44話 雷神の願い
国立病院の特別入院室。
見張りの防星官が2名常駐し、
2つのセキュリティーを解除しないと部屋には入れない。
外部からの侵入は不可能に近いほどの厳重な監視体制。
その特別入院室に彼はいた。
――防星省・第6支部隊長 雷鳥 鳴蔵
日本防星官最強の男と言われた男は、
病に伏せていた。
余命3ヶ月――
それが彼に残された時間だった。
彼は少しずつ消えていくその時間を、
惜しみながら過ごしている。
そんな彼の1つの希望が、
本日叶おうとしていた。
――コンコン!
扉がノックされた。
「はい」
「雷鳥です」
「どうぞ」
扉が開かれた。
部屋には看護師でありながら、
ボディガードも担う女性防星官が1人。
そしてベッドには横たわる鳴蔵がいた。
女性防星官は鳴蔵と響に一礼すると、
部屋から出ていった。
そして――
「隊長、お連れしました」
「あぁ……お呼び立てして申し訳ありません。
――紡時 風さん」
今日は鳴蔵がかねてより会いたいと言っていた、
紡時風との面会日だった。
「初めまして、紡時です。
雷鳥さんにお会いできて光栄です!」
「はは……そう言ってもらえると助かります」
今の鳴蔵に過去の面影はなかった。
防星官最強の男――
生きる雷鳴――
雷神――
日本どころか世界中にその名は知られていた。
風も幼い頃は、
そんな彼に憧れていた1人だった。
しかし、
痩せ細った身体に、
至るところから無数の管が繋がっている姿に、
当時の面影はなかった。
「君の活躍をいつも見ています。
今や私は……あなたのただのファンです……」
「そんな……ファンだなんて、
照れますね……なんか」
「そこの息子の響も……
立場上、口には出せないが、
きっとあなたのファンだ」
姿勢を正しながら2人を見守る響は、
顔を赤らめた。
「今は民間のブレイカー会社で働かれているとか?」
「はい。タイガードロップという会社で働かせていただいています」
「タイガードロップか……
いいところを選ばれましたね。
なんといっても、
あそこの親方が良い」
「ご存じなんですか?」
「えぇ、社長の虎落狩……
彼のことも大ファンですよ」
「マジですか!
社長のこともですか!」
虎落社長の話題に触れたことで、
風の緊張は一気に解けた。
虎落 狩――
彼の底知れぬ顔の広さには、
今でも驚かされる。
そのあとは、
ベーダー星人ダクネスの襲撃と、
先日のブラッドとラバーニ襲撃の話題になっていった。
「あなたがいないと、
あの時点で日本は落ちていたでしょうね」
「いやぁ、そんなことないと思いますよ」
「ふふっ、恥ずかしい話ですが……
全盛期の私でも、
ベーダー星人を抑える自信はありませんよ」
「……」
「それほどの災害だったのです」
3人に沈黙が落ちた。
「虎落防星官から、
あなたの能力は異端の能力だと聞いています」
「……そうですね。
そんなことを言われたような気もします」
「死を乗り越え、学び、
他者の力を己のものとする能力。
時を紡ぐ者……」
「……はい」
「宇宙規模で言えば、
異能の種……それに当たります」
「!」
風はブラッドに言われた言葉を思い出した。
――異能の種。
先日、
同じことを言われたばかりだ。
「私もね……
異端の能力者なんですよ」
「えっ?」
「世界でも日本でも、
異端の能力者という言葉を使って区分けはしているのですが、
取り決めがない」
「取り決め?」
「宇宙では、
能力者が覚醒し、
異常な力を持った者を総じて異能の種と呼びます。
しかし地球では異端の能力者と呼ぶだけで、
特別視していない。
むしろ――
異常なものとして扱う……」
「……」
「私は……
当時、その異常な強さから侵略者扱いされました」
「雷鳥さんがですか?」
「はい……」
「信じられない。
僕たちの憧れですよ。
そんな人を侵略者扱いだなんて……」
「人間なんて勝手なものでね。
災害扱いしている者が、
数々の災害を処理していくと、
ヒーローに祭り上げるんですよ」
どこかで聞いたような話に、
風は言葉を失った。
「かつて災害だった男は、
雷神とまで言われるようになりました」
雷鳥 鳴蔵――
彼の戦闘スタイルは稲妻そのものだった。
距離という概念を覆すスピード――
攻撃とダメージの時差――
数々の侵略者は、
殺されたことすら気付いていなかった。
「今は管に繋がれて、
身動きすらできない有様ですが……」
「……いえ」
「民間のブレイカーでもいい……」
「?」
「日本は……
あなたを必要としています。
防星省にあなたを認めない者がいるかも知れない。
でも、
認める者も必ずいる」
「……」
「我々のように……」
鳴蔵は、
かつての自分と風を重ねて話しているようだった。
「あなたが異能の能力者でなくてもいい。
ただ、その類稀な力で、
どうか日本を守ってほしいのです」
「……はい。
できる限り、お役に立ちたいと思っています」
風の返事を聞くと、
鳴蔵は安堵した表情を見せた。
「紡時さんが、
人格者で良かった……」
「人格者なんかじゃないですよ」
「ぜひ……
防星省に来ていただきたかった」
「それは大変ありがたい話なのですが――」
「大丈夫……
あなたが協力してくれるつもりなら、
無理強いはしません」
「!」
「ふふ、
何よりあなたのボスは虎落狩……
彼のもとにいるなら安心です」
「?」
「今日はありがとうございました。
紡時さんに会えて、
本当に良かった」
「こちらこそです」
響と風が部屋を出ていく。
女性防星官が、
交代するように部屋へ入ってきた。
「紡時さん」
「はい?」
鳴蔵の呼びかけに、
風が振り返った。
「虎落社長に今日のことは言いましたか?」
「いえ……
極秘でって言われていたので」
「そうですか……では」
「?」
「鳴蔵が……
情けない姿を晒して、
会いたがっていた……
とだけ伝えてもらえませんか?」
「えっ?」
そのまま扉が閉まった。
「隊長……
お話のし過ぎは身体に良くありません」
「あぁ……でも、楽しかった」
「……」
鳴蔵は天井を見上げ、
ゆっくりと目を閉じた。
何かを懐かしむような表情を浮かべながら、
ぽつりと呟く。
「紡時くんは迷わない……
だってお前がそばにいるんだから――
なぁ……虎落のガッチャン」




