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界遊記  作者: かえで
超界元ユークリッド

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297/299

ギューの留守番

「俺とネスクは、飛行機を取ってくる。

 往復だけなら一日強だが、向こうで車椅子の搭乗機構を設置するのと、中のシートを増やす改造を行うので、二、三日は見て貰いたい。

 その間、ここをギューに守って貰いたい。ギュー、できるな?」

 ジルゴの一家・オモリオ家の総転出に先立ち、その計画がディグダインから話された。

 ギューも飛行機の改造は見たかったようだが、今回は内容が内容なので、承諾せざるを得ない。

 何しろ、ディグダインのハイコンピューターの描き出した設計図から、ネスクが飛行機に改造を加えるのだ。二人が行かないことにはどうにもならない。

 そして、ネスクの危惧は、ディグダインの補完の下、理路整然とギューに伝えられる。

 にわかには信じられないが、それでもギューもこの町の人々の持つ違和は捉えていた。

 そして、それは『ネスク病院』の到着前後で劇的に増大している。

 三人とアミツの共通見解だった。

 なぜアミツが、町の他の住民と、敵対とまではいかずともかなり緊張感を伴う関係でありながら、この町を子育ての地に選んだかといえば、それはアミツの故郷でもあるからだ。


 アミツの両親は、長身の巨人だった。巨人の中でも屈指の身長だったから、アミツの低身長は特に目立っていたのかもしれない。無論、アミツの兄弟たちもその親に勝ると劣らぬ体躯だった。

 アミツだけがファルガたち人間と同じ体のサイズだった。

 なぜそのような差が生まれたのかは、アミツにはわからない。無論親兄弟も。

 だが、親兄弟は小振りなアミツに悩み、恥とまで思ったようだ。

 幼少期は外にも出されず、ずっと家の部屋の奥に閉じ込められていた。

 この、恨み辛みをずっと積み重ねていきそうな状況で、唯一の施しを行なったのが、アミツの叔父だった。

 だが、アミツの叔父はアミツかわいさではなく、アミツのような突然変異を業者に売りつけ、多大な利益を得ようとしていた。そのために、自分の兄弟であるアミツの親を懐柔しつつ、アミツを自身になつくように仕向けた。

 果たして、その計画はうまくいった。

 アミツの親には、アミツが行方不明であると納得させ、同時にアミツを連れ出し、業者に引き渡した。

 アミツはサーカス団のような所で、その小さな体を売り物に、曲芸を仕込まれ、更に下働きのようなこともやらされて育った。

 数年後、アミツは『人間』としては小柄ながらも正常な大きさに成長した。それでも、巨人との身長差は三倍近くあった。

 彼女は、聡明だった。

 自分の武器と弱点を把握し、武器では相手より優位に立ち、弱点ではそれを元に甘えるという強弱をつけ、徐々にサーカス団を牛耳っていく。

 神賢者としての知能の覚醒は、既にこの時始まっていたのだろう。

 術というものを身に着けるのはもっと後だが、二手も三手も先を読む力、人を動かす力はサーカス団での下働きをするうちに、効率よく仕事を進めるための試行錯誤のうちに身についた、と本人は思っている。

 そして、巨人たちの愛玩動物的な扱いで入団したサーカス団を、完全に掌握したのは、入団後三年ほど経ったころだった。

 この当時でも齢十歳。

 女性としては小柄すぎて、性的な視点で仲間から見られなかったのはラッキーだったかもしれない。しかしその分、人形のように愛玩されたため、彼女自身は媚びる事と突き放す事のバランスを覚え、うまく立ち振る舞ったようだ。サーカス団の団長とそれに準ずる人間たちを、ツンデレで虜にしたと言っていい。

 巨人族と比較すると小振りではあるが、ディグダインやギュー達と比較するとかなり大柄なジルゴと出会ったのは、サーカス団が山賊団に襲撃された時だった。

 この時、ジルゴはその腕を買われ、山賊団に所属していた。

 巨人の中で縦横無尽に動き回り、巨人の戦士たち、サーカス団の護衛たちを翻弄するジルゴ。サーカス団と山賊団は、激しく戦い、両団とも致命的な損害を受ける。

 そんな中、アミツは山中に逃げ出すことに成功する。

 巨人族が殆どの山賊団ではあったが、体の大きさについては、様々な者がいた。

 サーカス団の団長よりも巨漢の男もいれば、アミツよりも背の低い壮年女性もいた。

 そして、山賊団の中には、アミツよりは大きいが、巨人よりははるかに小さいジルゴという青年戦士がいた。

 山中で二人は出会う。といっても、組織が有形無実になり、元の山賊団であった集合体と、サーカス団の集合体が、何となく交わり、何となく人数ごとに散り散りになったという感じだ。

 ジルゴとアミツの集団も、十人に満たない集合体だった。

 最初、アミツとジルゴは全く会話を交わさなかった。ただ、闘争に発展しなかったのは、お互いに組織の中で、主体として戦闘に参加していなかったからだろうか。

 ジルゴからすれば丸腰のアミツを斬れなかったし、アミツからすればジルゴの一撃を放たれないような行動をとっていたからだ。

 そもそも憎みあって戦っていたわけではない。たまたま、山賊団の長がサーカス団の襲撃を決め、サーカス団が思いのほか山賊団に対して抵抗できるだけの力があった。ただそれだけの話だったのだ。

 進む方向は一致した。二人は何とかして、山を下りたかった。

 何日か行動を共にするうちに、二人の役割分担も出来ていく。

 食事の支度をするアミツと、体躯の割によく食べるジルゴは、徐々に共通点を見出し、話をするようになった。

 お互いがお互いに警戒しながら、無言で行動を共にしていたが、徐々に交流の敷居は下がっていったのだった。

 そして、最終的に。

 肉親に裏切られ、サーカス団に売りに出されたアミツと、属していた山賊団に両親を殺されていたジルゴは、不思議と意気投合した。

 ジルゴの両親を殺したのが、自分のいる山賊団だという事を後に知ったジルゴは、強く葛藤する。しかも、その存在は今回のサーカス団との抗争で憤死している。恨みを晴らすにしても、時既に遅し、だった。

 アミツはジルゴを諭し、山賊団を抜けることを画策し始めた。

 ジルゴのいた部隊は壊滅に近い状態ではあったが、山賊団の規模からすると、一部隊にすぎなかったのだ。

 ジルゴの属していた隊の人間は、何も言わなかったが、他の部隊では、両親を殺されたジルゴが団に貢献するのを見て、ほくそ笑んでいたのだ。

 両親の仇ではあるが、ここまで自分を育ててくれた恩義を感じていたジルゴは、思い悩む。

 だが、そんなときに、山賊団を襲った『魔』の集団。この存在が何だったのかは未だに不明だ。だが、『魔』だった。知識を得たジルゴが思い返すに、間違いなく『魔』だった。

 ジルゴは、次々と倒されていく山賊の仲間の武器を手に、『魔』の集団と戦った。

 初めて出会った、同じ生命体でありながら本質的に違う存在『魔』。そのおぞましさに当てられつつ、アミツと共に山賊団を離れることになった。

 何人かの山賊団からの脱走組と共に、旅を続けるジルゴとアミツ。

 だが、その集団の中でも、略奪は行われた。

 さすがに村を襲って皆殺しにして、村の財産や食料を奪取、女子供は人買いに売る、という悪辣な方法を、二人は好まなかった。

 極悪非道なふるまいをしていれば、徐々に周囲の町や村の警護隊に目をつけられる。

 周辺の王国より討伐隊が組まれて、ジルゴたちの属する小さな賊の集団も徐々に追い詰められていった。

 この時、ジルゴ十二歳。アミツ十一歳。

 幸運だったのは、ジルゴもアミツもまだ幼かったことだ。

 ジルゴとアミツの所属していた、以前よりずっと規模の小さい賊の集団が、討伐隊の隊長によって討伐された時も、彼らは賊の一員ではなく、賊に捉えられた被害者の一員として受け入れられた。

 そのまま王国に連れていかれ、身寄りのない子供たちの施設に入所させられることになった。

 その地で、ジルゴは剣技を磨き、アミツは学者として術式に出会う。

 無論、『氣』や『(マナ)』に出会うのは遥か後になるが、何か人間の手から離れた巨大なエネルギーを駆使することによって、戦闘や生活を優位に進めることができる、という意識は持ち続けていた。

 やがて、ジルゴは王国の剣士として昇進し、騎士団長を任じられた。アミツは、王国の術士団の副参謀となった。

 彼らは、自分たちを拾ってくれた王国の為に、身を粉にして働く……つもりだった。

 王国に対立するもう一つの王国。

 そこは、『魔』の王国だった。

 彼らは、『魔』を排除し、自身の王国に安寧をもたらす為に奮闘した。

 だが。

 二つの王国は、力が拮抗しすぎて泥沼化し、国家はあるが無政府の状態に陥った。しかも、その王国同士の対立は、この界元の神と魔神の戦いに、ジルゴとアミツを巻き込むことになった。

 その中で、ジルゴは魔王と呼ばれた神闘者・ギデスとの激闘を繰り広げる。

 ギデスは、最初の戦闘で半死半生の傷を負い、その後幾度となくジルゴに挑むようになった。

 結局、界元妖神皇と界元魔神皇が、ジルゴとギデス、そして、双方をフォローしバックアップする者たちが戦闘に介入し、実質的な『精霊神大戦争』に発展した。

 ユークリッド界元の超神剣の装備・超神剣は、この時ジルゴの『氣』を練り上げ、そこにエリクシールが一手間加えたことにより完成した。後にファルガの扱う竜王剣に、致命的な損傷を与えた超神剣だ。

 現時点では、竜王剣を凌ぐ唯一の剣ではないだろうか。

 戦闘は終わり、勝者と敗者がはっきりすることなく、時間が流れた。

 ジルゴとアミツは壮年となり、アミツの故郷に戻り、そこで町の守護者となりながら、いつ発生してもおかしくない、二度目の『精霊神大戦争』に備えたのだった。


 ディグダインとネスクが、飛行機の回収のために出立したのち、アミツは家の荷物を整理し始めた。

 どうせ、もっていくものなどあまりない。

 正式な引っ越しではない。どちらかといえば夜逃げに近い。

 家具なども全て置いていくようだ。

 ジルゴと生活を共にし始めた時から、徐々に作り上げていた家や庭など、それらを全て置いて行かねばならないというのは、アミツの本意ではなかったが、この状況下では仕方ない。

 アミツの持ったものは、ほとんどがジアのものだった。

 かつて使った哺乳瓶。生まれてすぐに着せた服。歩き出す直前の最初の靴。そして、ジアが最初に抱きしめたぬいぐるみ。

 いずれも、今は使わないものかもしれない。

 だが、それはかけがえのない大事な思い出の品だった。

 なぜ今使っているものは持って行かないのか。

 少しは持っていく。だが、今使っているものはすぐ使えなくなる。どうせ、新天地ですぐに準備しないといけない。ならば、生きる力をくれる思い出の品。その方がいい。

 アミツはそう判断した。

 そして。

 自分のものは旅先でも調達できる。最悪自分で作り出すこともできる。

 だが、ジアは短い時間とはいえ、ここでの時間が全てだ。その想いや記憶を失わせたくない。自分たちが未来に向かって生きていくためには、過去の思い出を大事に持ちつつ、未来への糧とする。

 アミツはそう考えたのだった。

 そんなアミツとジアのやり取りを、少し遠くで見守るギュー。

 彼も、齢五歳で魔神皇を倒した経歴の持ち主だが、それは同時に戦いの記憶しかないことの裏付けでもある。

 少年神勇者は、戦いの鍛錬に一生懸命になる余り、実際の界元で魔神皇によって神皇が致命傷を受けてしまっていることに気づくのが遅れた。そして、その結果、彼の界元であるギラオ界元は消滅の憂き目にあっている。

 彼が生まれ育った界元は、たった五年間とはいえ、彼の故郷であった。

 それが、彼のミスにより消滅した。

 消滅したということは、その界元にある彼の友達や思い出の品、思い出の景色まですべてなくなってしまうという事だ。

 例え、これ程にばたついた門出となったとしても、時間がある程度取ることができて、思い出の景色を目に焼き付けておくことができるだけでも、実は幸せではないのだろうか。

 ギューはそんな風に思うようになっていた。

 ファルガとカインシーザがギューの界元ギラオを訪れたのは、ギューが神皇により、魔神皇の止めを刺すように命じられた後の数日後。

 その数日後で、界元の崩壊は始まっていた。

 おそらく、ファルガとカインシーザがいなければ、ギューは勿論のこと、その父親であるガガロ=ドン、そして、働くサイディーランの二つ名を持つ母親ギラさえも消滅の憂き目に合っていたかもしれない。

「ジアちゃん、今はここを離れるかもしれないけれども、ここが無くなってしまうわけではないんだ。また、少し時間が経ってから戻って来ることもできるかもしれないよ。そんなに悲しがることはないよ」

 荷物の整理をしているアミツにしがみつくように泣く娘ジアを見て、ギューは慰めの言葉を送ったが、果たして少女ジアに届いただろうか。

 出立の準備を行なっている彼女たちの元に、使者が訪れたのは、準備を始めて三日目の昼過ぎだった。


「ガーディアン・ジルゴのお宅ですね?」

 等身大の巨大な斧・巨神斧。

 それを振り回すように鍛錬を続けていたギュー。

 深紅の鎧を身に纏い、ある意味戦闘態勢を維持していた。

 訪れたのは巨人。同じような背丈の巨人が三人。

 但し、黒いスーツに黒い丸眼鏡、鉢周りをぐるりと取り囲むような鍔の短めな帽子。

 ただの田舎の町であるにも拘らず、様子は近代の政府高官の隠密行動時の身なりに似ている。

「……あなたたちは?」

 ギューは鍛錬の手を止め、身長も五メートル以上はある巨人たちに向かって声を掛ける。

「我々は、ディーガレン国の政府の者です。

 ジルゴ殿にお話を伺いたい」

 ディーガレン国? ギューは聞いたことがない。

 というより、この界元のこの星に、国らしきものがあるとは思ってもみなかった。しかも、政府と表現するとは。

 『政府』という表現は、一定以上の社会的な成熟を果たした国家の運営機関を指す表現のイメージがある。

 しかも、この巨人たちも、巨大な槍や見事な甲冑、鉄壁の盾などの視覚に権威を訴えかけてくる恰好をしていない。あくまで、地味で目立たない……しかし、個人を特定のしようもない格好である。巨人なので、ギューからすればどうやっても目立ってはしまうが、恐らく町の中では、『物々しい集団』程度の意味合いしか持つまい。

 彼らの身なりが、この町の外の大人たちとは全く違うのも、仕方のないことだろうか。

 品のあるなしはギューにはわからない。ただ、厳格な感じはする。

「ジルゴさんは、所用で出ています。もし、御用なら日を改めてください」

 ギューは、ジルゴが滞在していることを悟られぬよう、しかも自分が少し度肝を抜かれていることを悟られぬよう、少し強気に、しかし丁寧な物言いで話を進める。

 今まで戦闘一辺倒で、子供であることを前面に押し出していたギューの、初めての大人としての交渉だった。

「どちらに行かれたのか、ご存じですか?」

「もちろん知っています。ですが、僕はあなたたちに教えるつもりはありません」

「ほう……。ご存じはご存じなのですね。何故お伝え頂けないのか」

「……教えたくないからです。教えることは、僕があの人たちを裏切ることになってしまいます。

 もう少しすれば、ジルゴさん自身が貴方たちと話すかもしれません。それまでお待ちください」

 後ろに控えた巨人が二人、少しいきりたち始めている。だが、それを抑える先頭の巨人。

 ふざけやがって……、と苛立ちがピークの後ろの一人は、少し恰幅の良い男性のようだ。そして、その隣の男は、三人の巨人のうちで最も背が高い。少しひょろ長の体躯をし、何かトリッキーなことをやってきそうな気がする。

 余りに巨躯なため、中々身体的な特徴をそれ以外に見出すことが難しい。

 だが、まだこの場で戦闘に突入するわけにはいかない。

 ジルゴとアミツ、そしてその娘ジアはまだ小屋で息を殺しているのだ。

 ディグダインとネスクは、飛行機の改造を行うために、今朝旅立っている。

 彼らは飛行機の改造を急ぎ、ジルゴとアミツ、ジアの回収を急いでいた。それは、恐らくこの事態を予見していたのだろう。

 ディグダインのハイコンピューターは、この星の情勢も掴んでいたはずだ。この星で、大掛かりな戦闘が起きる気配を、ディグダインは勿論のこと、ハイコンピューターはその時期から規模まで、シミュレートしているに違いなかった。

「わかりました。

 我々も出直してきましょう。

 しかし、少年よ。次はあなたの嘘には騙される予定はありません」

 嘘。

 ギューの話の内容の、どこまでが嘘だと、このリーダー格の男は悟ったのだろうか。

「……ジルゴさんでなければ、ダメなんですか?」

 初めて男たちの動きが止まった。

 文字通り、想定外の言葉を耳にしたからだ。

 それは、ギューという少年の無邪気ながらも不敵な発言がきっかけだった。

「ジルゴさんをどうするつもりかわからないですが、もし、ジルゴさんに貴方たちの誘いに乗らなければいけない理由があるなら、それを僕が果たします。

 それでどうですか?」

 一見するとギューの提案は暴挙に思える。

 どんな人間かわからないディーガレンの男たち三人。

 しかも、そのディーガレンという国家は、ユークリッドのこの星に到達してから、一度も聞いたことのない名前だ。

 その国家とやらが、ジルゴに対して貸しがあるとも思えない。ただ、突っぱねればいいのではないか? この男たちの提案を。

 少し恰幅の良い男が、するりと前に出てきた。

 恰幅は良くても、その体そのものはかなり引き締まっているように見える。

「小僧……。調子に乗るのもいい加減にしろ。お前ごときが、ジルゴの代わりになるはずがあるまい」

「……そうでもないかもしれませんよ。

 ジルゴさんの戦闘レベルはすさまじかった。でも、貴方程度なら今の僕で十分です。というか、戦いにすらならないかもしれません」

 黒い帽子の下の目が怪しく輝く。

 恰幅の良い男は一気に間合いを詰めると、ギューに向かって拳を振り下ろした。

 この界元を訪れたばかりのギューなら、『氣』のコントロールもおぼつかないが、『(マナ)』コーティングを身に着けたギューならば、この程度の攻撃などダメージは通らない。

 ギューは恰幅の良い男の拳を小さい動作で躱すと、膝を曲げ伸びあがるように男の腹部に突きを見舞った。

 男は目を剝いて倒れ込んでしまった。

 かなり軽めに突いたはずだったが、オーラ=メイルを纏うことのできるギューであれば、ただの巨人は敵ではなかった。

 そして。

 男たちが何かを言う前に、ギューは言葉を紡いだ。

「今日は、お引き取りください。

 僕は力づくで通ろうとした方を、お止めしただけです」

 改めて、僕を勧誘に来てください。そうすれば、話はうまくまとまるのではないでしょうか?」

 ギューはそう言うと、ゆっくりとリーダーの男に頭を下げた。

 黒づくめの男のリーダーの表情はわからない。だが、にやりと口角を上げた気がした。

「この男が失礼をしました。明日必ず伺います。

 ジルゴが駄目なら、貴方を勧誘するかもしれません」

 そう言うと、長身の巨人に恰幅の良い巨人を担がせ、リーダーの巨人は身を翻し、ジルゴの家から立ち去ったのだった。


「なぜそんな変な回答をしたのよ? そんな答えをしたら、貴方が行かなければならなくなってしまうじゃないの」

 慌てて飛び出してくるジアとアミツ。

 だが、ギューは何か覚悟を決めたようだった。

「……多分、あの男たちは、ジルゴさんやアミツさん、ジアちゃんが、ここを去ったとしても、追いかけてきます。

 その理由は僕にはまだわかりません。でもジルゴさんならばわかっているはず。

 今は、ジルゴさんは眠っていますよね? 後で起きた時にでも今の話を説明して、何が起ころうとしているのかを聞いてみます。

 ひょっとすると、これも『命光石』集めに繋がるかもしれないですし……」

 一見すると、ただの世間知らずな少年の暴挙であり暴走。

 だが、それをそうだと言い切ってしまうことは、アミツにはできなかった。

「とりあえず、今日と明日を凌げば、ディグダインさんたちが『飛行機』という空飛ぶ乗り物で戻って来るはずです。そうしたら、出発してしまってください。

 僕もことが終わったらすぐに追いかけますから」

 少年が、少しだけ頼もしく思えた瞬間だった。

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