Alive A life
入札室に入る。
狭い個室には武骨な金属器具が存在していた。
拷問道具――今回においては、ゲームの備品。
指をセットしてハンドルを回せば、一瞬で爪を根元から剥ぎ取る。
歯車は総則を思い出した。
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総則3:プレイヤーは入札室では必ず爪を剥がなければならない
総則10:入札室に入ることを拒否する者は処刑する
総則11:入札室を出る際に爪を剥いでいなかった者は処刑する
総則12:5分以上のあいだ入札室に留まっていた者は処刑する
総則14:入札として有効となる爪はその手のみである
総則15:入札室で剥がした爪を入札しなかった者は処刑する
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この部屋に入った以上は爪を剥ぐしかない。
剥がない場合は総則11に違反して処刑される。
また、剥がした爪は全て入札する必要がある。
総則15の制約だ。
余計に剥がしておいて、手元にキープしておく――
といった戦術を防ぐための総則だろう。
意を決して拷問器具に指をセットする。
ドレスの裾を持ち上げて口に含み、しっかりと噛んだ。
ハンドルを……回す!
「――――ッ!」
目の前の視界が歪曲した。
生理的反応として、涙が吹き出す。
目元を流れる液体が、まるで血液かのように錯覚する。
抑えようとしていたうめきが漏れ出る。
耐えろ。耐えるんだ。
外のプレイヤーたちは聞き耳を立てている。
おおよその剥がした枚数の見当はつけられてしまう。
なのに……
「あっ……ああ―――ッ!」
叫び声が止まらない。
痛みに対する反応に耐えられない。
何度も硬い地面を踏みつけて、歯車は歯ぎしりをした。
必死に、身をよじりながら、必要枚数を剥がしていく。
大きく、息を吐いた。
剥がした爪を入札ボックスに入れる。
それと――
懐から取り出した爪を数えて、追加で入札することにした。
やがて、12人のプレイヤー全員の入札が完了した。
ゲームマスターにより、入札結果の報告が始まる。
【チェシャ猫】はダミ声で宣言した。
「うっし、じゃあ第1ラウンドの結果を報告するぜぇ。結果は――」
☆☆☆
総則7:最も多かった入札数と最も少なかった入札数が公開される
総則8:入札した爪の枚数が最も少なかった者全員を処刑する
総則9:ただし、一人でも同じ枚数の入札者がいた場合、該当する爪の枚数にはマイナスの符号が付与される。また、全ての入札者の入札数が同じ枚数の場合には処刑は実行されない
☆☆☆
「最大入札枚数は――10枚。
最小入札枚数は――マイナス4枚。
よって、マイナス4枚を入札したプレイヤーは処刑だァ!」
何人かのプレイヤーの首元で、機械の動作音が発動した。
運営からの配布物――
首輪に仕込まれた針によって即効性の毒物が注入されるッ!
「ぐぼぐぼぐぼぐぼぐぼぐぼ」
泡を吹きながら、女たちが倒れていく。
イチ、ニ、サン、ヨン、ゴ――
第1ラウンドの脱落者は、五人。
生き残ったプレイヤーの一人――
【三月ウサギ】が呟く。
「最小入札枚数がマイナス4枚、ってことは――4枚を入札したプレイヤーが5人もいたってことなの!?」
「別に不思議じゃねーだろ」と【偽ウミガメ】。
「このゲームで入札して有効なのは手の爪だけ。これは足の爪は使えないっていうことだよなぁ。爪の合計は10枚なんだから、全3ラウンドで使える枚数は平均で3枚ちょっと――そこで、安全策を取ろうとして4枚にしたってことだろ。あたしでも考えつくことなんだから、誰だってそう考える」
☆☆☆
総則1:ゲームは全3ラウンドで進行する
☆☆☆
【ホウキ犬】もうなずいた。
「厳密には先天性の体質で、指が多かったり少なかったりする人も、いるかもと思いますけど……だいたいは、それで合ってると思います」
「安全策じゃない……と思う」と言ったのは【編み物ヒツジ】だ。
「マイナスの符号が付与された場合には、実数が大きいほど値としては小さくなってしまう……3枚入札したプレイヤーが複数いた場合にはマイナス3枚になるけど、処刑されるのは最小入札数のプレイヤーだけ。マイナス4枚のプレイヤーがいれば……そちらが優先されて処刑されるんだ」
【三月ウサギ】が疑義を挟む。
「マイナス符号が付いてしまうことを考えると、1枚入札が安パイでしょ? だって、仮にブッキングしたとしても、マイナス1枚なら全てのマイナスの数字の中で最も大きい数字になるわ」
「と、過半数が考えていたとしたら……1枚入札も裏目になり得るわけだ。逆張りで3~4枚程度を入札した方がかえって生存できる可能性もある」
【ドードー鳥】は「なるほど」と手を叩いた。
「君はちょうど3枚入札してたみたいだから、気が気じゃなかったよね?」
【編み物ヒツジ】はわかりやすく狼狽する。
「な、何を証拠に……! 僕は3枚なんかじゃない」
「嘘を吐いてもダメ。君が爪を剥ぐときの声をちゃんと聴いてたんだよ……5枚剥がしたように見せてたけど、2枚分は声の調子に違和感があった」
【ドードー鳥】の指摘に、一同は感嘆した。
「それって……【編み物ヒツジ】があげた悲鳴のうち、2枚はニセモノってこと?」
「納得だぜ。爪を剥がすときの声は我慢できねえが……」
「嘘の悲鳴をあげることはできる、わけですね――!」
議論が活発になりそうになったところで【チェシャ猫】が介入した。
「テメーら、いつまで井戸端会議してんだよ、アァン!? 第2ラウンドを始めさせてもらうぜェ。プレイヤーが5人減って、残りは7人だ。サクサクいこうぜ、命を大事にってな。ヒヒヒッ!」
さっそく、最初のプレイヤーを指名する。
「最初に爪を剥ぐのは、テメーだ【眠りネズミ】ッ!」
【眠りネズミ】はビクリと肩を震わせた。
「ええっ、本官ですかぁ!?」
「黙って気配、消してたろ? ガッコーの授業で先生に当てられないように、必死コイて目逸らしてるガキみてーによォ。そーいうのはめざとく見つけちゃうんだよな、オレはッ!」
やはり、【眠りネズミ】は生き残っていたか……。
「ちぇ。じゃ、本官から行きますね……あっ!」
床には何もないというのに、女刑事は転んでしまう。
「なんだァ、入室拒否かァ? 時間稼ぎは、無駄無駄無駄。覚悟をキメて、さっさと入らねーと処刑しちゃうヨォン」
「い、急ぎます……! 本官、ダッシュですぅ!」
【眠りネズミ】は足を引きずりながら入札室に入っていった。
――さて。
この状況なら、計画を実行するのにぴったりだろう。
歯車は残ったプレイヤーを見回し、問いかけた。
「提案です。第2ラウンドは【眠りネズミ】に脱落してもらおうと思います――そのために、歯車たち6人で入札枚数の協定を結びたいです」
このタイミングを待っていたのだ。
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「肯定します。【偽ウミガメ】の言う理屈は正しいです――あくまで、理屈では。ですが、最も入札数が少なかったプレイヤーが処刑される以上、全てのプレイヤーと協力することはできません」
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全てのプレイヤーと協力することはできないが――
一人を除いたプレイヤー全員となら、協力することができる。
【爪剝ぎオークション】においては、入札の際に入札室とその他で物理的な分断がおこなわれる――このタイミングこそが、密談の好機となるのだ。
歯車に対して【編み物羊】は懐疑的な目を向ける。
彼女は入札室をうかがないながら小声で話した。
「待って。協定は、難しいよ……ゲームは全部で3ラウンドあるんだ。ここで残りの爪枚数を明かす行為は、最終ラウンドのことを考えると致命的になる。かといって爪枚数を明かせなかったら、何枚入札するかっていう協定も意味がなくなるだろ。支払った爪の枚数次第では……そもそも、事前に約束した枚数を入札できない可能性だってあるんだから」
「補充することができます、入札する爪ならば」
歯車は懐から小さな瓶を取り出した。
瓶の中には爪の山。
全て、ここに来る前に剥ぎ取ったものだ。
☆☆☆
「肯定します。歯車の私有地ですから、この山は。安心してください――侵入者には目を光らせています。露見することはないでしょう、歯車が監視しているかぎりは」
☆☆☆
職業柄、歯車の元には悩みを抱えた者が来ることが多い。
死体の処分に困っている者に声をかけて、手伝う。
見返りとして歯車が入手したのは死体の爪だ。
今日という日が来ることがわかっていたから。
歯車は事前に準備することができた。
【ドードー鳥】は合点がいったとばかりに叫んだ。
「そうかッ! おかしいと思ってたんだ。さっきの最大入札枚数者の、10枚というのは――君が外部から持ち込んだ爪!」
☆☆☆
剥がした爪を入札ボックスに入れる。
それと――
懐から取り出した爪を数えて、追加で入札することにした。
☆☆☆
「本来ならば、10枚剥がして入札する行為には意味がない。第1ラウンドは通過できても、以降のラウンドでは総則3と総則11に抵触してしまうから」
☆☆☆
総則3:プレイヤーは入札室では必ず爪を剥がなければならない
総則11:入札室を出る際に爪を剥いでいなかった者は処刑する
☆☆☆
「10枚の爪を剥いでしまったら、もう入札することはできなくなってしまう……だが、【ジャバウォック】には外部から持ち込んだ爪があった。だから10枚の爪を入札することが出来たのか……?」
一同は口々に疑問を浮かべ合った。
「おい待てよ、それっておかしくねえか? 総則3によれば、入札室では絶対に爪を剥がなきゃならねえんだろ……!?」
「爪を剥いだ上で、その爪と一緒に他の爪を入札する……それなら、総則3にも総則15にも抵触しないかもしれません」
「でもそれじゃ、【ジャバウォック】は事前にこのゲームの内容を知ってたってことになるわよね。そうでなければ、あらかじめ他人から剥いだ生爪を用意することなんてできないもの。どうなってるのよ、ゲームマスター!」
【三月ウサギ】の問いに【チェシャ猫】は回答した。
「……ワカンネー。言っておくが、オレたちの運営において外部へのデータの漏洩は絶対に無い。今のところは……この女が爪を普段から持ち歩いてるバケモンってことぐらいしか、考えられネーんだよなァ……」
化け物とは、心外である。
他人よりもちょっと変わった体質なだけだ。
「否定します。これはラッキーアイテムです、歯車の。これからは、皆さんのラッキーアイテムにもなりますが」
歯車は地面に倒れ伏した死体を指差した。
第1ラウンドにて脱落したプレイヤーたちである。
イチ、ニ、サン、シ、ゴ。
【三月ウサギ】、【編み物ヒツジ】、
【偽ウミガメ】、【ほうき犬】、
そして【ドードー鳥】……
ちょうど、五人分だ。
歯車が言いたいことを察したのだろう。
5人のプレイヤーは、食屍鬼の如くに死体に群がった。
「いったぁ……(泣) あれ? 皆さん、どうされたんですか?」
【眠りネズミ】が帰ってきたが、全ては終わっている。
このゲームの大勢は決まってしまったのだ。
「決着です、つつがなく」
【眠りネズミ】を除く全プレイヤーが追加で6枚の爪を入手した。
この6枚のあいだで何枚入札するかを示し合わせればいい。
協定は成立し――第2ラウンドは終了した。




