41話 異能の種
留置室のベーダー星人に、
ブラッドは笛の身体と声を使って語りかけた。
硬直する風と木庭――
そして、誰よりも硬直している流――
「……これは、どういうことですか先輩?」
――プシュッ!
木庭が口元をハンカチで押さえながら、
奇妙なスプレーを流に吹きかけた。
「……ぶふーっ」
監視官は変な声を上げながら、
白目を剥いて崩れ倒れた。
「ななな、何したの?」
驚く風。
「緊急時に備えて意識を落とすスプレーを持参していたのよ。
これで笛ちんの秘密は守られる……」
笛は守られても、
何か多くの大切なものを失っていることに木庭は気付いていない――
そんな彼女に、風は恐怖を覚え始めた。
「だから、わたしの身体で勝手に喋るな!」
力ずくで笛が自分を取り戻した。
「約束は守りなさいよ!」
笛の中でブラッドと喧嘩をしているようだった。
すると――
「木庭、下に降りて話したいって……いける?」
「まぁ……彼も数時間は意識を戻さないでしょうし、
もしかしたら一生……。
あと、監視カメラは別の映像を差し込めば侵入したことくらい
誤魔化せるので、大丈夫よ」
「あなたサラっと言ってるけど、
すごいこと言ってない?」
そして3人は留置室へと入っていった。
今まで反応のなかったベーダー星人2体が、
3人に対して威嚇しているのがわかった。
大柄なベーダー星人・ランブ。
細身のベーダー星人・シャン。
「異能の種であるお前たちは、生きていると思った。
訳あって地球人の身体に入っているが、
生き残りがいると聞き、会いにきた」
「……」
捕らわれのベーダー星人は返事をしない。
さすがに警戒を続けている。
「俺の戦略が甘かった。
俺と、ラバーニとダクネスの遺体は……
すでに地球人に管理されている」
すると、細身のベーダー星人――シャンが、わずかに身体を動かした。
風には、それが泣いているように見えた。
「敗者の末路だ……
我々がしてきたことが、我々に返ってきた。
ただそれだけのことだ……」
「うぅ……」
シャンがほんの少し声を漏らした。
その声は女性の声だった。
「地球人に力を貸しても誰も責めない。
お前たちの好きにすればいい……
自分たちのことを第一に考えろ」
沈黙が落ちた――
2人のベーダー星人は、口を開かないままだった。
そこに風が質問を投げかける――
「あの……この2人を異能の種って言ってたけど、
すごい能力を持ってるの?」
「お前ほどではないが、面白い能力だ」
「それって教えてもらえないかな?
俺って、まだ自分の能力がわかってなくて……
今1番知りたいことが、自分に関してなんだよ」
「頼むとは笑止――
勝者は地球側だ。命令すればいいだけだ」
「……力尽くって好きじゃないんだ。
命令とかも強制とか……ずっとそれをされて生きてきたから」
「?」
「話してくれる時まで待つよ」
ランブとシャンは黙って風を見ていた。
笛は今だけ、
ブラッドで話をしても良いと許可を下ろしていた。
そのブラッドは最後に2人の前に立ち、
一言伝えた。
「聞いたか、あの地球人の言葉を?
この星には、ああいうバカが多いらしい。
お前たちが地球人に力を貸すと言えば、生き残れる可能性もある」
「……」
「ベーダー星からの救援もないだろう。
お前たちだけでも生き残ってもらいたい」
おそらくベーダー星の王から兵への、
初めてのお願いだった。
そしてブラッドは風に向き直して伝えた。
「お前はバカだが、賢い。
力尽くで確かめれば、
お前は死んでいただろう……
まぁ、すぐに生き返るお前には餌を与えたようなものだが……」
「?」
その時だった――
「ブラッド様……」
ランブという兵士が声をかけてきた。
「!」
「本当にブラッド様なのですか?」
「そうだ……
エターナルだけになって生き延びてしまった。
詳しい経緯はわからんが、この地球人の体内に入り込んでしまってな。
抜け出せないでいる」
「……もし本当なら」
「……」
「生きていてくださって……
これ以上ない喜びでございます」
「うむ」
そのやり取りに、感動した木庭が泣いている。
本当によくわからない女だ、と風は思った。
「その地球人が異能の種を見たいと?」
「そうだ。こいつも異能の種でな……
俺も勝てないほどの力を持っている」
「なら我々の力を見せたところで……」
「切っ掛けが欲しいのだろう……」
「まだ使いこなせていないのですか?」
「こいつの能力はややこしくてな……
本人が理解できていない。
しかし、異能の種とはみんなそんなものだ」
次の瞬間、風と木庭は信じられない出来事を
目の当たりにする。
ランブの座っていた手枷足枷の付いた椅子が、
粉塵となって消えてその場に立っていた。
「嘘っ!」
「えぇ!」
風と木庭は驚きのあまり声を上げた。
ブラッドの影に隠れながら、笛も衝撃を受けていた。
さらに衝撃は続く――
シャンも何事もなかったように、
すでに立ち上がっていたのだ。
異能の種――
風は今から、その意味を知ることになる。




