当だな。


 主人アズメリアの値踏みは続く。新しい俺の身体は、どうも落ち着かないと尻尾が左右に揺れるらしい。


「上級の魔物しか配下に加えない主義だけれど。時代が時代だし、折れるしかないわね。まあ、私が使う不死兵の将校クラスは軽くなぎ倒せそうだから、足手まといにはならなさそうだけれど。これからの戦で使い道があるかは疑問ね。先進経済連合国グランド・ユニオンの軍勢は、巨界龍バルフートのベルベラと銀神鷲フレスベルグのキイラで足りているし。たまっている小規模作戦に参加させようかしら」


 独白しながら、アズメリアは俺の周囲をゆっくりと一周する。隅々までよく確認するつもりだ。


「翼は生えていないのね。上級の魔物でない証拠だわ。位の高い魔物には、必ず翼があるもの。ふう。三体目となると、私もまだまだなのね。先の二体で油断していたわ。この名家の次期当主である私が。中級だなんて。気高い私の人生の恥になるかもしれないわね。でもいいわ。認めましょう」


 見ためから推測はできたけど、ものすごいプライドだな。少なくとも平均レベルの実力はあるはずなのに、それを配下にするだけでこの長口上だ。少し辟易する。というか、


(めんどくせぇ……)


 という表情を出しかけたが、ギラリとご主人様の牽制に遭い、至って真面目な顔をする。危ない、危ない。ばれてないよな?


「つぎにその下品で無礼な顔をしてみなさい。懲罰の呪文でお前の悲鳴をこの屋敷中に響かせるわ。我が一族の広大な敷地の隅々までね」


 やばい。ばれてた。冷や汗が首筋を伝いそうだ。


「その様子だと、魔物になってから日が浅いみたいね。でも、それが主従を履き違えていいことには決してならない。私の命は絶対であり、貴様の私への忠誠は永遠。そう肝に銘じなさい」


 そういうと、金髪の貴族令嬢はこちらに右の人差し指を突き出した。指先に、黒い霧の球体が生まれる。そして、その球体から一筋の流れがうまれ、それは俺の額へ流れていく。


「配下の魔物は、主人と記憶を共有できる。全てを説明するのは億劫だわ。だいたいは主人である私の知識を脳に埋め込んであげる。ありがたく思いなさい。今晩のうちに記憶を自分で整理して、明日からは私のもとで働いてもらうわ」


 黒い球体から流れ込む記憶が、俺の脳を支配する。まるでパソコンにデータをインストールするようだ。さまざまな情報・知識が流れ込んできて、吐き気すらする。前頭葉がズキズキした。大量の情報がありすぎて、どれから手をつければいいのかわからない。知識の海で溺れそうだ。


 だが、そんな俺の状況を主人は考慮してくれない。


「返事をなさい。いいわね?」


 くらくらする意識をおさえ、なんとか返事をする。


「……は。かしこまり、ました」


「主人への挨拶はもっと洗練された形でなさい。すこし脳に情報を与えられただけでこれとは、情けないわね。お前の地下牢へやに送るから、あとは自分で新しい記憶に馴れるのよ。明日、呼び出されたら素直に召喚に応じること。いいわね?」


「は! かしこまりました!」


 今度は前よりうまく言えた。下僕になって早々、これ以上失望されたくない。ただでさえ、最初の期待値が低いのだから。


「わかったわね。では、明日の召喚を待ちなさい」


 白磁気の右手がかざされる。それと同時に、俺は黒い蛍火に包まれた。


 一呼吸後には、湿った緑色の地下室に送られていた。一昔前の動物園の檻みたいな部屋だ。大型の肉食獣が歩き回れるだけの空間はある。地下なのに天井も広い。十メートルくらいはあるだろうか。薄汚れたカンテラが、弱弱しく部屋を限定的に照らしている。ベッドもあった。だが、せいぜい人間用のシングルベッドだ。魔物の姿では寝そべれそうもない。


「……ここが、新しい家、か。なんだか、じめじめしてるな。前の住んでた部屋の三倍は広いけど。でも学生の一人暮らし用マンションより、いい家賃しそうだな。うへぇ。ここ、水漏れしてコケとキノコ生えてるよ。しかも、良くみたらどっちも発光してるし……」


 威圧的な主人から解放され、独り言が止まらない。落ち着きたいのかも知れない。黒い床と壁の地下室で、明りは古いカンテラと発光苔と発光キノコだけ。素敵な住まいだ。


「そういえば、さっき送りこまれた記憶を、チェックしないと。不手際で懲罰はいやだし」


 思い立って、俺は頭に送り込まれた数多の記憶を調べてみることにした。


 調べ方は容易だ。何度も暗記したテスト前の知識を確認するみたいに、疑問に思ったことを思い浮かべればいい。そうすると、関連した情報とその説明が引き出される。便利なものだ。魔物とは。


 手始めに、さっきの会話ででてきた、幾つかの用語を調べてみよう。


 幸い、眠くないので夜は長そうだ。







 


 


 


 

※評価してくださった方がいました。励みになります。ありがとうございます。

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