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界遊記  作者: かえで
超界元ユークリッド

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険しき秘湯への道

 ゲートを抜けたギューの眼前に広がるのは、海だった。

 海といっても、波の音が心地よく耳を打つ青い海ではない。

 業火が視界を覆い尽くす、火の海だった。大火は、暴風雨のようにゴーゴーと唸り声をあげ、それが前後左右から迫る。

「えっ!?」

 ギューは思わず絶句する。

 状況が即座に理解できなかったからだ。

 自分は、確かにエリクシールに≪洞≫のゲートの作成を依頼した。それは当然、ジルゴの待つ町へ続くものだと思っていた。

 だが。

 どこかはわからないが、戦場の真っただ中に送り込まれたのか。はたまた、多少場所がずれて、森林火災の中心部にでも落とされたのか。

 しかし。

 炎の向こう側に見える、乱れ狂う炎の圧で既に崩れかかっている小屋に、少年神勇者は見覚えがあった。

 あの形状とサイズは、間違いなくジルゴの小屋だ。

 ギューは、惨状に気づいたと同時に走り出していた。

 以前のジルゴなら敵など簡単に退けただろう。だが、今は違う。

 小屋に近づいていくにつれて、燃え盛る炎が原因で発生した陽炎かと思っていた小屋の周りに立ち上る黒い影が、何人かの巨人であることに気づく。

 その瞬間、ギューの表情が怒りで歪む。

 まさか。

 こいつらは。

 自分がいないときに、ジルゴとアミツ、そしてジアを襲ったのか。

 焼き討ち。

 もともと、自分達より小さい存在が、巨人である自分達よりも身体能力で上回っていることが気に入らなかった。そして、賢いことも。

 小さい存在が劣っているという考え自体が、ひどく滑稽な話ではあるのだが、なぜか巨人たちはそう信じて疑わなかった。

 小柄なアミツが虐げられたのも、それが原因だ。

 そして。

 小さいが強く、生意気なその存在を町の衛兵として設置する。そうすることで、強き者を相対的に自分より下に置くことが出来た、と溜飲を下げたつもりになっていた。

 だが、それでもヘイトは集まり続けていたのだろう。

 巨人のコミュニティ内でもある程度の温度差はあるものの、一部の過激な思想を持つ者たちは、小さく強き者の立ち位置の、いわゆる『遊びの部分』の存在すらも許せなかったということなのか。

 その思考が、小さく強き者の排除に向かうのは時間の問題だった。

 そして。ジルゴは売られた。研究機関に。

 だが。

 現在のジルゴは、モルモットとして機能しなくなっていた。

 ディーガレン国にギューが行くことになったのも、五体満足ではないジルゴに代わり、『疑似仮想空間』の研究を手伝うためだ。

 しかしそれは、この町の人間がディーガレンの幹部連中にジルゴの存在を伝えたからこそ、起きてしまった出来事なのだ。

 それなのに。

 売り渡しただけでは飽き足らず、騙し討ちのようにその小さく強き者の家に火をかけるとは。

 ディーガレンに行った結果、ギューは少なくとも、ジルゴの待つこの町の危機だけは回避できたと思っていた。

 ところが。

 ジルゴを売った奴らは、ジルゴがここに残ったことに対し、勝手に怒り、勝手に彼らをつるし上げ、勝手に彼らを処刑すべきと断罪するに至った、ということなのだ。

 実際に売ったかどうかより、姑息で卑怯な裏切りを繰り返す巨人が、ギューには許せなかった。

「何でだよっ! あんたらは人間じゃないっ!」

 ギューは小屋を取り囲む人影に向かって、激しい怒りを伴った攻撃を仕掛けようとした。

 だが、巨人たちが皆上空を見上げていることに気づき、攻撃を止める。

 彼らの視線の先には、見覚えのある飛行機がかなり小さく見える。上空に漂うその姿は、遥か上空まで高度を上げ、既に危機を脱しているようだった。

 おそらく、巨人たちの投石もそこまでの高度には届くまい。

 その証拠に、巨人どもはギューにもわかる罵詈雑言で、飛行機の中にいるであろう者たちを激しく罵っていた。

 間に合ったのだ。

 ディグダインとネスクが、この地をギューに託して離れ、ジルゴを救うために突貫で取り掛かっていた、輸送手段である飛行機の改造作業が。

 そして、紅蓮の炎が町を包む中、飛行機が到着したのではなく、既にジルゴとアミツ、ジアを搭乗させ、上昇した後であるということも、ギューにはわかった。

 ほっと胸を撫で下ろすギュー。

 だが、それはそれとして、この巨人どもの裏切りは許せない。

 石を持って投擲をしようとする数人の巨人の腹部に、ギューの≪天空翔≫からの飛び蹴りが炸裂し、巨人たちは皆、奇声を挙げて蹲る。

 殺すことはしない。それが憧れのファルガに倣った『討伐』だ。

 だが、逃れさせることも当然しない。

 万遍なく巨人どもを打ち倒したギューは、そのまま飛行機に向かって飛び上がった。

 紅蓮の炎の海から立ち上る、青白い光の矢。

 それは、ジルゴを追い詰めようとする急進派以外の、比較的穏健派であった巨人たちの目にはどう映っただろうか。

 怒りに任せてではあるが、強硬派には武闘による糾弾はした。だが、ギューの命を賭けた意思表示に対し、彼らは反省も後悔も、万に一つもしないはずだ。また別の対象を見つけて牙を剥くだけだ。

 そして、穏健派は、今回の件について、『それみたことか』とは思っても口にはしないはずだ。彼らにとっては、不満を抱く対象も、その不満を伝える対象にもできれば関わりたくない。関わらないことが出来るならそれが一番、と沈黙無視を決め込むつもりなのだ。


 ギューの到着に気づいたネスクは、上空にある飛行機のハッチをコントロールし、ギューを招き入れた。

 ≪天空翔≫を駆使して、飛行機内に飛び込んだギュー。

 そこには、車椅子に座ったジルゴと、ジアを抱き上げるアミツ、そして、デイガ界元の神勇者ディグダインと、もう一人の神勇者ネスクがいた。

 無事を労おうとしたネスクを左手で制し、無言でギューを見つめるディグダイン。

 ディグダインは、言葉ではなく視線でギューの判断ミスを指摘したのだ。

 しばらくの沈黙を守るギュー。

 だが、ぽつりぽつりと言葉を口にしだす。

「……わかってます。

 僕は本来、この地を空けるべきではなかった。

 でも、そうしないとジルゴさんたちが……」

 ギューの訴えを無言で聞き、そのまま受け流すディグダイン。

 そうなのだ。

 ディグダインとネスクが飛行機を取りに行っている間、この場所の守りを放棄し、ディーガレンの首都に行く選択をしたことが、町の人間の暴走を許す原因となっているということなのだ。

「……すみません……」

 感情が高ぶりつつあったギューの心が、急激に冷えていく。

 結果的に、ディーガレンの大統領の命を救い、フギョリという男の野望を阻止した。

 だが、それはあくまでディーガレン国という国家の問題であり、ギュー達が干渉すべき内容ではなかったということだ。

 ギューは、ジルゴの代わりにディーガレンに行くことそのものが、神勇者の判断としては間違っていたのだということを痛感させられた。

 ファルガに指摘されたのは、空間生命体による『疑似仮想空間』の技術について、現次や高次には絶対に使用させてはいけないこと。そして、どんな事情があれそれを容認するのは論外であること。

 更にその後で、ディグダインに指摘されたことは、守るべきものを残して攻めに転じてはならないということ。

 その二つと判断は、今後のギューの行動指針に深く影響を及ぼすことになる。

 たまたまタイミングで間に合ったが、本来であれば、戦う力を失ったジルゴと、その彼が守らなければいけなかったアミツとジアの命を、ギューの勝手な判断で危険に晒してしまったということなのだ。

 ギューは改めて、自分の失策に気づき愕然とする。

 行動原理も行動結果も。

 全て自分一人では正しく振る舞えなかった。

 こういうときはどうすれば良いのか。こうしたいときには何をすれば良いのか。

 そこから違った。

 大前提が間違っていたのだ。そして、それに伴う判断そのものも。

 そして、ファルガに助けられ、ディグダインに指摘されるまでは、それに気づいてすらいなかったという事実そのものが、ギューにとっては大きなショックだった。

 まだ、憧れの先輩神勇者たちのような、理路整然とした行動はとれない。

「……分かったようだな。

 ならばそれ以上は言うまい。もう我々はお前を子供としては扱っていない。界元を代表する、一人の神勇者として扱っている。

 その神勇者が、初めてとはいえ感情に流されて単独行動をとることは、許されないことなのだということを知れ」

「……はい」

 ギューの本心から出た返事だった。

 そのギューの眼差しから、事態を理解したと察したディグダインは軽く頷くと、ネスクに指示をする。

「では向かってくれ。秘湯の地へ」

 ネスクは頷くと、飛行機をゆっくりと動かし始めた。


「奇跡の泉と呼ばれる場所が、正直ジルゴに効果があるかはわからん。だが、それでもそこに行って試すしか、ジルゴの状態を改善させる方法が思い浮かばない。

 それほどにジルゴの容体は芳しくない。

 もはや自然治癒が望めないほどの、全身粉砕骨折だったからな」

 ディグダインは、シールドの内側に映し出された文字を読み、理解をしながらギューに今度の流れを説明する。

 飛行機の操縦からはネスクも手を放している。操縦席には誰も座っていないが、手を触れずとも行き先が分かるため、自動操縦で目的地まで行くのだろうか。

 その機能もこの短時間で付与したということか。

 まだ、着陸の瞬間には人間の目が必要になるだろう、ということまでディグダインは説明し、ギューに対する情報共有を終了させた。

 ギューは、ディグダインがいないところでジルゴに謝罪された。

 車イスに座ったまま頭を垂れるジルゴは、本来はギューよりも長身かつ芯も太く見えるはずなのに、妙に小さく見えた。それは、傷んだ体のせいと、動かなくなり筋肉が落ちた事だけが原因ではないだろう。

 ギューには、ジルゴの弱った様が痛々しく感じられた。

 本来であれば、ジルゴはアミツとジアの守護は自分で行いたかったはずだ。だが、体がそれを許さない。

 結果的にギューが代わりになって活動することで、事態は収束してきたが、やはり、これは私闘の類いであることは、ジルゴもよくわかっていた。

 だからこそ、ギューが動いてくれたことに対して、そのままそれに甘んじておくのは忍びなかったし、その件でディグダインに怒られることも、ジルゴからすれば、本意ではなかった。

 何故なら、神勇者としては不可だが、人としては、決して許されない選択ではないのだ。

 その一方で、ギューが何も言わずに代わりに行ってくれたことが、何より嬉しかった。

 恐らく、他の人間でも依頼すれば行ってくれはするだろう。

 だが、やはり様々なことを気にする。

 神勇者の力を私闘に使ってよいのか。

 空間生命体の力を現次に使わせてよいのか。

 言い出せばキリがない。

 人間という存在は、経験を積めば積む程、歳を経れば経る程、行動を起こすことに対しエネルギーが必要となる。その行動を阻害するのは、常識だったり偏見だったりと、それは人によって異なる。その阻害する様々な『要素』を押さえ込むのに、エネルギーが必要なのだ。そして押さえ込むのは自分の精神力だけなのだ。

 恐らく、ジルゴですらそのはずだ。

 だからこそ、神闘者ギデスのマラディ討伐を拒否した。マラディ討伐は必要だ。だが、大義が違う。

 もちろん、その必要性を感じなかったからだし、ギデスがマラディを討とうとする行為は、私闘以外の何者でもない。それは、エリクシールが最も嫌がる行動でもあるのだ。

 だが、ギューは動いてくれた。ジルゴの家族を守るための私闘に。

 幼さと言えば終わってしまうギューの心が、ジルゴにとっては、まるで吹雪の中のマッチの火のように、儚く美しく見えたのだった。


 飛行機の中にいると、時間の経過がわからない。

 その体感が飛ぶ方角によって変わるのは、把握はしているつもりでいた。

 しかし、実際にそれを体験してみると、時間の経過などわからない。ずっと太陽を追い続ける事であり、それは夜から逃げる行為でもあるからだ。

 だが、その追いかけっこも、終わりを告げようとしていた。

「上空が赤く染め上げられている……」

 ディグダインは、眼前に広がる赤い海が、超巨大な火口に溜まった溶岩であることはすぐに理解した。

 しかし、とにかく巨大だ。少し高度を落とすと、火口に溜まった溶岩が織り成す景色には、水平線を含まなくなる。一目で見渡すのはまず不可能だった。

 迫り出す崖から周囲を見渡したときに、視野には入りきらない感覚。それは紛れもなく、大地が海を囲っているのではなく、大地が海に囲われているのだ。

 それを、この上ないほどの実感として体感したことがある人間であればあるほど、この火口の巨大さがわかる。それは、どの海を示した表現よりも、大海だった。

 美しい世界だ。

 燃え盛る溶岩ですら、自然の圧倒的な力としては美しい。そして、同時にこの地で生きられる生物などいないだろう。恐らく超妖魔ですら、実体化してこの深紅に輝く海に落ちたら、消滅の憂き目にあう。

 そして。

 そんな恐ろしい火口から『少し』離れた所に、その奇跡の泉はあるらしかった。距離としてはかなりあるが、相対的にみれば『少し』なのだ。

 聞いた話では、火口の麓に小さな集落が存在するらしい。その集落の人間が、無数に出来たと言われる奇跡の泉を管理しているとのことだった。

 ユークリッドのこの星に住んでいるジルゴやアミツですら聞いたことのない集落名。

 この星に、そんな急激に観光スポットとして栄える場所などあるのだろうか。

 だが、そこは確かに存在した。

 上空から見下ろすと、巨大な泉が幾つかあり、それが蒸気を吹き出しているのがわかる。泉と呼ぶにはあまりに大きい水の溜まりが白濁しているのはわかるが、臭いがしないのは、その臭いの元である硫黄が空気より重いため、よほど風が強い日でもない限りは、上空まで臭ってこないのだろう。

「ここなのか?」

 ディグダインの問いに、ネスクが答える。

「その筈だけど……」

「ファルガの言っていた温泉地というところは、もっと人が大勢いるらしいが……」

 ディグダインは、ファルガに言われた記憶と、ハイコンピューターによる照会結果を確認しながら、慎重に周囲を伺う。

 敵の有無より、殺伐とした灰色と黄色の景色に、思わずかつて聞いた『地獄』を思い浮かべるギュー。

「私たち、下に降りてもいいのかしら」

 飛行機の着陸は、ディグダインの操縦によって、適切かつ丁寧に行われたが、他の操縦士であればとてもではないがこの地には下ろせなかっただろう。ごつごつの岩場と斜面が続くこの地の、ほぼ見当たらぬ水平な地点を探して当て、そこに機体を見事に下ろしたのだ。

 飛行機の下腹部に設置されたタラップを少し下ろしたところで止めたネスクは、タラップの隙間から見える景色に内心気を殺がれながらも、ジルゴたちを不安がらせないために、勤めて明るく振る舞った。

「ハイコンピューターは、問題はないと言っているがな、ジルゴの体力にもよる。直ぐに≪回癒≫を使えるように準備はしておいてくれ」

 ディグダインはそういうと、周囲の索敵を始めた。

 地下に蠢く物はいる。だが、地上の動きに対して反応はない。こちらに気付いているが、自分達に影響はないと判断したということなのか。

 ディグダインの安全確保が済み、タラップが下がり始めた。そこには、車イスを固定されたジルゴと、ジアを抱くアミツが乗っている。

 ジルゴの乗る車イスのデザインが若干変わっていた。飛行機にのせている間に、駆動部が改良されているようだ。

 車イスは、通常なだらかな箇所しか走らないが、ユークリッドはまだそこまで舗装がなされていない。それゆえ、ネスクは車イスの車輪部をキャタピラに改造したのだった。キャタピラの車輪部の数を増やすことで、より岩場の凹凸をうまくいなしながら、使用者に衝撃を感じさせない作りになっているのだ。

 先頭をディグダインが歩き、ジルゴの車イスをゆっくりと押すギューが続く。ジアを抱くアミツの後ろで、ネスクが殿を勤めた。

 辛うじて道と判別できる岩場の中の、比較的なだらかな部分を進んでいくと、集落の存在を知らせる岩を組み上げて作ったゲートがある。

 ここから先は、その場所に人が住まう。ということは、当然ルールが有る。そのことを知らしめているのだ。

 温泉町の案内図がペンキらしきもので描かれている。もちろん縮尺は正確ではないだろう。大きい温泉はより大きく、群生型の温泉はより細かく。デフォルメして描かれている。

 そこに、ギューは懐かしい名前を見つけた。

 『カインシーザの井戸』。

 一瞬目を疑う少年神勇者。

 どうやってもカインシーザとこの地の温泉が繋がらないのだ。

 しかも……井戸?

 説明文を読むと、家庭で使う温泉の湯を汲むための井戸と記してある。

 首を傾げるギュー。

「進んでくれ……」

 足が止まったギューに、ジルゴは前進を促すのだった。


 町の中の喧騒は、町の外の廃れた雰囲気からは想像できなかった。

 町の外の風景は、良くて地獄と評することができた。

 辺り一面灰色だった。そして、所々に黄色や緑の粉末が吹き付けてある。

 それだけだった。

 緑など欠片もない。

 土もない。

 あるのはごつごつした岩と、それが風雨で砕かれ変化した砂。ここに、ほんの少しだけ栄養があった。その砂を住処にしたバクテリアが、少しずつ有機物を分解し栄養分としたのだ。

 こんなところに人はおろか、動物でも生きていくことは困難なのではないかという過酷な環境だった。

 だが、そこに人々は移り住んだ。

 元々肥沃な土地ではなかったが、獲物がいたのだ。そこに狩人が集まり、狩人が滞在する山小屋が元々のこの町の発端だった。一時は『山屋敷』とさえ言われた町の発展。しかし、その栄華も長くは続かなかった。

 火山活動に起因する地震による地滑り。数少ない獲物たちはこの土地を捨てた。更に、『巨人の地団太』と呼ばれたダウンバースト。

 これらの複合的な要因が、この町を廃れさせた。

 この町の男たちは出稼ぎに行き、そこで山賊行為を行い、そして討たれた。町には女性のみが残された。

 とある男が、この町の男たちの遺品である短剣をこの地に持ち帰った。

 そして、彼はこの町の温泉を整備し、立ち去ったという。

 奇跡の泉を求めてこの地を訪れたジルゴたちは、温泉宿を始めたばかりという女性に導かれ、宿をとる。

 部屋に通された彼らは、そんな話を聞かされた。

「それが、カインさんだっていうのか……。そういう事、凡そ苦手そうだよな、あの人。しかも、関わるなって言ってた張本人が、ここまで積極的に関わるかなあ」

 温泉街の入口の看板を見てからというもの、宿に入った後の散策に出た際にも幾多の温泉街の人々の口から聞かされる、武勇伝はともかく先輩神勇者の聖人のような逸話を聞くたびに、ギューは傾げっぱなしであった。

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