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界遊記  作者: かえで
超界元ユークリッド

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298/299

ギューの挑戦と大人たちの後悔

「奴らが来たか……。もう、私のことは諦めたと思っていたがな」

 窓際のベッドの上で、横たわったまま窓の外を見ていたジルゴは、ギューから昨日の来訪者の一件を聞き、呟いた。

 実際は、呟くつもりはなかったのだろうが、ジルゴの体調がそうさせる。

「あの人たち、一体何者なんですか?」

 三人の黒づくめの男のうちの一人から攻撃を受けたギューはやむ無く反撃、恰幅のよい男を一撃で倒した。

「……今の君からすれば、奴ら程度ならば何の問題にもならんだろう。あの体の大きさとはいえ、所謂ただの人間だからな。多少の戦闘経験のある者でも、神勇者とは比較するべくもない。

 ただ、ここで生活しようとすると、奴らは嫌でも関わってくることになる。

 奴らは、この国の諜報員だ。

 一言で言えば、奴らは私を軍属にしたがっていた」

 ジルゴの淡々とした物言いに、ジルゴは全て想定済みだったのかとも思ったが、そのようにしか話せないことに思い至り、思わず苦笑するギュー。

 今は寝たきりになってしまっているが、少年神勇者にとっては、彼は憧れのスーパーマンなのだった。共に旅をして来た兄貴分の戦士とは、また違う存在。

「ジルゴさんを軍に?」

 ジルゴは微かに笑う。

「軍属といっても、軍に配属したい訳じゃないだろうな。

 どちらかというと、望まれたのは単独隠密行動だろう。私に限らず、神勇者クラスの戦士なら一個大隊以上の戦闘能力はあるはずだからな」

 冷静に考えて、ギューはゾッとする。

 ジルゴが示そうとする事実。それが、何となくビジョンとして彼の脳裏によぎったからだ。

 ギラオ界元でも、デイガ界元でも、神勇者として能力が高いことはよいことだった。そして、それを出し惜しみする意味もよくわからなかった。

 だが。

 ジルゴは『力の保持者の呪い』について静かに語る。

 それは、ギューの脳裏によぎる映像の、強い焼き付けのきっかけになった。

 もし高い戦闘能力が求められる国家情勢において、その『情報』が両国、或いは第三国を交えた複雑な力関係において流布されるなら、ギューのような戦闘能力を持つ個人を、時の権力者やそれに準ずる存在が放っておくわけがないのだ。

 ……今回のジルゴのように。

 極論を言えば、もしその力を配下に引き入れることが出来ず、逆に敵対組織に与する可能性が多少でも示唆されるようなことがあれば、求めていた存在は、一気にその力の抹殺へとベクトルをシフトさせるだろう。神勇者の力が敵に流れること。それは間違いなく最大最強の障害となるからだ。そして、その評価が高ければ高いほど、排除の熱量は高いものになる。

 仮に、ジルゴを幾度となく暗殺しようとしたとする。

 それが叶わなかった場合、ジルゴの力を奪うために次に打つ手は、人質だ。

 ジルゴの命と引き換えに、人質の命を助けるという契約の下、ジルゴの命を自ら断たせる。人質がうまく機能すれば、今後ジルゴを味方の戦力として加味出来ぬ代わりに、敵対した場合の敵の戦力としても加味する必要がなくなる。

 その為に、確実に自害させ、その首を持ち帰る。そうすることで、脅威が払拭できるからだ。

 長期的に見れば、文字通り国家戦力同士の戦いとして、様々なことを想定すればいいだけになる。

 強大な戦闘能力を持った個人が国家レベルでの情勢へ及ぼす影響。それは、想像より遥かに圧倒的なものとなるのだ。

 その脅威とは。

 まず。

 敵の殲滅は非常に容易だ。

 いくら相手が強力な軍隊を引き連れていても、氣功術最大の攻撃術≪八大竜神王≫を中枢に打ち込めば、国家機能は停止する。そうなれば、軍も機能停止し、実質的な戦争終了となる。

 戦闘終了、ではなく戦争終了、だ。敵国消滅と言い換えてもいいかもしれない。

 このように、ミクロの戦闘の兵器のようには連射出来ずとも、一撃で相手に多大なダメージを与えることはできるだろう。

 そして、よしんば一撃目では中枢を破壊できずとも、数日おきにその強力な攻撃術を打ち込むことができれば、更に相手の被害を甚大にすることが可能だ。文字通り、存在を地図上から消すことさえも。

 また、デイガ界元のような人型汎用兵器『機鎧』が戦闘域に出現しても、倒すことは可能だろう。

 攻めに対しては、方法は多々あれど、強いのだ。手法も目的も問わず、戦後の諸問題も目をつぶり、敵の消滅のみを意図した場合、これ程効率的な方法はないだろう。

 しかし。

 特定エリアを守護する場合、突出した神勇者の戦闘能力があっても、他の軍勢から数で攻められた場合、細かいエリアについては守り切れない。そして、数の攻撃を無効化しようとした場合の、反撃の一手が強力すぎる。その威力は味方の土地をも破壊しかねない。

 神勇者の個人能力を他者に数千等分するほうが、よほど価値のある防御活動ができるはずなのだ。

 防御の場合は、攻撃力の高い存在を一点狙い撃ちする以外、神勇者のような一点集中型の高い能力は、思うような効果は期待できない。

 総合的に見て、神勇者が大規模な戦闘に参加した場合、味方も敵も被害が増えてしまう可能性が高い。戦力の削減だけではなく、国家の他の力まで削り取ってしまうという事なのだ。

 それは土地の生産能力であり、戦後の回復のための労働力であり、資源でもある。

 大戦力の一点特化は、国家間の戦闘においては最も愚策だ。敵の国力をそこまで疲弊させずに戦闘能力だけを割く。

 近代の戦略ではそれが基本になってくるのだ。

 神勇者を表舞台の戦場に送り込むことは、一騎当千の戦果を得られるように思われがちだが、その意義は『核弾頭』と同じなのだ。

 動き出せば、戦果は上がるだろうが、確実に戦後の復興に支障をきたす。

 それを知るジルゴだからこそ、力を隠し、存在を隠した。

 ディーガレンの使者は、幾度となくジルゴを訪れた。しかし、その都度ジルゴは断った。

 残念ながら、ディーガレンの為政者はそこまでの見識はないということだ。

 恐らくジルゴの『町の守護者』の力以上のものを知覚し、売ったのはこの町の人間。

 町を一つ山賊から守る位の戦闘能力ならば、超絶敏腕の戦士、という表現でいいだろう。

 だが、全力の神勇者は、その存在が核兵器並みの影響力を有し、実際そのレベルでの破壊活動が可能なのだ。

 この界元のこの星の国家レベルでは、核兵器やそれに準ずる効果のある兵器の開発は恐らくなされていない。しかし、『核兵器』の在り方に思慮を巡らせなければならぬ時代を迎えていた。

 その説明を受けた時、ギューは現在のジルゴの表情が以前に比べて和らいでいる理由に気づく。

 彼は自身が『核兵器』足り得なくなったことに安堵しているのだ。

 自身の力を抑えるだけの胆力があっても、周囲がそれを期待し、その状況に追い込まれれば、どうしても動かざるを得ない。動かなければ、動かないなりの問題が彼の周囲に発生してしまう。

 しかし、その力自体が無くなってしまえば、そのことに悩む必要がなくなるのだ。


「その、ディーガレンという国の状況を見てきますよ。

 とりあえず、今は彼らのいう事を聞いておいた方がいいと思っています。

 それで、勝手に幻滅してくれれば。

 ジルゴさんは、この町で≪八大竜神王≫を撃ったりしたことはないんでしょう?」

 ギューの案は、ジルゴに興味を沸かせた。

 ギューの戦闘能力は高い。神勇者である以上、やはり『核兵器』にはなりうる。

 だが、そこまでの戦闘能力はないと振舞うことで、只の強い戦士、で済めば、彼らの使い方は変わってくるだろう。

 この町の人間は、ジルゴのオーラ=メイルを纏って戦う姿は、数えるほどしか見ていないだろう。そして、ギューの鍛錬している姿はさらに見られていないと予想される。

 ジルゴとギュー。二人の神勇者が≪八大竜神王≫という強力な氣功術を放っている様は、想像すらしていないはずだ。

 となれば、『超戦力の幻滅』作戦は、意外と功を奏するかもしれない。

 希望的観測かもしれない。しかし、すぐに姿を消すことのできないジルゴとしては、時間稼ぎとしてはいい方法だった。

 最終的に、ジルゴがこの地を去った後であれば、ギューはどうとでも逃げおおせることができるだろう。

 ジルゴとそう打ち合わせたギューだったが、それでも本当は、彼と共に奇跡の泉に行きたかった。

 そして、戦士の復活を見届け、彼から何か教えを請おうとしていた。

 だが。

 やはり、それは無理な相談だった。

 ジルゴを輸送するために改造されたネスクの飛行機が到着したのは、ギューが再度現れたエージェントたちと共にこの町を去って二日経過した後の早朝だった。


「……馬鹿野郎が……」

 ジルゴから静かな説明を受け、ディグダインは鋭く低く唸り捨てた。

 彼の言葉は、ジルゴを守るための決定をしたギューだけに向けられたものではなかった。

 それを容認したジルゴにも、止めることができなかったアミツにも、そして、ギューがこの選択をせざるを得なかった状況を作り出した、自分たちに対しても吐き出されたものだった。

 酷なことはわかっている。

 ジルゴはこの体だ。アミツが仮に止めたところで、ギューは止められなかっただろう。

 できるとすれば、ディグダインが設計図を出来るだけ早くネスクに渡すこと。

 それだけだった。

 だが、実際のところ、ディグダインのハイコンピューターですら、その設計図を入手し、ネスクに展開するのが遅れてしまった。

 というより、処理速度を上げるならそこしかなかった。それでも、結果は変わらなかったろうとは思えてしまう。

 ディグダインは、しばらく両の眼をきつく閉じた。

 彼の中で発生した、己と関係する他者に対する激しい怒りは、今は発散されるべきものではない。

 それがわかっているからこそ、彼は瞬間的な怒りをコントロールし、行動力として発揮するべく、作戦を立てる。

 彼のヘルメットのハイコンピューターは、ギューの今後の動向のシミュレーションを行い、ディグダインとネスクは、新しく飛行機に設置された機能を使うべく、準備を行う。

 ジルゴの乗る車椅子を、新しく飛行機の下腹部に搭載されたタラップに乗せ、機内へと引き上げる。

 ジアは眠い目をこすりながら、アミツに連れられてタラップから飛行機へ搭乗を済ませた。

 彼女たちが機内に上がると、今回は飛行機からは完全に独立したネスクが、ジアとアミツに席を勧め、アミツのシートベルトはネスクが、ジアのシートベルトはアミツが装着することで、いざ出立の準備は整った。

 ゆっくりと浮上を開始するネスク機。

 早朝の散歩をしていた巨人の老人が、浮かび始めたネスク機のツヤ消しのシルバーボディーに向かって、何かを叫んでいるようだ。

 彼の咆哮に反応したのだろうか。家々から人が飛び出し、ぐんぐんと上昇していくネスク機に向かって大声で叫び、傍にあった石を投げ、何とか空から引きずり下ろし、大地に釘付けにしようとした。

 だが、それはやはり、只の巨人には不可能だった。

 彼らの遠投での岩攻撃は、ネスク機に届かなくなり、投げた張本人の頭上に落下してくるようになる。

 悔し気に何かをわめく老人の巨人。

 集まってきた町の人間は、ジルゴの家の敷地を取り囲むように立ちながら、上空に遠ざかる飛行機に向かい、咆哮とも罵詈雑言ともとれぬ、不思議なニュアンスを想像させるわめき声をあげることしかできなかった。

 ジルゴの家から飛び立つ何かがひどくもったいないものに感じられたのだろうか。ジルゴを売り、ギューさえも売り飛ばした守銭奴達が、飛んでいく『ネスク機』を見て、何だかわからないが、メカニカルで価値のありそうなものを取り逃がしたのではないか。そんな不安と苛立ちをおぼえたのだろう。

 醜い……。

 一連の巨人の挙動を、飛行機内の居住空間に設置された巨大なモニタを見ていたジルゴは、表情は変えなかったものの、内心酷く幻滅していた。

 それはそうだ。

 彼の元々戦士としての一面を切り売りしたのは、アミツの生まれ育った町だったからだ。

 その町に対する恩返しとして、彼はガーディアンの任を受けた。その任を受けるまでの、巨人との体躯格差も、彼にとっては侮辱でしかなかった。だが、それを彼は力と技で乗り越え、分かり合えたと思っていた。

 彼の努力は、ギューという少年の犠牲で、無駄であったことが示されることとなる。

 アミツは、涙を流すだけだった。

 自分が生まれ育った町の人間が……。自分と同じ巨人たちが……。

 あれほど醜い存在だったとは。

 ジルゴの能力の情報を売り、そして、今回はギューという人間を売った。

 元々、アミツを差別し卑下した人間たちだ。その背景は歪んだ選民意識かもしれない。だが、それ以上に、自身が彼らと同じ血が流れていることそのものを、アミツは恥じた。

 思い返せば、幼女から少女になるにつれて、彼らの目はおかしくなっていった。

 珍獣を見るような目で、彼女を見た。

 彼女の生みの親とその兄弟たちは、その奇異の視線にも耐えねばならず、アミツ自身が罪悪感に囚われる事もままあった。

 だが。

 そんな感情そのものも、アミツが感じるべきものではなかったのではないか。むしろ、親なら……血の繋がった血族であるなら、そのような感情をアミツが持たないように守るべきではなかったのか。

 人の親となり、ジアという護るべき存在を護る責務を、異人でありながら果たそうとするジルゴ。

 そのジルゴと、血の繋がった『悪魔』とでは、比較するまでもない。

 一瞬、怒りのあまり神賢者の全力のマナ術を、その『悪魔』の町に叩きつけようとすら思う。

 だが、それをする事もまた、彼女の理性は許さなかった。

 自ら手を下さずとも、彼らは滅んでいく。

 そう結論付けることで、彼女の溜飲を下げるしかなかった。

 彼女の飲み込む唾液は苦い……。


 アミツの故郷であることを拒んだ町。

 そこから出立したギューだったが、二日も経つと、その町の様子は窺い知ることはできない。

 唯一、かの町に残された尖兵からの報告が、ギューを安堵させた。

 後は、ギューがどれ程自身を無能に見せるかの勝負だ。

 ギューは、初めて役に立てているかもしれないという、不思議な満足感を得ていたのだった。

大葉健二さん逝去。ご冥福をお祈りいたします。

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