42話 覚醒者
大柄なベーダー星人・ランブ。
細身のベーダー星人・シャン。
彼らは自ら拘束を解き、
そこに立っていた。
「いやああぁぁあぁーっ!」
木庭が腰を抜かして座り込んだ。
解き放たれたベーダー星人を目の当たりにすれば、
当然の反応だろう。
「ど……どういうこと?」
「お前が異能の種を知りたいと言ったのだ。
戦えば少しは学べるだろう」
「戦うの!?」
「賢いお前のことだ。
あいつらを殺すようなことはしないだろう。
ただし、あのでかい方には――触れるなよ」
「……ごめん、聞き逃した。
あのでかい方には……なんて?」
「……」
ランブとシャンが風の前に立ちはだかった。
「何事も経験だ……
ラバーニも異能の種だったが、お前とは相性が悪かった」
「あれが異能の種って言われたら、なんとなくわかる……」
「シャンには殺しにかかってもいいぞ」
「シャンって……あの女性っぽい方か……」
「お前では殺せないからな……」
「?」
ランブが飛びかかってきた。
早いが、躱せないほどではない――
風は躱した勢いのまま、シャンの方へ向かった。
2体とも兜を被っており、表情が読めない。
シャンとは素手でのぶつかり合いが始まる。
これも……特に違和感のない普通のベーダー星人のレベルに感じた。
風は距離を取り、再び2体と向かい合った。
「?」
ランブが両手のプロテクターを外し始めた。
シャンは兜とプロテクターを外し、
ボディースーツのみの姿になった。
シャンは、薄い青肌にブロンドの髪を靡かせた、
美しい女性戦士だった。
身軽になったことが、
異能の種と関係があるのだろうか?
シャンが飛びかかってきた。
別段スピードが早くなったわけでもない。
激しい連続攻撃を繰り出される中――
「ごめん!」
そう言って、
風はシャンの腹部にパンチを繰り出した。
――ジャブッ!
風の拳がシャンの腹の中にめり込んだ。
傍から見れば、拳が貫いたように見える。
しかし風には、
水を殴ったような感覚が拳に伝わっていた。
「これは?」
シャンの身体がすべて液体へと変わり、
風の拳がめり込んだ腹部から、
風の全身を水で包み込んだ。
「ゴボボッ……ブゴフッ……」
「どう?
水のない場所で溺れる気分は?」
「バボォ!」
「わたしの中で死になさい」
息ができず苦しむ風の目に、
こちらへ飛び込んでくるランブが見えた。
この状態の風へ向けて、
手のひらを突き出している。
直感で――
触れられてはいけない。
そう感じた。
次の瞬間――
――ズパーンッ!
風の身体を飲み込むシャンと、
手のひらを向けて飛び込むランブを、
“斥力”を使って、同時に弾き飛ばした。
これはベーダー星人ボス個体、
ダクネスの能力だ。
全身が液体化していたシャンは、
斥力によって飛び散った。
だが、飛び散った液体はすぐに一塊となり、
シャンの姿へ戻った。
「!」
そして、もう1体の吹き飛ばされたランブは、
シャンが座らされていた椅子へ直撃する――
その瞬間。
プロテクターを外した手で、
一瞬だけ椅子に触れた。
ブワッサッ!
その椅子までもが、再び粉塵となって崩れ落ちた。
「?」
風は考えを巡らせた。
シャンは、全身を液体に変化できる能力。
ランブは、触れたものを粉塵に変える能力。
……だろうか?
「そこまでだ……」
ブラッドが間に入った。
「これが異能の種だ……
少しはわかったか?」
「……わかったような、わからないような」
ブラッドは深くため息を吐きながら話し始めた。
「ランブの能力は、
触れた物を分子破壊する能力だ」
「それじゃ俺、
斥力で弾かなかったら死んでた!?」
「もともとは、
触れた物の物質を見分ける能力を持つ非戦闘員だった。
しかし、ある日覚醒し、
触れた物を解読すると、分解できるようになった」
「それって最強の力じゃないの?」
「最強だ。
しかし、触れなければ発動しない能力だ。
遠距離攻撃が得意な敵や、
高速移動をする敵には話にならない」
「……弱点があるんだ」
「そうだ。
能力と本人の戦闘力が釣り合っていない」
次にブラッドはシャンを見た。
「そしてシャンは、
全身を液体化させる能力だ。
水を扱う能力の完成版というべきか……」
「地球にも、
水使いの防星官やブレイカーはいるって聞くけど」
「もともとは、
水を使ってさまざまな攻撃ができる戦闘員だった。
しかし、ある日覚醒を起こした。
全身を液体へ変化させるまでになったのだ」
「それってどんな攻撃も効かない……
最強の防御だよな」
「物理攻撃にはそうだ。
しかし、火や雷にはまったく歯が立たない。
異能の種ではあるが、弱点も多い」
「……」
そしてブラッドは風を見た。
「異能の種とは、
もともと持っていた能力が、
何かを機に覚醒した者を指すのだ。
お前は、もとの能力がなかったのだろう?」
「……そうだよ。
それで随分と苦労したんだ」
「能力がないまま生きてきたこと自体が、
能力だったのかも知れない。
もしくは、外的要因で死んだ瞬間に生き返る能力だったのかも知れない」
「……死んで生き返ったら、
ビックリするくらい強くなってるんだよ」
「生き返るため、初めて能力が発動した瞬間に、
覚醒したのかも知れない」
「そんな偶然あるかな?」
「それとも、まだ覚醒していないのかも知れん……」
「いっ!
これ以上すごい力になるの!?」
2体のベーダー星人は、
黙って話を聞いていた。
異能の種とは、
能力が覚醒した者を指す。
ブラッドは風を異能の種と呼んだが、
風に対して、
未覚醒の能力者である可能性も示唆した。
はっきりとしたことは、
まだわからない。
しかし、
ベーダー星人の話を聞いていると、
少しだけ自分のことが理解できたような気分になった。
「……ありがとう。
ずっと、自分が異常者みたいで怖かったんだ」
「普通は拷問でもして聞き出すものだが……
地球人はよほどのお人好しのようだ」
「地球人って、
宇宙の中でも変わってる種族なのかな?」
「……独特だな。
どうしてか宇宙の知識を拒み、
独自の路線を進んで行っている。
宇宙では特殊能力のことを、
ユニバーサル値と一律で称しているが、
地球人だけはエナジー値と呼び名を変えている」
「……そうなんだ」
「地球は地球で……
宇宙に何かを隠しているのかも知れんがな……」
「……」
宇宙の星同士――
地球の国同士――
互いに表と裏の顔がある以上、
星も国も、
簡単には混ざり合わない。
風には、
そんなことを教えられた時間でもあった。




