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ふれんどしっぷ計画っ!~殺人犯の美少女としか友達になれない女刑事、ぼっち脱出のために罪を暴いて脅迫します~  作者: 秋野てくと
EpisodeⅢ『Unknown four』

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問題編③~狙われた新町古都子~

「何を根拠にそんなことを言っているんだ」


「これまでの五件の殺人と今回とでは、明確に異なっている点があります。それは遺体の全身を焼き、歯を抜き、巧妙な工作によって身元を隠していることです」


「あっ……」


「ゲームメイカーは警察に挑戦しています。本官たちを対等なゲームの対戦相手として指名している――だからこそ、自分が絶対的に有利である無差別殺人というゲームにおいて、犯行のヒントを隠すようなことはしません。それはチート行為です」


 考えてもみなかった視点だった。


 新町の推理はおそらく当たっている。

 だからこそ、矛先を逸らさなくてはならない。


「たまたま変わった手を打ちたくなっただけの可能性はないか? これまでだって殺害方法をコロコロ変えているんだ。ここらで試しに焼死体を作ってみたくなった、という考えもある」


「なるほど。たしかに、これまでの殺人では死因はバラバラでした。絞殺、刺殺、刺殺、絞殺、撲殺。……今回の六件目も、たぶんきっと撲殺」


「なぜだ? 六件目の死因はまだ判明してないはずだが」


「詳しい鑑定はまだですが、鑑識さんから聞きました。遺体は燃やされる前に全身が殴打された痕跡があると――おそらくは直接の死因となった凶器を隠すため。となると、隠したい死因は撲殺と考えるのが自然です」


「……相変わらずだな、君の推理力は」


 皮肉ではあるが、賞賛に嘘はなかった。


「友人として、君を誇りに思うよ」


 私がそう言うと、新町は「はへ」と息を吐いた。


「は。はじめてです。ギドラさんに、友達って言われたの」


「そうだったかな……」


「全学年一クラスでたった二人きりのクラスメイトだった、子供の頃から……本官とギドラさんは、てっきりずっとクラスメイトの仲だとばかり……っ!」


「クラスメイトと友人って、そんなに違うものか?」


「まぁ、今は部下と上司の仲ですけど」


 さてと、と新町は荷物をまとめ始めた。


「どこへ行くんだ?」


「捜査です。どうしても気になるんですよ――四番目の事件が」






 江戸川区。

 葛西臨海公園駅を下車すると、潮の匂いが風に混じった。


 このあたりなら、私にも土地勘がある。

 自宅マンションがある船堀から葛西までは、そう遠くはない。


「四番目の被害者。下呂桃ちかるが殺された現場だな」


「はい。このあたりは土地が広々としてますねぇ。東京なのに」


 気になるので、ついてきてしまった。

 新町の推理力は侮れない。

 目の届くところで、監視する必要があるだろう。


「しかし、わからないな。調べるべきは最新の現場である葛飾区、あるいは次の現場になる可能性が高い北区なんじゃないか?」


「もう事件は起きないと思います」


 また、断言口調である。


 それなりに付き合いがあるから知っている。

 こういうときの新町は、私には言わない手がかりを持っているのだ。


「いいや、普通に考えたら……少なくとも、合計で二十三回までは起きるんじゃないか? でなければ、東京23区の区名をヒントにする意味がない」


「23区の区名だけでは、ゲームバランスが成立してないと思うんですよね」


 東京湾の潮風を受けながら、新町はベンチに腰掛けた。


「ゲームバランス?」


「およそ1000万人――東京23区には東京都民の7割が住んでいるんです。単純計算でその1/23と言われても、それで犯行現場となる区を特定したところで、ヒント無しで犯人を逮捕するのは無理ゲーじゃないですか」


「それはそうだが……」


「だからこそ、ゲームメイカーは犯行現場以外にもたくさんのヒントを出してるはずなんです。一体多数の非対称対戦ゲームが成立するような、キーとなるヒントを。たとえば、ターゲットとなる被害者の名前とか……」


 被害者の名前――

 種田ちせ、

 小川彰、

 千葉泰山、

 下呂桃ちかる、

 罪園ゆかり、

 四条河原京介(これは私だけが知っている)か。


「本官、最初は声優さんじゃないかと思ったんですよね」


「声優って……アニメの?」


 新町は真面目ぶった顔で首肯する。


「種田ちせは、種田梨沙。小川彰は石田彰。千葉泰山は千葉繫。罪園ゆかりは田村ゆかり。有名なアニメ声優さんと、苗字か名前のどっちかが被ってるんですよ!」


「いやいや。こじつけも良いところじゃないか……」


「でも、ですよ……ギドラさん! 被害者のそれぞれの職業を思い出してください。種田ちせは女優、千葉泰山は音響技師。どちらも声優さんに近い職業なんです。小川彰は不動産業、罪園ゆかりは占い師なので、これも何かを演じるという意味では大枠で言えば声優さんみたいなものですっ!」


「不動産業については拡大解釈も良いところだな……!」


 営業職全般を芝居だと思っているのか?

 無理がある。

 占い師などと並べられていいはずがない。


「それに、都庁職員の下呂桃ちかるはどうだい? 都庁職員は別に芝居をするわけじゃないし、”下呂桃”も”ちかる”も変わった響きだ。たぶん、そんな苗字や名前の声優はいないんじゃないか?」


「はい……なので、四番目の殺人はおかしいと思うんです」


 おかしいのはお前の推理だろう。


 私は内心で息をつく。

 正直なところ、安心した。

 あの明晰な新町も今回ばかりはポンコツになったらしい。


「不思議なことに、法則が四番目から壊れちゃったみたいで」


 調子はずれな声で新町は告げた。

 不穏な気配を感じる。


「……壊れた、というのは。さっきの声優の話か?」


 風が止まった。

 木の葉が擦れ合う音が失せて、海浜公園に静寂が訪れる。


「いえいえ、あれは間違えました。ボンクラです。ポンポコです。ポンのコツですっ。うふふ。もっともっと明確な法則があったんです、三番目の殺人までは。ねぇ、ギドラさん――ゲームメイカーは事件を起こす前日には必ず警察に署名付きのボードゲームを送り付けて、遺体にも同じものを残します。これまでの遺体の元に残された、六つのボードゲームについては記録していますよね?」


 読み上げろ、と言っているらしい。

 ベンチに腰掛けた新町は、上目遣いのまま上司である私をアゴで使った。


「やれやれ……」


 仕方なく、私は捜査メモを読むことにする。


「種田ちせの遺体の元に置かれていたのは、セネト」


 セネト――

 世界最古のボードゲームという説もある、古代エジプトのゲーム。

 もちろん現場にあったのは出土品ではなくレプリカである。

 ルールについては詳細な記録がないが、すごろくに近いゲームだったのではないかという説が有力らしい。


「小川彰の遺体の元に置かれていたのは、囲碁」


 囲碁――

 白と黒の碁石を用いる伝統ゲーム。

 日本でも国民的なゲームとして定着しているが、ルーツは中国にあるようだ。

 二人零和有限確定完全情報ゲーム――勝敗が偶然によって決することがない究極の実力ゲームとして、将棋やチェスに並ぶ存在である。


「千葉泰山の遺体の元に置かれていたのは、カタン」


 カタン――

 『カタンの開拓者たち』とも呼ばれるドイツ生まれのボードゲーム。

 プレイヤーは無人島の入植者となり、島を開拓していくのが目的だ。

 交渉や生産といった行動を繰り返して、より最も繁栄したプレイヤーが勝利する。


「下呂桃ちかるの遺体の元に置かれていたのは、タギロン」


 タギロン――

 元々は『たぎる論理』というゲームにルールを追加することでリニューアルして制作された、日本生まれの論理パズルゲーム。

 プレイヤーは色と数字が描かれたタイルを持ち、質問カードで相手に探りを入れることによってタイルの正体を推理していくという趣向だ。


「罪園ゆかりの遺体の元に置かれていたのは、ito」


 ito――

 プレイヤー全員が協力することで目的達成を目指すカードゲーム。

 ランダムで決まったテーマについて、手元の数字がちょうど該当するような言葉を思いつくことで、数字が小さい順に並ぶように協力する。

 集まったプレイヤー間での価値観のすり合わせが問われるパーティゲームである。


「最後に、今回見つかった焼死体の元に置かれていたのはボムバスターズ。プレイヤーは爆弾解体班となり、全員でミッション攻略を目指す協力型カードゲームだ」


「第三の事件で用いられたカタンには、奇妙なことがありましたよね?」


「あぁ。警察に送りつけられたものも、事件現場にあったものも、どちらもパッケージにあった”カタン”のうち”タ”の字だけが赤いペンで塗り潰されていたな……」


「OKです。これらのゲームを見てもわかるとおり、仲間外れであることが明白なのは下呂桃ちかるですよね? 第四の殺人。彼女が殺されたことから全てが狂い始めました」


 下呂桃ちかる。

 その名前を告げられて、私は心臓が止まるような思いをした。


 こいつは……どこまで知っている?

 なにに気づいている?


「対戦型論理パズルゲーム、タギロン。本官の推理では、あのゲームから法則がズレることになりました」


「法則……やはりボードゲームにも法則があったのか」


「うふふ。ギドラさんも気づいていたんですね」


「私が気づいたのは、ゲームが作られた年代だよ」


 世界最古のボードゲーム、セネト――

 それから昨年の大賞作品であるボムバスターズまで。


 遺体の元に置かれたボードゲームは年代が進行している。



 セネト(紀元前35世紀)

 囲碁(不明。最古の出土品は唐宋期)

 カタン(1995年)

 タギロン(2017年。たぎる論理は2014年)

 ito(2019年)

 ボムバスターズ(2025年)



 そのことには私も気づいていた。

 明白すぎる法則だったからだ。


 ところが、新町はにべもなく否定する。


「いえいえ、それは偶然です。というより、法則から逆算すると、セネトや囲碁やカタンみたいなゲームが選ばれる理由もわかります。そういう意味では、itoも使いやすそうですけど」


「使いやすいって……何に?」


「ボムバスターズなんか最悪ですよっ。ああっ、誤解しないでくださいねぇ。ゲームは傑作ですが、殺人現場に残すメッセージとしては、という意味です。ひひひ。だいたいギドラさんが言うようなボードゲーム年代進行説が合ってたとしたら、一気に2025年まで飛んじゃって大丈夫ですかぁ? ひひっ。あと、17件も殺人をしなくてはいけなきゃいけないはずなのに、いくらなんでも距離を詰めすぎですよぉ?」


「……まぁ、探せばあるんじゃないか? 17個ぐらいは、有名なゲームが」


「とにかくっ! 年代説みたいなチンケでくだらない思いつきじゃなく、ちゃあんと法則があるんです。ゲームメイカーが警察に用意したヒントですよ。あのスコットランドヤードのミスター・エックスのように、事前に法則を読み解いておけば、我々警察の機動力をもってすればゲームメイカーによる殺人を未然に防げるかもしれない、そんなヒントがあったんです」


「新町くんは、いつそれに気が付いた?」


「第三の事件の後です」


 ふん。

 自信満々な態度だったが、語るに落ちるとはこのことだ。


「おやおや、それはおかしいな。それから三回もゲームメイカーによる殺人が起きてる――君は犯行を未然に防げたりはしてないじゃあないか」


「だから、法則が破れたっつってるでしょうが……ッ!」


 ちっ、と新町は行儀悪く舌打ちをした。


「ギドラさん、いいですか。この連続殺人はですね――」


 そこで、スマートフォンに着信があった。


 私ではない。どうやら新町のようだ。


「はいはい。はいはいはい。ありがとうございます~、持つべきものは親友で・す・ねぇ~! 愛してますよっ、十南《となみ》ちゃん!」


 通話を切った新町は、妙に機嫌が良い。


「……今のは?」


「東都科学捜査研究所の江中《えなか》十南《となみ》ちゃんですぅ。本官の数少ない、ししし、親……友ぅ……ふひっ、親友っ、でしてぇ! ふひひっ!」


「そう、なのか……よかったな」


 東都科学捜査研究所……そういえば、以前に捜査で関わったことがある。

 十南といえば、若いのにかなりのお偉いさんだった。

 言われてみれば、新町とは顔見知りだったか。


 しかし、なぜこのタイミングで連絡が?


「実は、先ほどの焼死体を東都研に送っておいたんです」


「なっ……! 何の権限でそんなことを」


「特命捜査権です。ギドラさんの名前を出したら、すぐ」


 勝手に私の名前を使ったというのか。

 悪びれずに新町は笑う。


「捜査が進展するなら、別に悪いことはないじゃないですか。科捜研と比べても、あそこの検視技術は一級品です」


「進展するならな。だが、みだりに特権を利用するのは――」


「ちゃんと進展しましたよ。まず、死亡推定時刻が三日前と判明しましたので。どうやら犯人が遺体を丸焼きにしたのは、死亡推定時刻を誤魔化すためだったみたいですねぇ?」


「…………っ!」


「表にしてみるとこんな感じですね↓」



一日目:足立区で種田ちせ殺害される

二日目:荒川区で小川彰殺害される

三日目:板橋区で千葉泰山殺害される

四日目:身元不明の焼死体が殺害される(本官は有給♪)

五日目:江戸川区で下呂桃ちかる殺害される

六日目:大田区で罪園ゆかり殺害される

七日目:葛飾区で身元不明の焼死体発見される(今日)



「となると、こうしてはいられません。真犯人の元へ行かなくては」


「真犯人……?」


「葛飾区で発見された遺体を殺した、真犯人です。あの事件はゲームメイカーによる殺人ではありません。別に殺害した真犯人がいる――四条河原京介を殺害した、殺人犯はまだのうのうと暮らしているんですから」


 四条河原京介。

 その名前が割れたということは――


「まさか、身元も判明したのか?」


「DNA照合でヒットしたみたいです。過去に犯罪歴があって助かりました。というか、そういうヤカラだからこそ必死で身元を隠したんでしょうけど。ま、無駄な足掻きでしたね。相手が悪かったと言いましょうか。本来は焼死体からのDNA採取は難しいんですけど、十南ちゃんは優秀ですし、失敗しないのでっ!」


「なるほど……犯人逮捕まで、秒読みといったところか」


 いかん。

 最悪の事態が進行している。

 このままでは、あの子の元にたどり着かれる可能性が高い。


 末都メフィ――私のいとしい人。


 彼女のためなら、私はなんだって出来る。

 こうなったら――覚悟を決めるべき時かもしれない。


「なぁ、新町くん」


 引き金は、思ったよりも軽かった。

 私は――利根川祈祷羅は意を決する。


 大丈夫、大したことではない。


「事件の話について、きちんと私にも聞かせてくれないかな?」


 死体がもう一つ、増えるだけのことなのだから。

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