6話 異端の能力
紡時風の上半身は破裂し、
飛び散った肉片が転がった。
虎落の目は、
その間もずっと分析を行なっていた。
黒のベーダー星人が何かをしたのは間違いない――
人間の持つエナジー値に対して、
侵略者には、ユニバース値が存在する。
瞬間的に、黒のベーダー星人のユニバース値は跳ね上がった。
しかしなぜ、風が破裂したのかわからない。
それよりも、
笛は勝てるかもしれないと期待したことを悔やんだ。
雷鳥がやられたほどの敵だ。
能力なしの風が、どうこうできるわけがなかった。
「無念……」
3体のベーダーが虎落に向かって歩いてきた。
「!」
その時、
虎落の目がエナジー値を確認する。
――ドオォォンッ!
中型トラックが空から落とされ、
ベーダー星人たちに直撃、
――したかに見えた。
だが、弾かれるようにトラックが砕けた。
また、黒いベーダー星人が何かをしたようだ。
「虎落、無事か!」
「笛ちゃん!」
援軍が来てくれた。
怪力能力の剛海と、
回復能力の伊安だ――
「伊安さん! 副隊長の回復を!」
「!」
「首が折れています!
大至急お願いします!」
伊安が雷鳥のもとへ急ぐ。
その時、胸元が破裂している遺体に目が行った。
「……紡時くん?」
伊安は察した。
能力検査にここに来た。
そしてこの事件に巻き込まれ、紡時は殺された。
彼はもう無理だ。
即死だった――
伊安は、意識を雷鳥のみに向ける。
「息がある!
集中するから剛海くんはフォローをお願い!」
「おぉ!」
伊安が雷鳥の回復に入る。
剛海がベーダー3体を相手にする。
――無理だ。
剛海のインパクトは最大で5t。
武器を持った護衛の2体は、9tのインパクト値だ。
まともに戦えば1分も持たない。
「オラァー!」
剛海は、駐車場にある自動車を投げつけて距離をとる。
まともに戦ってはいけない――
本能でわかっているのだろう。
「それにしても……」
見えないバリヤーのようなもので、すべて弾かれている。
「なんなの?」
虎落は目を凝らす。
分析が彼女の能力――
ベーダーに向かっていく自動車が、
押し返されるようにひしゃげて砕けていくように見える。
「……」
続けて剛海は、
砕けたアスファルトを握り締めて投げた。
しかし――
同じように弾かれた。
「!」
虎落の目の中に文字が浮かんだ――
【斥力――】
物体を反発させる能力。
「剛海さん!
奴は、物体を反発する能力を使っている。
気をつけて!」
「物体を反発って!
どう戦えばいいんだよ?」
剛海に護衛の2体が飛びかかった。
「!」
「避けて!」
振り下ろされたハンマーが剛海の右腕を潰した。
「うあぁあぁー!」
叫びながら後方へ避難する。
「剛海くん!」
「……っ!
伊安は……副隊長に集中しろ!」
右腕を破損――
戦闘続行は不可能だ。
剛海は意識こそしっかりしているが、
もう戦えない。
次のベーダーの攻撃で彼は終わる。
死ぬとわかって、少しでも時間を稼ごうとしている。
虎落は分析の能力を閉じた。
「こんな時に……
分析なんてしている場合じゃないよ……」
虎落は再び立ち上がる。
「伊安さん! 銃を貸して!」
「?」
「少しでも時間を稼ぐから!」
伊安が虎落の方を向いた。
「あなたの仕事は戦況の分析!
無駄死にすることじゃない!
この状況でも、勝つことを考えないと!」
「今、必要なのは時間稼ぎ……
援軍が来るまで、副隊長が復帰するまでの肉の壁になる!」
「……もっと、作戦はあるはずよ!
冷静になって考えて!」
「冷静よ!
これしかないの!」
「嘘よ!」
「嘘じゃない!」
「それじゃ、どうして……
どうして――そんなに泣いてるの……」
絶望の中、
防星官の頭脳である彼女の思考は止まっていた。
命を捨てて、後を任せる。
覚悟があるようだが――
無責任な覚悟。
そんな虎落の後ろに、
護衛の2体が立っていた。
彼女はユニバース値の動きで、
敵が真後ろにいることはわかっていた。
なんとかしたかったけど、なんともならない。
勝ちたいけど、勝てない。
死にたくないけど――
死ぬしかなかった。
――ズキッ!
その時、虎落の目が疼いた。
――エナジー反応?
援軍が来た!
どこ?
どこにいるの――?
「!」
虎落は気付いた。
目の前の伊安、そして剛海――
真後ろのベーダーが一斉に同じものを見ていることに――
エナジー反応はそこにある。
虎落は彼らと同じ方向に首を向けた。
「!」
そこには、
死んだはずの紡時風が起き上がって立っていた。
「……紡時くん。
あなた……死んだはずじゃ?」
「!」
虎落の目が分析を始める。
エナジー値――反応あり――
能力――発動中――
能力名――時を紡ぐ者……?
「……能力が……ある?
……時を紡ぐ者ってなに?」
口からぽつりと言葉がこぼれた。
次の瞬間――
虎落の目から、エナジー反応が消えた。
「?」
風が顔を上げた。
その場の全員が言葉を失っている。
死んでいた人間が、生き返ったのだから当然だ。
それより、
虎落の頭は混乱していた。
「能力発動中の文字が見えた。
エナジー値、上昇中も確認できた。
それなのに――
すべてが消えて、普通の能力なしの表示になった?」
風がゆっくりと動き出した。
胸を摩りながら呟く。
「まただよ……。
なんで生き返るんだ俺は……
また胸の辺りが熱くなってやがる」
身体の奥で、何かが脈打っている。
風はすでに、昨日から3度目の経験だ。
死ぬほど怖いはずなのに――
身体が高揚しているのがわかる。
そしてあの感覚――
何かが心に語りかけてくる感覚。
目の前の敵に対し、
――壊せ、全てを喰らい尽くせ――
と、命令されているようだ。
「このあと……
なんでか知らないけど滅茶苦茶強くなるんだよ。
俺……」
「紡時くん……」
「虎落さん……
これでも能力持ちじゃないんでしょ俺?」
護衛の2体が同時に襲いかかる。
風は反射的に拳を振って、
1体の頭部を吹き飛ばした。
続けて蹴りを放つと、もう1体の上半身が砕け散った。
「なっ、なんだ……あいつは?」
「紡時風……
昨日ベアルガを素手で殺した男性……」
剛海と伊安に緊張が走る。
しかし、虎落だけは違った。
「紡時さん……
今のあなたに能力はない――でも」
「……?」
「起き上がった瞬間、
確かに能力が発動し、エナジー反応があった……」
「えっ!」
「あなたは……能力なしではない。
あなたは……おそらく異端の能力を持っている」
「……異端の能力?」
風と黒のベーダーの戦いが始まる。




