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ふれんどしっぷ計画っ!~殺人犯の美少女としか友達になれない女刑事、ぼっち脱出のために罪を暴いて脅迫します~  作者: 秋野てくと
EpisodeⅢ『Unknown four』

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問題編②~スコットランドヤード~

 葛飾区、荒川沿いの河川敷にて男性の焼死体が発見された。

 現場に到着した私は、機捜の若手刑事に確認する。


「人着は?」


「難しそうです。なにせホトケさん、丸焦げになってるもんで。それと鑑識の話だと、歯が見つからないそうです」


「歯科所見での特定は難しいか……。それが狙いか?」


「ええ、警視。歯は人体で最も硬度に優れ、燃えづらい組織ですから――見つからないということは、別にして処分されているものかと」


 もちろん、それが狙いだ。

 初動捜査は狙いどおりにつまづいているらしい。


「あのぉ」


 と、気の抜けた声がする。


「ギドラさん、人着って何でしたっけ?」


「人相と着衣。いい加減、君も符丁くらいは覚えられないのか?」


「うふふ。なんか刑事ドラマっぽくて良いですよね」


 遊びじゃないんだぞ、バカ者め。

 私は呼んでもいないのについてきた部下を観察する。


 新町《あらまち》古都子《ことこ》。


 私同様に警察庁の所属であり、階級は警部補。

 ナチュラルメイク、否、ノーメイクの美人だが中身は残念。

 奇人変人の類である。

 コロコロと髪型を変えるのが趣味らしい。

 今日は透き通るような青い髪をお団子にまとめている。

 いや、それはティーンエイジャーにしか許されない髪型だろ。

 見た目はまるで子供のようだが、年は二つ下の24歳。

 衣服には金をかけない流儀らしく、未だに新卒のスーツを着古している。

 身だしなみについては、いつも小言を言っているのだが……

 「うふふ」と気色悪い笑みを浮かべて誤魔化されてしまう。

 それでも、私がこの女を無碍にできない理由は二つ。


 一つは、同郷出身の幼馴染であること。

 一つは、彼女の能力。


 能力といっても、超能力や魔法といったオカルトではない。

 推理力――いわゆる一つの、名探偵なのだ。


 とはいえ、今日はその推理力こそが鬼門となる。


 今回の事件の犯人は――

 何を隠そう、この私なのだから。


「君のことは呼んでなかったと思うが」


「他には面白そうな事件がありません」


「まったく、遊びのつもりか……?」


 これでは、ゲームメイカーと同じじゃないか、と。

 嫌みを言ったつもりだが、まったくこたえていない。


「毎日のようにゲームメイカーによる殺人が起きているというのに、先日は有給まで取っていたじゃないか。昨日と一昨日も、別事件の応援に行っていたし。てっきり、もう君はこの事件に興味がないのかと思っていたが」


「本官が休んだ日には、殺人事件もお休みだったじゃないですかぁ」


 新町は鼻歌まじりに証拠品の一つを取り上げた。


「今回のゲームは……あっ、ボムバスターズ!」


 小さい手で抱えるようにして新町が掲げるのは、擬人化された可愛らしい動物のキャラクターが表紙に描かれた化粧箱だった。どうやらボードゲームの一種らしく、二足歩行となった動物たちが爆弾解体をするイラストの上に「BOMB BUSTERS」と文字がある。


 これまでの事件通り――

 その箱には赤いインクで「GAME MAKER」と落書きされている。


「予告どおりですねぇ」


「今回も警視庁宛てに同様のゲームが送りつけられていた。またしても事件の前日、つまり昨日だな。外部には捜査情報が漏れないようにしているから、やはりゲームメイカーの殺人で確定だろう」


 新町を見下ろして、私は眼鏡を整えた。


「大田区の事件と同じく、今回も近年発売されたゲームのようだな……」


「えっ、知らないんですか、ギドラさん。ボムバスターズと言えば、ドイツ年間ゲーム大賞2025の大賞を受賞した傑作ですよっ!」


 知っている。知らないふりをしただけだ。


 ゲームメイカーの犯行に見せかけるために、わざわざ量販店で買ったのだから。


「あとですね、ボムバスターズのゲームデザイナーは林尚志さん。なんと、日本人がドイツ年間ゲーム大賞を受賞するのはこれが初めてなんです」


「それは……すごいのか?」


「すごいなんてものじゃありません。ドイツといったらボードゲームの本場です」


 連続殺人鬼、ゲームメイカー。

 ヤツは犯行の証として、事件現場に必ずゲームを残していく。


 ゲームといってもニンテンドースイッチなどではない。

 いわゆる非電源、ボードゲームと呼ばれる類のものだ。


 また、現場に残されたゲームには必ず「GAME MAKER」という署名が残されている。用いられたのは赤い油性サインペンであり、メーカーについては東都科学捜査研究所によってメーカーが特定されていた。私は同じサインペンの入手に成功し、筆跡を真似て署名を残すことにしたのだ。


 メフィの殺人を、ゲームメイカーの仕業に見せかける。

 これが私の立てた犯罪計画である。


「しかし、六件目の殺人はやはり葛飾区か。これで殺人の法則性は確定したようだな。新町くん、君の推理どおりというわけだ」


「えへへ。それほどでもあります」


「謙遜しなくていい……いや、してないな」


「はい」


「謙遜したまえ」


「それほどでもありません……」


「よろしい」


 新町は、事件の初期段階でゲームメイカーの殺人の法則に気づいていた。

 報告を受けたときには、まさかと思っていたが――

 おかげで、私の計画が成立した。



 ここで、これまでの事件について整理しておこう。



 第一の事件。

 被害者は種田《たねだ》ちせ。

 職業は女優。

 現場となったのは足立区・西新井大師付近の住宅街。

 死因は絞殺。


 第二の事件。

 被害者は小川《おがわ》彰《あきら》。

 職業は不動産業。

 現場となったのは荒川区・荒川自然公園の一角。

 死因は刺殺。


 第三の事件。

 被害者は千葉《ちば》泰山《たいさん》。

 職業は音響技師。

 現場となったのは板橋区・ときわ台駅付近のスーパーの駐輪場。

 死因は刺殺。


 第四の事件。

 被害者は下呂桃《げろもも》ちかる。

 職業は都庁職員。

 現場となったのは江戸川区・葛西臨海公園そばの林。

 死因は絞殺。


 第五の事件。

 被害者は罪園《つみぞの》ゆかり。

 職業は占い師。

 現場となったのは大田区・蒲田駅付近の繁華街の路地。

 死因は撲殺。


 第六の事件。

 被害者は身元不明――となっている。

 もっとも、私は知っている。

 四条河原《しじょうがわら》京介《きょうすけ》という半グレのチンピラだ。

 死因は撲殺――灰皿によって頭を殴られている。

 が、燃やす前に全身を殴打しておいたので、直接の死因は特定できないだろう。



 そして、新町が特定した殺人の法則とは――


「足立区。荒川区。板橋区。江戸川区。大田区。そして、葛飾区。ゲームメイカーは東京23区を渡りながら、一件ずつ殺人を実行しており――さらに、その順番は」


 あだちく。

 あらかわく。

 いたばしく。

 えどがわく。

 おおたく。

 かつしかく。


「事件が発生する順番は、現場となる23区の区名があいうえお順になるように実行されている――そうだな、新町くん?」


「当初、本官の推理では――犯人は殺人を行いながら隣の区へ、隣の区へと渡り歩いているものだと考えていました。第一の殺人の舞台は足立区です。第二の殺人が行われた荒川区へは、荒川を一本越えただけの隣同士ですから」


 大筋は合っているが、誤りに気づいた。


「足立区と荒川区の境界を流れる川は、荒川ではなく隅田川だよ」


「えっ、あれって隅田川なんですか? では、荒川は?」


「荒川区には荒川は流れていないよ、新町くん」


「じゃあなんで荒川区なんですか。納得いかないんですけど」


 そんなもの、私の知ったことではない。

 妙なところで神経質なんだよな、この子は……。


「とにかく。最初に法則が破れたのは第三の殺人だね?」


 新町はうなずいた。


「荒川区から板橋区に渡るには、北区か豊島区を経由する必要があります。このことに気づいた本官は、ゲームメイカーが東京23区あいうえお順殺人ツアーを実行している可能性を推理して、ギドラさんに報告しました」


「あの時点では眉唾ものだったがね……よく気づいたな」


「ゲームメイカーが我々警察になんらかのヒントを与えていることは本官の中で確定していました。なぜならば、これは東京23区を舞台にしたゲームだからです」


「ゲーム、か。悪趣味な話だ」


「ギドラさんはスコットランドヤードをご存知ですか?」


 スコットランドヤード――

 ロンドン警視庁のことだろうか?


 由来は知らないが、イギリス首都・ロンドン全域をカバーするロンドン警視庁のことを伝統的にスコットランドヤードと呼ぶのは知識として知っていた。


 私がそう答えると、新町は首を横に振る。


「ボードゲームの方です。今回の事件現場にあったボムバスターズと同じく、ドイツ年間ゲーム大賞を受賞した名作ゲーム――もっとも、受賞したのは今から40年以上前のことですが。このゲームではロンドン市内を再現したゲーム盤を使って、プレイヤーは逃走犯であるミスター・エックスと、それを逮捕する刑事に分かれて遊びます。ここでポイントとなるのは……ミスター・エックスを担当するプレイヤーは1人だけ、という点です。このゲームは最大6人まで遊べるのですが、残りのプレイヤーは全員が刑事となります」


 それでは、ずいぶんと不公平な印象だ。


「犯人のプレイヤーはすぐに捕まってしまうのでは?」


「そこがミソです。ミスター・エックスはロンドン市内を逃走するのですが、現在地を隠しながら移動することができるのです。ただし、移動する際には利用した交通機関を報告する必要があり――刑事側のプレイヤーはその情報を元に、ミスター・エックスの居場所を推理することになるのです。また、定期的にミスター・エックスが現在地を報告するタイミングがゲーム中に存在しています」


 新町の言いたいことがわかってきた気がする。


「ゲームメイカーが現実世界の東京を舞台にして似たような殺人ゲームを遊んでいるつもりである、と仮定すると……スコットランドヤードにおけるミスター・エックスのように、自らの犯行の手がかりとなるヒントを意図して残さなければ、ゲームが成立しないということか?」


 あまりにも傲慢な思考だ。

 犯行を隠すどころか、わざわざヒントを与えるとは。


 だが、無差別殺人は警察側に不利なゲームであるのは事実だ。


「ギドラさんもご存知の通り、殺人事件のほとんどは家族や友人・知人間のトラブルが原因です。通常の殺人事件なら、人間関係から辿れば犯人を検挙できます――逆に言えば、被害者と何のかかわりもない人間が衝動的に起こした行きずりの犯行の場合には、初動捜査の失敗がそのまま迷宮入りにつながってしまいます」


「……そうだな」


 知人間のトラブル。

 メフィが犯した殺人が、まさにそれだ。

 だからこそ――


「だからこそ、この殺人はゲームメイカーの仕業じゃないんですけど」


「なんだと?」


 予想外の一言に、思わず素に返ってしまった。

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