10
穏やかな日々は、そう長くは続かなかった。
親子三人でのんびりと庭で会話を楽しみがら過ごしていた、そんな時だった。
――――――――――とんでもない知らせが、ディリアスのもとにもたらされたのは。
使いの者は、なぜかユティシアが側を離れたタイミングで、ディリアスの元に駆けてきた。
一瞬、使者の行動を不審に思ったが、その後、その行動の意味が理解できた。
「陛下、大変です、ティシャールの国主を名乗る人物が、王妃様に面会を求められています!!」
「――――――――――どういうことだ?」
ユティシアがいなかったことに安堵しつつ、ディリアスは使者に問いかける。
ティシャールは戦争をきっかけに、国民主体の、元王佐が治める国に変わっていたはずであり、大国ディスタールとは、国交が途絶えている国だ。
ユティシアにとっては敵であり、命を狙われる可能性のある国であり、王が倒れてからできた国への胡散くささもあり、ディリアスとしては国交を回復するつもりは全くなかった。
その国が、ユティシアに何の用があるというのか。
「それが………要件を聞こうにも、『王妃様に会うまでお伝えできません』と仰るばかりで」
「ユティシアが会う必要もないし、理由も思い当たらない。国主殿には悪いが、帰ってもらえ」
そう言って使者の元から踵を返そうとしたが――――――――。
「陛下、お待ちください」
いつの間にか、ディリアスの後ろには、ユティシアが立っていた。
「その方に、会わせてください」
「自分が言っていることの意味が分かっているのか?」
「勿論、ティシャールの王族の立場として会うわけにはいきませんので、私個人として会う機会を与えていただければ十分です」
「そういう意味ではない!ユティシアの家族が殺されているんだぞ?今更会うなんて危険だ」
「自分の身を守る術なら、あります。ティシャールを逃げ延びたあの時とは違うのです」
焦るディリアスとは裏腹に、ユティシアの決意は固いようだ。
「だが………今は、ユティはあの国にとって敵だ。会って、ユティが傷つくことはない」
ユティシアは首を振った。
「私も…話をしてみたかったのです。いつか、こうしなければならないと思っていました」
ユティシアの瞳に宿る光は、とても強いものだった。