虚ろな研究結果
「君がギュー君か。
チニゼ君より報告は受けている。
道中では、当方のエージェントに粗相があったそうで、君には不快な思いをさせて申し訳なかった」
ギューの出身である、ギラオ界元のとある星で盛んだった『卓球』というスポーツ。この競技ができそうな程に大きい机上面積を持つ様に思えるデスクの向こう側に立つ老人。
隙間の多くなった頭髪は白く、後ろに向けてキチッと撫で付けられ、皺や染みも少し見受けられる風体だが、金粉をほんの少しまぶしたようなグレーのスーツに身を包むその男性は、ギューの知るどんな老人よりも背筋が伸び、覇気に満ち溢れ、同時に品性も持ち合わせていた。
背後には、外の景色が見える巨大な窓があったような気もしたが、そこから何が見えるのだろうと意識を凝らすと、白が基調の落ち着く装飾の施された壁でしかない。老人が背後に立つデスクも、木目調のものだったと思っていたが、今改めて見てみると、漆黒のデスクであり、木目などどこにもない。大きさも、漠然とした卓球台ではなく、はっきりと寸法がわかる。残念ながらメジャーを持ち合わせてはいないが、今の解像度ならば、当てれば確実にメモリは読めるだろう。
思わず目を見張るギュー。だが、人間は色すら記憶違いすることもある。思い込みもあるだろう。
そう思ったギューは、あまり気にしないようにした。気持ち悪さというか、居心地の悪さは相変わらず残っているものの……。
どうもふわふわする感じだ。
壁もそうだが、色が変わるというより、色がまだ決められていないとかデザインが決まっていないとか、そういうものを見せられている気がする。
今、はっきりと『決まって』いるのは、長官とおぼしき老人がグレーのスーツに身を包んで、デスクの向こう側で立っていることだけだ。
他のものについては、そこまで安定していないような……。
そこにそれがあるのはわかるが、境界がわからない……。通過するのに思い切り距離を取れば間違いなく通過できるが、どの時点でその物体と接触するかという判断が、非常につけづらくなっている。断言できないという表現が一番的確か。本人が実際に見ているはずなのに……。
まさに、それは『確率』……。
そう感じたギューは、自問する。
(安定していない、って自分で思ったけど、それはどういう意味なんだろう?)
何を以て、安定していると思ったのか。そもそも、この空間は、いろいろと不安定だった。寸法から、スピードから、色合いから、形状まで……。
目に入る物も、同じ所の同じ物を見ているはずなのだが、これだ、と断言しづらいデザインと色合い……。
目の前にあるデスクを例にしてみれば、木目調だと思っていたものが漆黒であったり、大きいと思ったものが、それほどでもなかったり……。
確定していない。
ギューの出した結論は、それだった。
ギューは、長官を名乗る男の謝罪を受け取った。
大した問題でもなかったし、それ以上にあの程度のことで腹を立てている場合ではないと感じていたからだ。
それに何より、それ程あの恰幅の良い黒服の男・ドゥエイブのことを憎めなかったのだ。
「そうか、それならよかった。
これから、ギュー君には我々の研究を手伝ってもらいたいのだ」
研究? 何の?
ギューにとって純粋な疑問だった。
この三人の黒服は、ジルゴを連れてここに戻って来るよう命を受けていた。
しかし、ジルゴは勿論のこと、ギューも、ジルゴがここに何のために連れてこられるのか、という理由については、全く知らされていなかったからだ。
音がしたわけではない。景色がぶれたわけでもない。
だが、ギューはこれらの現象をこう表現する。
『世界がカチッと音を立てて安定した』。
実際、先程までわからなかったデスクのデザインは勿論、長官の立つ背後の壁の装飾、そして天井にある照明器具まで、今度ははっきりと分かった。やはり、デスクは木目調であり、背後の壁の装飾はそのままだったが、壁は白ではなく薄茶色だった。
ギューは、思わず目をこすり、瞬きの回数を増やす。
惑わされている? 幻覚を見せられているのか?
敵と戦った際、幻惑してくる相手は何度も相手にした。
それは、自身の感覚をずらしてくる相手であったり、幻覚を見せる相手であったりと様々ではあったが、今回ギューが感じたものは、それらとは全く異質だった。
戦闘での幻惑は、認識を誤らせたりずらしたりさせるのが目的だが、今回感じているものは、幻覚ではないことははっきり分かった。物は実在する。しかし、安定していなかった。
固定。安定。正常。
何者かが、世界のそれらを壊してしまった。
そう表現するのが正しいと思えた。
そして、今やっと世界が『普通』になった。
「貴方が長官……ですか。貴方は、一体何をしようとしているのですか?」
聞いたからといって、協力を止めようとは今の時点では思っていない。
だが、何かとてつもないことに取り組もうとしているような、狂気ともとれる歓喜を長官から感じていた。
もし、ディグダインやカインシーザなら、一度この長官と間を取っただろう。
時間的な間と、物理的な間と。
そうすることにより、今何か起きかけた事象で興奮しつつある長官が、冷静に戻ることを意図して。協力の有無は、その後の長官の所作から判断しても遅くない。
兄貴分のファルガならどうしたろうか。
彼なら、何となく協力する体で動くような気はする。
だが、その駆け引き自体は、まだギューには難しかった。
ギューから出た質問が、今のギューにとっての最大の警戒行動だった。
長官は、安定したこの部屋において、黒服の男三人に席を外すよう指示する。
男たちは一瞬怪訝そうな表情を浮かべるが、彼らが逆らうはずもない。
黒服の男たちのリーダー・チニゼは、長官よりの命を受け取ると、若干不満そうな様子を見せながらも、大人しく部屋を後にしたのだった。
ドアが閉まったことを確認した長官。
ギューには、その扉の色と形すら見た記憶がない。だが、ノブの所だけはしっかり記憶していた。
あの瞬間のノブは明らかに丸型だった。
しかし、今彼らが出ていった際に開けたドアのノブは、横に伸びたバー状のものだ。
そのバーを掴み、下にずらすことでドアの留め金がずれ、自然にドアが開く。また、そのノブを、ドアを閉めた際、きちっと上げて定位置に戻すことで、そのドアノブの構造上、ドアは風が吹いた程度では開かなくなる。
漠然とした形状の不安定さではなく、ドアのノブという用途のはっきりした物体の形状が安定しない。しかし、その形状変化はノブという用途の括りの中で動いている。
それもギューにすれば意味がわからなかった。
ドアノブは金属製ではあったが、形状は丸型から棒型へ。
更にそこで見ていたら、更に形状は変わった様に感じられたが、ノブという括りは外れない。ノブがいきなり短剣の刃になったり、生物の顔になったりはしない。
やはり、ノブの中での形状変化、なのだ。
安定してからのドアノブは、棒状だった。
実際には、それが本来の形なのだろう。
法則性はなんとなく掴めたギューだったが、わかればわかるほど、現象の意味が分からなくなるのだった。
カチッと『安定』する前は、寸法や色合いなどの体感情報は不安定だ。しかし、人間が付与した『ノブ』であるという情報は、それら体感情報より強く残されている。ギューがドアノブだと認識したものは、正確な色かたちは曖昧だが、ノブという、用途的な定義からは離れなかった。
そして、曖昧になっていたギューと巨人たちの身長差、それに伴うありとあらゆる物品の巨大さに愕然とする。今まで巨大だったのは、自然物とそれに伴う人間だけだったが、人工物の巨大さは、より本来のサイズ感がわかるために、巨大さが異様さに繋がり、不気味さに繋がるのだった。
ここに来たのがギューで良かったかもしれない。他の神勇者の面々が、この漠然とした事象の法則性に気付いたかは、甚だ疑問だ。
そして、この疑問をぶつけた時、ギューは長官から瞠目の事実を聞かされることになる。
「ほ……、本当なんですか? それ……」
ギューは心底驚いて、デスクの向こう側でギューに背を向けて話す長官に再確認する。長官は恐らく、表情を読まれたくないのだろう。
話の中身からすると、不気味な事案なのではあるが、この類いの話を喜ぶ科学者は、確かに一定数存在する。
恐らく、この技術庁長官も、同じタイプの人間に違いなかった。そして、それが公になることを理性ではいいことではないことは理解しているが、やはり迸る研究欲には抗いがたいものがあるようだ。歓喜の表情を浮かべているのがすぐわかる。
「うむ。間違いない。この私も現場に行って、現物を確認してきた。
今は、地下の保管庫にて厳重に管理している。この後で、私もそこまで行くので、その目で見てほしい。そして君の見解を聞きたい。その上で、私の見解も聞いてもらいたいのだ」
ギューの表情が曇る。
彼はまだ子供だ。だが、それゆえ与えられた情報の吸収は並外れている。小さい子供が図鑑の内容を丸暗記しているのに似ているか。
無論、その情報を、世間の常識というフィルタに投下させ、真偽を見抜くということは、子供には難しい。しかし、図鑑に出てきた内容での正誤判定はできる。
ギューの聞いた中身は、まさに図鑑の中の知識に照らし合わせた場合、天地がひっくり返るような内容だったのだ。
「……何億年も前の地層から発見された、恐竜の化石の中に、一体だけ全く化石化していない死骸があるなんて……」
太古の恐竜のロマン。
生き残りが居て欲しいと願ったギラオ界元での日々。
未確認生物に憧れ、本を漁った。実際に探検に行ったこともある。だが、子供のころの探検は、発見することが目的なのではなく、探検の雰囲気を経験することが大事なのだ。
勿論、その後『見守りの神勇者』の役割をこなすにあたって、様々な怪物を見てきたギューではあるが、そういった怪物を目の当たりにする機会のなかったギラオ界元において、恐竜は別格だった。
ロストワールドの覇者。
それが彼に与える心証は凄まじい。まるで雷に撃たれたという表現がぴったり合う。
だが、その一方で、ギューにはその化石化していない死骸が、恐竜の形をした何か別のものであるという事も、薄々感じられていた。
「……見せてください」
朱の鎧を身に纏った少年は、鋭く短く言った。
長官は頷くと、自身の席の背後のスイッチを押した。
壁が横にずれ、扉が現れる。決して小さい扉ではなかったが、長官室の広さから見れば申し訳程度でしかない。そして、ギューから見れば、その扉は城門の扉といえる規模だった。
そのドアを押し開けると、奥に延々と続く螺旋階段が。
長官は懐中電灯を使用し、ギューは指先に≪操光≫の光を灯す。
長官からすると、ギューの使う術にも興味はあったが、今はそれどころではない。
螺旋階段を何周降り続けただろうか。
薄暗い行き止まりには、南京錠で封じられた鉄製のドアがあった。取っ手の形状から、横にスライドさせるタイプのドアのようだ。
長官は南京錠を外す。と同時に、ギューは彼にとって巨大なそのドアを軽々とずらし、人が通れるだけの幅を確保するのだった。
「入ってすぐの左側に照明のスイッチがある。それで照明をつけたら、すぐに例のものを見る準備をしてくれないか」
長官は、ギューの一挙手一投足に注意を払っていた。まるで、自分もギューの使える全ての術を模倣してやろうと言わんばかりに。実際、スイッチを入れる際のギューの跳躍は、身長の何倍も跳んでいることになる。巨人である長官たちがそれほどに飛び上がることは不可能だ。
部屋に入るのと同時に、左側の壁に手を回すと何かパイプがあり、それに合わせて視線を這わせると、長官の言う通り、何かのスイッチがある。そのスイッチを抱えてねじるようにオンにすると、天井の照明が微かに灯った。更にそのスイッチを捩じっていくと、徐々に部屋を照らす光が強くなっていく。
「あっ……!」
ギューのような少年ですら、めったに出さないような呆気にとられた声。
それがギューの驚きを示していた。
コンサートの小ホール然とした空間。周囲は全て鉄板で囲まれており、外敵の侵入も逃亡も許さぬデザイン。天井からは、何基も照明灯がぶら下がっている。部屋を明るくすることが目的ではなく、特定の場所の物を照らすのが目的の強い照明。そこにはムードも何もない。
そして、その何基もの照明群が照らす物こそ、渦中の『化石になっていない死骸』だった。
手術台を彷彿とさせる、無機質な金属の台に横たわる、少し大きめの爬虫類と鳥類を足したような姿。
表面の大部分は角質が固くなり、乾燥した為荒れているような印象をうける。だが、全身を覆っているのは、想像していたような鱗ではない。腕の付け根や、足の付け根には、摩擦から関節を守るためだろうか、角質から毛とも羽毛ともつかぬ、短い何かが生え始めている感じだった。
体色は濃い茶色と濃い緑が分布している感じで、一言で何色かは表現しづらい。
しなやかな尾からは、強力な一撃が繰り出されたのだろう。だが、想像ほどくねくねは動かないようだ。恐らく、力を込めずともピンと後ろに張りだし、二足歩行時に頭部とのバランスを取るのだろう。
ドラゴンとは違い、唇のような部位があり口を閉じるとその鋭い牙は、完全に隠れる。角度的に見ることは出来ないが、頬袋があれば咀嚼も出来たのかもしれない。いわゆる肉食恐竜の類いなのだろうが、木の実などは食べたかもしれない。
妄想ははかどる。だが、その妄想も鵜呑みにしてはいけない。
なぜなら少年神勇者は、眼前のものが『恐竜の姿をした恐竜ならざるもの』の可能性に気付いてしまったから。
側でギューの挙動を注視していた長官は、少年の眼光が、憧れを目の当たりにしてときめくそれから、研究者・観察者のそれに変異したことを見逃さなかった。
そして、ギューの口から発せられる事実。
それは、長官の目を剥かせるも、抱いていた懸念を準えるものだった。
「この死骸は、本物ではないですね」
「……これは、レプリカではない。地層から確かに掘り出されたものであり、数億年前の地層から出たものであるのも間違いない」
長官は、少し動揺したが、その様を見事に隠しきろうとした。だが、ギューは止まらない。
「その事を言っているのではありません。
これは、確かに二億年前の地層から出てきたもの、という意味ではレプリカではないでしょう。そうではなくて、これは恐竜の死骸ではないのだ、と僕は言っています」
「……何を言っている?」
「これは、生きていますよ。まだ」
『生きている』というギューの言葉は、長官にとって想定外だったようだ。長官は二の句がつけずにいた。二億年前の地層から出てきたものが生きている?
「……厳密には、生きているという表現も正しいかはわからないんですけどね」
ギューは、少し咎めるような口調になった。彼自身、長官に試されているということがはっきりとわかったからだ。
いや、厳密にいうと、わかってはいた。だが、その狙いがわからなかったのだ。その為、長官の思惑がはっきりするまでは、彼も騙されている振りをするつもりだった。
「……もう、『これ』を使った技術の試作品は、とっくに出来上がっていますよね?」
ギューは、恐竜の死骸ならざるものを指差しながら言った。
長官は、観念したとでもいうように両手を広げると肩をすくめた。
「お見通しだな。
その通りだ。チニゼ君が君を連れてくる際に通ってきた、あの箱。それがまさにそうだ」
「そうでしょうね。
……もう、面倒くさいことは嫌です。
この国の一番偉い人の狙いなのか、長官の狙いなのか、についても正直どうでも良いです。
何をどうしたいのかを教えてください。
僕が出来るのか出来ないのか、やるかやらないかをお答えします」
化かし合いの空気を嫌ったギューは、思わず長官に向けて叫んでしまった。
折角人払いをしたのに、これでは人が集まってしまう、と叫んでから幾ばくかの後悔を感じるギュー。
そんなギューの様子を見て、長官の表情がいくらか柔らかくなった。
初めて出たギューの本音に、少し安心したのだろうか。金粉の入ったスーツを纏う巨人の口許に優しい笑みが浮かんだ。
ギューは、長官の許可を得、恐竜の死骸と呼ばれる物体の置かれた台の上に上った。
やはり、台も巨人向けのサイズなのは仕方のないことだ。
ギューの位置からでは、盛り上がった一部分は見ることができるが、全体象は見ることができない。
ギューは跳躍し、台の上に立った。彼の目に飛び込んできたのは、見事な肉食恐竜の死骸だった。
だが、ここで不思議なことが起きる。
死骸に触ろうとしたが、その距離感がわからないのだ。ここでギューは、その違和感に気づく。
恐竜の死骸がそこにあるのはわかる。だが、どの程度手を近づければ触れられるのか、目測が不可能なのだ。
今、実は触っている、ということはない。だが、これからどの程度手を近づければ死骸に触れられるのか。その感覚がわからないのだ。届くと思って手を伸ばしても届かない。
「……最初からやっておけばよかった」
思わず独り言をこぼすギュー。それほどに、彼は胸をときめかせていたが故に、考えが及ばずにいたのだ。
落ち着いて≪索≫を死骸に走らせたギュー。
その反応からは、やはりこの死骸は恐竜のものではない、という事がわかる。
いや、死骸ですらない。恐竜であることもない。
では、この物体の正体は一体何なのか。
「この、死骸との距離感を調べるにあたって、試行錯誤した結果が、あの箱ですよね。
あの、外観と実際の大きさがかけ離れているズレの法則を見破って、道具術で再現しようとした」
「……その通りだ。外見は小さくて、容量が多い存在という道具の開発は、古今東西望まれてきたことだ。持ち運びは小さくて楽で、大容量を収納できる。
それをあの死骸を調べることにより、実現が可能になった」
ギューは心底感心した。
そんな夢のような道具は、誰もが欲し、夢見るだろう。だが、本気でその道具の完成を目指す者などいない。
いても、排除されてしまうだろう。夢物語に注力するな、といわんばかりに。
常識という名の数々の情報が、まるで悪意でも持っているかのように耳打ちするのだ。
「実現など絶対に不可能だ」
……と。
だが、この男は諦めなかった。
ギューには想像もつかないような実験を繰り返して、やっとあの箱を作った、ということか。
「……こいつを発見してから既に数十年経っている。その時はまだ私も若く、力もなかった。
こいつを取り扱うための力をつけるために、技術庁長官にまで登り詰めた」
まだ齢十歳のギューには、その努力の大変さはわからない。五歳で魔神皇を倒す程の才能は、称賛されがちだが、その背後に積み重ねられるべき努力の年数は存在しない。
それ故、ギューは今後も苦しみ、壁にぶち当たることになるのだ。そして、一人の人間として成長していく。
「距離の不確定は、ゆらぎの証明。
奴に触れるには、完全に触りに行かねばならないが、触ることは出来る。しかしながら、どのタイミングで奴に接触するのかがわからない。毎回異なるからだ。
最初は、奴が光を曲げているのかとも考えた。目に見える距離感と、実際の距離が異なるから、このような現象が起きるのだと。しかし、光が曲がっているのならば、屈折率を考えれば、正確な数字が出るはず。そう考えて実験を繰り返したが、数値は一定にならなかった。見え方は変わっていないのに、接触までの時間が毎回異なるのだ。
そこで立てた私の仮説は、奴の回りの空間にはたわみがある、というものだった。
そのたわみによって、接触までの距離が変わるように感じられている、と。
そして、そのたわみを再現し、コントロールできれば、体積より、容積の方が大きい物体を作り出し、コントロールすることが可能なのではないか、と」
長官は、その落ち着いた様子からは考えられないほどに興奮し、熱弁を振るった。
ギューには、説明されても理論はわからない。言葉尻はわかるが、そこにどのような学問が投入され、その理論が導きだされたのか。
だが、ギューには一つだけわかったことがある。
これは紛れもなく、神皇が操る『疑似仮想空間』である、と。




