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界遊記  作者: かえで
超界元ユークリッド

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微かな希望

「ファルガに一体何が起きたの……!?」

 変身し、黄金の竜戦士となった青年神勇者の姿を目の当たりにし、思わず口走ったレーテ。

 だが。

 集った神勇者たちは皆そう思い、そう口にする。それでも、人型でありながら大幅に姿を変えているファルガを、『ファルガ』である、とすぐに断じたのはレーテだけだった。

「えっ……、あれがファルガなの? 色も形も全く違うのに……?」

 色と形。何ともエスタンシアらしい捉え方ではある。

 だが、彼女も≪索≫で探ってみると、ファルガの痕跡が所々に残されていることに気づく。

 もちろん、保持するエネルギーがあまりに強力過ぎるので、『超勇者』形態のファルガをまともに≪索≫で『観て』しまうと、≪索≫を用いた術者が壊れてしまう可能性は十分にあった。

 それ程に、超勇者化したファルガのエネルギー量と、それに付随した情報量は莫大なのだった。

 エスタンシアはそれを無意識に感じ取っていたのか、遠距離でファルガと、その黄金の竜人と戦う大巨竜オーラ=クロスに≪索≫の触手を直接延ばすことだけは避けた。

 上空に佇む戦士たち。

 エリクシールによって呼び出された神勇者隊は、ただただ、眼前の巨大なエネルギー同士のぶつかり合いに度肝を抜かれていた。

 ファルガの振るう新しい竜王剣と、オーラ=クロスの牙や爪が打ち合わされる度に、激しい衝撃波が発せられ、周囲の雲を吹き飛ばす。ファルガとオーラ=クロスを中心に雲が消し飛び、中心に穴の開いた巨大な雷雲が立ち込める事になる。

 『氣』の衝突が、周囲の空気を激しく攪拌、その際の激しい摩擦により雲が帯電することで、何気ないただの白く薄い雲が雷雲と化している。

 傍から見ればもはや超常現象だ。空が透けて見える雲の中で、激しく火花が散り、濃度の薄い部分を稲妻が幾重にも走る。

 その規模の超常現象を巻き起こしてなお、相手が距離を取りすぎて一気に攻勢に出られない黄金の竜人と、身長が百メートルはあろうかという巨大なドラゴンの戦闘からは、双方遠慮らしきものが感じられる。

 オーラ=クロスは、全力で攻撃することで、ファルガ以外の者を傷つけるわけにはいかず、黄金のオーラ=メイルを纏ったファルガは、微かに残った神勇者ファルガ=ノンの思考が、超勇者となったファルガの身体を背後から羽交い絞めにし、絶滅の誘発を防いでいる。

 そんな風に彼らには見えた。

 この特殊空域にいる者達が、眼前の状況を何となく理解したタイミングで、それぞれの頭脳に鮮やかなイメージが浮かび上がってきた。

 それは、八人の術者がそれぞれ己の両掌底を合わせ、前方に突き出して放つ『氣功術』最大の攻撃術≪八大竜神王≫の構えを取っている状態。

 ただし、八人がバラバラの陣形を取っているのではない。左方の四人と右方の四人が、線対称に配置されている。

 右左方の一人ずつが、少し離れて構える。そして、その下方の位置に少しだけ寄り添うように別の二人の術者が構える。更にその下段は、最も二人の術者の距離を取って構え、最下段は、上から二番目の術者群と等間隔で構える。

 術者全員の脳裏によぎったのは、大きく口を開け、咆哮を上げながら、熱線を吐き出さんとするドラゴンの顔だった。

 各々がこのイメージを共有し、だれが音頭を取るわけでもなく配置についた。

 タイミングは、イメージできている。

 だが、ここで問題が起きる。

 術者が足りないのだ。

 レーテ、カインシーザ、ギュー、ディグダイン、ゴンフォン、エスタンシア、そして界元神皇エリクシール。

 界元神皇の作戦は、≪真・八大竜神王≫の術を使うに当たって、主術者は最も慣れているオーラ=クロスが、ドラゴンの図形の背後から強力な≪八大竜神王≫を放ち、そのエネルギーがドラゴンの図形を通過する時に、八人の術者の組んだ陣形の真ん中で、それぞれが≪八大竜神王≫を放つ。

 その術式によって、単に一本に八本が加わり九倍の威力の、超強力な≪八大竜神王≫が敵を襲うと思うことなかれ。

 特殊な陣形を通過しブーストされた光芒は、その威力を数十倍に引き上げる。術者の相性が良ければ、数百倍ともいわれる。

 これこそが≪真・八大竜神王≫の真髄なのだ。

 実施が困難なのは、≪八大竜神王≫を放つことの出来る術者が非常に少ない事。それこそが伝説となった『氣功術』の伝説足る所以なのだ。

 そして、その術を制御できる主術者は、更に稀有な存在なのだ。

 界元神皇エリクシールをもってしても理由の説明は難しいが、ファルガを強制的に『超勇者』化できない世界線では、かつてカインシーザがデイガ界元に戻されたその先に、未来が演算できなかった時と同様の現象が起きたのだ、とエリクシールは後に語る。

 それ故、今回のファルガの強制『超勇者』化は必要だという論法だった。……例え、界元の消滅の可能性があったとしても。

 そして、その超勇者化のファルガを止め、未来を確定させるための方法の一つが、≪真・八大竜神王≫を放ち、ファルガの暴走を止める事なのだという。

 万一のために、エリクシールは術者の候補だけは確保していたはずだった。

 ユークリッド超界元の神勇者・ジルゴ。もう一人のデイガ界元の神勇者・ネスク。

 だが、彼らはエリクシールの演算の想定外の所で、戦線離脱を余儀なくされた。

 このままでは、超勇者化したファルガが元に戻れずに、暴走し続けることになる。

 この力で暴れられたら、超界元ユークリッドそのものの損害が甚大になるが、それは即ち界元神皇を弱らせることに他ならない。

 では、キュネではどうだろうか?

 確かに、恐るべきセンスは持っているようだ。

 だが、『氣』のコントロールすら未経験の『魔』の少女に、神勇者のみが使うことのできる『氣功術』が使えるとはとても思えない。それこそ、幾重にもミラクルが起きてなお、成功可能性は非常に低いだろう。

 それに加え、八人の術者は、あくまでメインの術者の補助に当たる。そして、メインの術者・主術者は、超妖魔王オーラ=クロスなのだ。

 だが、その当の本人であるオーラ=クロスは、現在ファルガと交戦中だ。

 しかも、戦況はといえば、お世辞にも優勢とは言えぬ状況だ。

 その状態で、陣形を取った八人の術者の背後に回り込み、基幹となる≪八大竜神王≫を吐き出すことなど、できるだろうか。

「カイン、俺じゃ役に立たないか?」

 カインシーザの指導により、飛行術≪天空翔≫を使えるようになったキュネ。だが、彼女の氣功術はまだ弱々しく、精度も低い。その状態で、ファルガと交戦など、できるはずもない。

「お前はどちらかといえば、隠れていろ。足手纏いにしかならん」

 カインシーザの言葉にキュネが激しく苛立ったのは、それが忖度ない現実を示した言葉だったからか。

「他に術者はいないのか?」

 ディグダインは叫ぶが、エリクシールも既に手札を使い切っている感じだった。

 これでは、全員やられる……!

 カインシーザの眉間には更に深い溝が刻まれ、ディグダインの口元から、いつも存在していた不敵な笑みが消えた。

 ついに破滅へのカウントダウンが始まってしまった……!


 エリクシールの指示通り、≪八大竜神王≫の構えを続けながらも、情勢が刻一刻と悪くなっていることは、ここにいる術者全員が分かっている事だった。

 何かのタイミングで、ファルガとの戦闘にインターバルを与えられた黄金巨竜オーラ=クロスが、≪真・八大竜神王≫の陣形の裏に入り、渾身の一撃を放つ可能性など万に一つもない。

 そもそも、術者が一人足りないのだ。

 別の界元から術者を呼び寄せることも、超界元ユークリッドの別の惑星を探索する神勇者の内の『術者』足り得る存在を呼び寄せたとしても、恐らく間に合わない。

 突然、恐ろしくおぞましい空気があたりを包む。

 ちょうど『竜の陣』の真ん中。

 ドラゴンの顔をイメージした陣形の、右目の部分には、界元神皇エリクシールが陣取り、細かい発射角を調整している。

 足りないのは左目。

 他の人間を補おうとも、恐らく『竜の陣』の双眸は、『神勇者』では勤まるまい。

 ただ、≪八大竜神王≫を打てるだけではだめなのだ。

 エリクシールは、言葉にはせず、しかし強く思った。その強い思いが超界元を迸る。

「……であれば、その役割の果たせるのは余以外にはおるまい」

 まるで、術者全員の脳裏に過ぎった言葉に対しての返事のように、はっきりと聞こえる言葉。

 音として発せられたものではないのはすぐわかった。なぜなら、距離に関係なく同じ音量で、脳裏にその言葉が送り込まれたからだ。

 『竜の陣』の左目の所に、≪洞≫のゲートが発生し、直後、その中から籠に横たわった赤子が姿を現す。

 右目には、籠に横たわるエリクシール。

 左目には……、もはや確認するまでもない。

 界元妖神皇エリクシールと対の存在。

 界元魔神皇マラディ。

「マ……マラディ!!」

 もっとも想定していなかった存在の出現に、皆背筋が凍り付く。

 だが、オーラ=メイルを発動して飛翔している術者たちには、マラディの発するおぞましさは、今回ばかりは彼らを失神させ、怯え竦ませるほどのものとしては伝わらなかった。

 ただ、何故マラディがここに、『妖』の神勇者と妖神皇の放つ術式の真ん中に姿を現したのか。

 エリクシールとマラディの目的が一致したからなのか?

 だが。

 術者は揃った。

 大地にいたキュネが、大きく跳躍し、黄金の竜人ファルガ=ノンと超妖魔王の間に割って入り、ファルガの視界を一瞬であるが奪う。

 強力な相手との戦闘に、邪魔に入られたファルガは、新しい竜王剣を用いて、キュネを両断しようとする。

 だが、またここで、暴走する超勇者は、ファルガの羽交い絞めで一瞬挙動が遅れる。

 キュネは斬撃の軌道を避け、直撃を回避すると、大地へと落ちていく。それでも、界元神皇を上回る力で振り下ろされた大剣は、空気を撹拌し、大地にその爪痕を深々と残す。

 竜王剣の斬撃の残りは、『竜の陣』の直ぐ脇を掠めて、飛び去って行った。

 キュネの作った一瞬の間。

 それをオーラ=クロスは見逃さなかった。

 瞬時に陣形の裏に回り込み、力を貯め始めた。

 超勇者の深紅の双眸は、巨大なドラゴンを象った『竜の陣』と、その向こう側に人型として鎮座する超妖魔王オーラ=クロスの姿を捉えて離さなかった。

 おそらく、暴走する超勇者は、このタイミングで術者全員に対し攻撃を仕掛けたかったに違いない。

 だが。

 その後ろで、変わらず超勇者を羽交い絞めにするファルガがいる。

「撃てぇーっ!」

 羽交い絞めにするファルガは叫んだ。

 術者たちにはそう思えた。全員に等しく同じ咆哮が届けられる。

 掌底を合わせて構える超妖魔王の両手の中に、まばゆい光の玉が生まれる。

 まばゆい黄金の宝球はその大きさを増し、ついに超妖魔王の掌底から≪八大竜神王≫が放たれた。

 まるで恒星そのもののような強い輝きを持つ光芒が、『竜の陣』を通過したその瞬間、八人の術者から集められ、増幅された巨大な『氣』のエネルギーが更に膨張し、黄金の竜人・超勇者ファルガ=ノンを飲み込んだ。

 最も濃厚な『氣』の障壁。

 それはまさに閃光のみの世界。

 圧倒的な沈黙。音を伝える振動も、周囲を見せる光の反射も、全て押し流す。光の無とは、こういう状態を指すのか。

 術者全員目がくらみ、耳が聞こえなくなり、息ができなくなった。

 何かが全てを押しのけ、しばらくの間、この世界からすべてが消えた。


 超界元ユークリッドにおいて、これほどの濃厚な『氣』が、この狭い領域に集まったことがあっただろうか。

 頭を押さえて蹲っていたキュネの上に、細かい無数の小さな砂礫のようなものが大量に降り注いだ。

 それが体に当たることで、先ほどの光の暴風が遠ざかったことを悟る『魔』の少女。

 少女がこれまで受けていた細かい無数の傷は、全て無くなっていた。

 圧倒的な生命力に当てられた時、過剰に新陳代謝が進み、古傷として残っていたものも全て角質として滑落したのだろう。

 視力を取り戻したキュネは、赤子のように恐ろしくもち肌になった自分の腕に驚きつつ、自分に降り注いだ砂礫らしきものが何かを見ようと顔を上げた。

 周囲に降り注いでいたのは、青白い粉末。ひどく美しく、見ているだけで目の疲れが取れるような気がする。

 だが、それはまるでドライアイス・パウダーのように、徐々に溶けて消えていく。

 うっすらと積もった青白い雪景色のように見えた光景は、一瞬にして元の世界に戻った。

 キュネは、この時は知らなかったが、これこそが界元神皇エリクシールが求め、カインシーザをはじめとする神勇者群が、必死になって探していた『命光石』の粉末だった。

 幻想のような美しい景色に目を奪われていたキュネは、自分が今置かれた状況を思い出し、慌てて上空に目をやる。

 上空には八人の術者と、その後方に一人の術者。

 先ほどあった光の帯の共演は、少なくとも気のせいではなかった。ましてや夢や幻でも……。

 そして。

 八人の術者で形作られたドラゴンの頭部から吐き出された、古今例がないほどの強力な術。

 純粋な巨大エネルギーで、衝突エネルギーに加え、光と熱と音、全てを放つ恐るべき力。

 それに襲われたのは、ドイム界元の神勇者・ファルガ=ノンだった。

 しかし、彼は腕を交差しガードすることで、強力な術に耐えきったのだ。

 その容姿は黄金。

 透き通る白い肌に、黄金の毛髪。鮮血の赤い瞳に、巨大な犬歯。巨大な皮膜の翼を背負い、身長の倍の長さのあるだろう強靭な尾は、次の攻撃に備えて、まるで獲物を狩る直前の豹の尾のように波打たせている。

「……効かなかった……!?」

 思わず呻くゴンフォンだったが、その言葉が終わらぬうちに、眼前に漂う人型から、力が抜けるように冠のような頭髪の黄金は失われ、黒髪に戻る。一度だけちらりと開いた双眸には、朱は消失していた。

 と同時に、背の皮膜状の翼と尾も掻き消えるように姿を消していた。

 何とか気を失わぬように努力をして浮遊をしていたファルガだったが、ただのファルガの重量にすら、今の彼の浮遊術は耐えられず、ゆっくりと落下を開始する。

 両足が地に着いた瞬間、最強であった青年神勇者の脳裏に、ふわっとした感覚が過ぎり、そのままゆっくりと崩れ落ちるように、意識を失ってしまった。


「後はお願いします。僕にもやるべき事がありますから。今はそちらを優先します」

 朱色の甲冑を身に付けた少年神勇者ギュー。

 彼は、倒れたファルガに心配そうな視線を向けるが、まるで弱い自分に言い聞かせるように、強くはっきりと界元神皇に告げ、≪洞≫のゲートを作るよう促した。

「……馬鹿野郎が……」

 以前、自身の後悔のために思わず口走った言葉を、今度は暖かい感情で口にする、パイロットスーツの神勇者、ディグダイン。

 彼の望んだような道での成長ではないのかもしれない。だが、確実に大人へと育っていくギューを目の当たりにし、嬉しさと一抹の寂しさを感じざるを得ない。

 ギューは微笑みながら、ゲートに入っていく。

 その後はディグダインだった。

「俺は、ヤツの心配など全くしていない。一ヶ月のリミットは変わらんと、ヤツに伝えておいてくれ」

 ディグダインはニヤリと笑うと、一人で旅に出たカインシーザに眼差しを向ける。

 彼は、視線の先の槍使いにも心配はしていなかった。何に取り組んでいるかも知らない。そこまで語り合っている時間はなかった。

 ただ、あのアクアマリンの髪の戦士の事だ。ただいたずらに時を過ごしているはずはない。

「一ヶ月後だ。おまえさんがどんな旅をしているかは知らんが、始まりの地に一ヶ月後だ。いいな」

 そういうと、『融合人(バイオ・サイボーグ)』神勇者は一度も振り返らずに、別途作らせた≪洞≫のゲートに入っていった。

「一ヶ月後って……」

 不安そうにカインシーザを見つめる『魔』の少女。だが、アクアマリンの髪の神勇者は、少女を落ち着かせるように声をかけた。

「俺は初耳だが、恐らく、そこがリミットなのだろう。

 ……何のかはわからんが。そこに合わせて、俺は動く。始まりの地と言っていたが、恐らくこの界元に最初にたどり着いた草原の事を指しているのだろう。具体的な場所もピンとは来ないが、まあ、わかるだろう。もう、『氣』の搾取の構造も感じない。移動には≪天空翔≫の術も使えるだろう。もっぱら空での移動になる。

 そうなったら、お前は恐らくついてくることはできまい。あとは、好きにすればいい」

 そういうと、更に別途作らせた黒珠の門に入っていくカインシーザ。

 逃さん!

 ゲートに入るその瞬間、緑の道着の少女がそう叫んでカインシーザの体に組み付くと、頭から丸齧りしかねない勢いで文句を言い続ける様を見てぎょっとするエスタンシアとレーテ。

 あの少女は何なのか。カインシーザとの関係は?

 全く紹介もされぬまま、術だけ放って帰っていったカインシーザを、なんとも言えぬ表情で見送るのだった。

「あの子って、多分『魔』よね?

 カインシーザの彼女なのかしら?」

「かっ……かっ……彼女??」

 今時の男女交際は、組み付いて噛みついたりするのか?

 思わずいろんな想像をしてしまい、表情を作るのを忘れたレーテを見て、エスタンシアは笑う。

「……しっかりしなさいな。あなたはあっちの面倒をしっかり見て。意識はないけど彼が待ってるよ。

 ……行かないなら私が行くぞ!」

 それはそれで困る! と言い出せないレーテだったが、何となく横たわるファルガの元に戻り、濡れた手拭いを再び術で冷やし、額に戻した。

「結局、あの人たらしが、いろんな人を助けられちゃうから、皆彼の事が気になるのよね。

 あの子が……年上だけど……、自分の立ち位置を明確にすれば迷う子はいなくなるのよ」

 そういいながら不敵な笑みを浮かべるエスタンシア。だが、彼女の右手は自身の服の裾を強く握りしめていた。

 そして、それを遠くで見つめるゴンフォンは、そんなエスタンシアを、憐れんだ。

 自界元では、才気煥発な天才農工技術者だった。そんな彼女を惹き付ける異性がいなかったのも、彼女にとっては不幸だったのかもしれない。

 ゴンフォンは、自界元に自分を惹き付ける異性がいてよかった、と第三者的に思ったのだった。


「何故手を貸した?」

 草原のど真ん中で二セット並ぶゆりかご。

 そこには双子とみまごうばかりの赤子がいる。

 だが、その正体は界元妖神皇と界元魔神皇の『実体』だ。

「何故わざわざここで会話をする?

 互いの考えなど、手に取るようにわかるだろうに」

 最後に出現した赤子は、さも面倒くさそうに吐き捨てるが、その後呟くように言った。

「あの『妖』の男が、余に話しかけてこなければ、今回の件も黙殺しただろうな」

 そう言うと、マラディは黒珠を作り出し、その中に消えた。

 残されたエリクシールは呟く。

「まだ……反心魂同士でも、関係をフラットに戻すことはできるのかもしれんな……」

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