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ふれんどしっぷ計画っ!~殺人犯の美少女としか友達になれない女刑事、ぼっち脱出のために罪を暴いて脅迫します~  作者: 秋野てくと
Episode FINAL『Desire Drivers』

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25/28

Go!Now!

 ――そして、現在(Present time)。


 賞金総額100億円を賭けたデスゲームが開幕した。

 ゲームの名は【爪剥ぎオークション】。


 円卓の中央に鎮座するのは、猫。

 正確には猫のぬいぐるみ――

 ゲームマスターを名乗る【チェシャ猫】だ。


 周囲を取り囲むのは白いローブを来た人影たち。

 薄暗い地下室に揃いし、12人のプレイヤー。

 いずれも整った容姿をした若い女性ばかりだ。

 もちろん、歯車もその一人である。


 当然だ。


 きっと、これもスポンサーの意向なのだろう。

 見目麗しい美少女が無惨に死んでいくさま――

 それこそが彼らにとっての娯楽なのだ。

 歯車が選ばれたのも、納得がいく。


 だって、可愛いから。


「評価してさしあげましょう、そこだけは」


 首元を撫でると、冷たい感触が応えた。

 運営からの配布物である。

 プレイヤーは全員、銀の首輪を付けさせられた。

 首輪には動物を象った紋章が刻まれている。

 歯車の場合は竜――

 コードネームは【ジャバウォック】らしい。


 【チェシャ猫】を名乗るぬいぐるみが甲高い声で笑った。


「ヒヒヒ。それじゃ、ルール説明は以上だ。呼ばれたプレイヤーは、大人しく集まれヨ。最初のプレイヤーは――【ほうき犬】!」


 【ほうき犬】――不思議の国のアリスのアニメに登場するキャラクターだ。

 犬の紋章の首輪をした気弱そうな少女が顔を上げる。


「わ、私ですかぁ……」


「テメーだよ、間抜け! さっさと入札室に入んなァ! それとも、ゲームが始まる前に死にてぇのかァン!?」



☆☆☆

 総則10:入札室に入ることを拒否する者は処刑する

☆☆☆



「わかりました、行きますぅ……!」


 【ほうき犬】は部屋の隅にある入札室にこもった。

 ゲームマスターである【チェシャ猫】は入札室に声をかける。


「ヒヒヒ。さっさと爪を剥いでくれよォ。あと11人もいんだから。オラオラ、時間が押してんだよ!」



☆☆☆

 総則5:入札する順番は【チェシャ猫】が指定する

 総則12:5分以上のあいだ入札室に留まっていた者は処刑する

☆☆☆



 ルール説明が終わるなり、いきなりゲーム開始とは。


 これではルールを理解する暇もないだろう。

 説明は一度だけなのも不親切きわまりない。

 もっとも――

 フェア・プレイの精神は運営に無いのかもしれない。


 地下室の四隅に仕掛けられた監視カメラを見つめた。

 莫大な賞金を用意したスポンサーたち――

 カメラの奥で、彼らは歯車たちの醜態を楽しんでいるに違いない。


 狂騒と緊張が支配する空間。

 プレイヤーたちは、一様に押し黙る……。


「うーん。なんだか、思ってたのと違いますねぇ」


 と。

 そこに、調子はずれに呑気な声を出す女がいた。


 歯車は隣に視線を送る。

 声の主は、12人のプレイヤーの中でもひときわ幼い印象の女だった。

 もっとも、実年齢は判然としない。

 10代のようにも見えるが、成人のようにも見える。

 体型は小柄だが、目つきだけが鋭い。

 プレイヤーの共通衣装――

 白と黒のモノトーンのドレスに身を包んでいる。

 髪色は透き通るようなマリンブルー。

 現実離れした空間と相まって、魔法使いか何かのようだ。

 首輪が象る紋章は鼠。

 コードネームは【眠りネズミ】。


「ソロゲーっぽいっていうか……お姉さんはどう思います?」


「……話しかけているのですか? 歯車に」


 【眠りネズミ】は媚びるような笑みを浮かべる。


「はいっ。【ジャバウォック】さんに話しかけてます」


「なぜ、歯車なのでしょうか?」


「うふふ。なんだか話しやすそうだったので。あのですね、もしかして、本官とはどこかで前に会ったことありませんかぁ?」


 歯車は無言で首を振る。

 そこに兎の紋章のプレイヤーが口を挟んだ。


「ナンパの常套句? 【眠りネズミ】さんったら、緊張感が無いのね」


 たしか、【三月ウサギ】というプレイヤーだ。

 その隣の【編み物ヒツジ】も陰気な様子で混ざる。


「どう、かな。もしも本当に知り合いだったら、あそこの二人が組んじゃう可能性が、あるかもよ……要注意だ」


 なんだか変な話になりそうだ。


「否定します。その可能性は無いかと」と、歯車は反論する。


「そ、それは……【ジャバウォック】と【眠りネズミ】は知り合いじゃないってこと? でも、そんなこと言われても、僕たちには信じる証拠がないから……」


「というより、組むメリットが少ないです。現状は」


 説明が面倒だ。

 歯車は隣の【眠りネズミ】に目配せをする。

 この女に説明してもらおう。


「先ほど、【眠りネズミ】は”ソロゲー”と言っていましたね」


 【三月ウサギ】は「なぁに、それ?」と問う。


「言い出しっぺの本官が説明しますねっ!」


 【眠りネズミ】は我が意を得たりとばかりに回答した。


「今回の【爪剥ぎオークション】にまつわる16の総則。本官がパッと精査してみたかぎりでは、このゲームには対戦相手を直接妨害する要素がありません。何枚の爪を剥がすのか――何枚の爪を入札するのかは個人の勝敗にのみ影響します。他プレイヤーと敵対することにも、協力することにも意味は薄いんです。そして賞金は3ラウンド後に生存したプレイヤーの山分けとなる……つまり、つまりですよ。ひひひ。本官たちはおっかなびっくりしながら、まるで天災におびえるように、他のプレイヤーとの入札数が被らないようにするのを祈るしかないってことなんです……!」


 歯車もうなずく。


「肯定します。一見して対戦ゲームのように見えますが、本質的にはこのゲームはそれぞれのプレイヤーが別々のゲームを遊んでいる構図に近い。そういったソロプレイ要素を指したのでしょう、【眠りネズミ】が”ソロゲー”と評したのは」


「そのとおりですっ。やっぱり、本官とは気が合いますね?」


「否定しますが……」


 ちょっと待てよ――と、牛の紋章のプレイヤーが手を挙げた。


「敵対する意味はねーかもしれねえけどよ。協力する意味はあるんじゃねえか? 少なくとも、協力したプレイヤー同士で入札枚数が被らないようにすれば、枚数被りのペナルティは避けられるだろ?」



☆☆☆

 総則8:入札した爪の枚数が最も少なかった者全員を処刑する

 総則9:ただし、一人でも同じ枚数の入札者がいた場合、該当する爪の枚数にはマイナスの符号が付与される。また、全ての入札者の入札数が同じ枚数の場合には処刑は実行されない

☆☆☆



「あたし、頭わりーから間違ってるかもしれねえけど……どうだ?」


 牛のプレイヤーである【偽ウミガメ】が言っていることは正しい。

(ちなみに【偽ウミガメ】が牛である理由は、アリスを読めばわかる)

 だが、正しいことが必ずしも通るとは限らない。


 歯車は彼女の言葉を補足した。


「肯定します。【偽ウミガメ】の言う理屈は正しいです――あくまで、理屈では。ですが、最も入札数が少なかったプレイヤーが処刑される以上、全てのプレイヤーと協力することはできません。そして、協力するチームが複数個生まれた場合、他チームの入札との枚数被りが発生するリスクは避けられません。その場合には入札数にマイナスの符号が付与されてしまい、チームの意味がなくなる。何よりも――」


 乾いたコンクリートで囲まれた壁を見回す。


「難しいでしょうね。この狭い部屋で密談をするのは」


「ちっ……それも、そうだよな」


 【三月ウサギ】がため息をつく。


「もちろん、全員の入札枚数を合わせて処刑無しにする――なんてのも、論外よね。1人でも裏切者が入札枚数を上乗せしたら、裏切らなかった全員が最小枚数の入札者扱いになって処刑されちゃうわ……」


 じゃあ、どうすれば――と一同が黙ったところで。



 絶叫。

 部屋の隅から、つんざくような悲鳴が轟いた。



 ほとんどのプレイヤーが息を呑む。


「ねぇ……今のって」


 【三月ウサギ】が虚空に問いかけた。

 続けて、再びの悲鳴。

 叫び声は次第にすすり泣きに生じていく。


「う、うぐぐ……ひいいっ……」


 磁器人形のように造形が整った美貌をちり紙のように歪めて、入札室から出てきたのは【ほうき犬】だった。痛みにこらえながらも抑える両手には、ゲーム開始前に配布された手袋が装着されていた。

 ここにきて、運営の意図を読んだのは【編み物羊】だった。


「なるほど……この手袋は、何枚の爪を剥がしたのかを、他のプレイヤーに悟られないためにあったのか……」


「えっ、いまさら気づいたんですかっ? 本官はですねぇ、ゲーム前からちゃあんと装着してますけど」


 【眠りネズミ】は誇らしげに両手の手袋を見せる。


「いや、剥がす前から着けててもしょうがないじゃない……」


 【三月ウサギ】は呆れた顔を見せる。

 弛緩した空気を引き裂くのは【チェシャ猫】の怒号だ。


「オイオイ、テメーら! 楽しそーに駄弁ってるヒマあったら、とっとと爪剥がしに行けや! そうだなァ、余裕ありそうだから……次は【三月ウサギ】ッ!」


「わ、私がっ!?」


 その後も、ゲームマスターによって順次、プレイヤーが呼ばれていった。


「あのー、ところで【ジャバウォック】さん?」


「話しかけないでください、歯車に」


「もしかして……本官のことが嫌いなんですかぁ?」


 これまで黙っていた【ドードー鳥】が呟いた。


「――ねぇ、君たち。ハグルマとかホンカンとかって何なの、それ」


 何って――

 意図せず、歯車と【眠りネズミ】の声が重なった。


「「一人称です」けど」


 【ドードー鳥】は、ぽかんと口を開ける。


「……二人とも、変わった一人称だね。ハグルマは、機械の歯車?」


「肯定します」


「じゃあ、ホンカンって?」


「大本営発表の本に、勝てば官軍の官です」


「軍国主義に染まってそうだね……」


 【ドードー鳥】とのやり取りを見て、

 ちょっと待てよ、と【偽ウミガメ】が言う。


「本官って、ポリ公がよく言うやつじゃねえか!?」


「えっ、はい。本官は警察官ですけど……?」


 【眠りネズミ】が素性を明かすと、プレイヤーたちに動揺が走った。


「け、警察っ!?」


 なぜ、ここに警察官が?


 警察がいるところでデスゲームなんてしていいのか?

 たぶん事件捜査でしょ……!

 もしかして、ここでゲーム中断なの?

 自分たちはどうなる?


 止まらないどよめき。

 一同に向かって【チェシャ猫】が一喝する。


「騒ぐな、雑魚どもッ! 末端のデカが一匹混じってようと、このゲームの土台が揺らぐことはねェ! 警察だァ? んなもん、オレら闇の権力の使い走りだっつーの! パシリだ、パシリッ! そこのドブネズミはなァ、他の11人のプレイヤーとなんら変わることはねェ。一参加者に過ぎねーんだよ!」


「はい、一参加者で現役刑事の【眠りネズミ】です。今回は楽しそうだったのでゲームに参加することにしました。皆さん、よろしくお願いしますね」


 周囲の動揺をよそに、青髪の女刑事は柔和な笑顔を見せる。

 間違いなく、危険人物。


 ――こいつには関わらないようにしよう。


 そういった合意が成された空気がある。

 誰も【眠りネズミ】と目を合わせようとしなくなった。


 それぞれ、近くにいるプレイヤーと小声で話し始める。


 おそらくは隣り合う者同士で――

 数人単位では入札枚数が被らないチーム作りを始めたのだろう。

 意味が薄いかもしれないが、せめてもの悪足掻きだ。


 これは、好都合かもしれない。


 歯車には知る必要がある。

 この刑事が、どういった女なのかを。


「質問してもいいでしょうか、【眠りネズミ】」


「ええっ。【ジャバウォック】さんの方から話しかけてくれるなんて……ついにデレ期が来てくれましたねぇ、ひひっ、本官はうれしいです……!」


 気色の悪い揶揄はシカトする。


「何故でしょうか? このゲームに参加をしたのは」


「友達探しです」


 即答された。

 一瞬では呑み込めない、異様な言葉を。


 友達探し?


 思わず、歯車は言葉を失った。


「…………なんですって?」


「ここだけの話ですよ? 本官の友達って、人殺ししかいないんです。普通にできた友達も、後から人殺しになったり、人殺しだったことがわかったりして……だから、刑事になったのも、このゲームに参加したのも、どちらも理由は同じなんです」


「探したい、と? あなたの友達になり得る人物を」


「人殺しが多そうですし。期待してたんですけど、このゲームは思ってたのと違いました。なんだろ、デスゲームっていったら、ほら、もっと権謀術数を駆使して、他のプレイヤーを死に追いやるような頭脳バトルを想像してたので……これじゃ、生き残っても、死んじゃっても、殺しても、たまたまです。このゲームの場合、生存したプレイヤーを捕まえても、明確な殺意の立証は難しいですし……人殺しと呼んでいいのかって結構微妙ですよね?」


 何を言っているんだ、こいつは。


「絶句します。おそらくこのゲームの主催者も、ゲームマスターも、わざわざ用意したデスゲームを友達探しに使おうとしたプレイヤーなど見たことがないでしょう――きっと、あなたを除いて」


「【ジャバウォック】さんとは仲良くなれそうですけど」


 話題を変えることにする。

 歯車は気になっていたことを訊ねた。


「いつから“本官”なのですか? あなたは」


 鏡にひびが入るように女刑事の表情が歪んだ。

 余裕が消えた、と言ってもいい。


「え。えへへ、何を言っているのかわからないです……」


「確率で言えば、わずかな差ではありますが。このゲームにおいて、あなたは多少なりとも不利になりました――自らが警察官だと名乗ることによって。しかし、今のあなたはプライベート。本来ならば警察官の身分ではないはずです。本官、などとわざわざ言う必要はありません」


「…………」


「あなたとて、生まれたときから警察官だったわけでもないでしょう? あなたが殺人犯しか友人にできないというのが、真だとしたら……あなたはプライベートの友人に対しても、そのように常に警察官としてふるまうのでしょうか。それは対等な友人関係でしょうか。力関係に偏りは見られないでしょうか。あなたは裁く側ですか。監視する側ですか。強権的な司法の番人を気取ることで、自分が逆らえない相手でないと満足できませんか。なぜ、殺人行為を犯してしまうような女性の精神的な弱みにつけ込む形でしか友達ができないのかを、きちんと考えたことはありますか?」


「えっと……本官、なにか地雷踏んじゃいました?」


 怒りではなく、嫌悪である。


「いつから使っているのですか? その奇妙な一人称を」


「“歯車”だって他人のこと言えないと思いますけど……」


 声色がわずかに硬くなったのを見逃さなかった。

 初めて、この女に人間味らしきものを見た気がする。


「肯定します。同時に、とても愉快です。人並みに腹を立てるのですね――あなたのようなサイコパスであっても」


 生理的嫌悪感を乗せると、思ったより下品な物言いになってしまった。


 余裕を与えてしまったのだろう。

 【眠りネズミ】は仮面を取り戻した。


「うふふ。本官も訂正しますね。【ジャバウォック】さんと仲良くなるには、まだまだ時間がかかりそうです」


 時間なら、それほど残されていない。


 【チェシャ猫】から号令がかかる。

 次に爪を剥ぐのは、歯車の番となったようだ。

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