37話 ブラッド
木庭の目の前に、
ブラッドを名乗る笛が近づいてくる。
タルポルン星人が身構える。
木庭は状況を掴めてはいないが、
――普通ではない。
それだけはわかった。
それと、タルポルン星人の身体の震え。
明らかに笛に対して恐怖を抱いている。
「蛮族程度でも……力の差はわかるのだな」
歩みを止めず迫ってくる笛に、
タルポルン星人はいよいよ背を向けた。
逃げるための跳躍――
――ビュン!
しかし、
オーラの大剣は形状を変えて鞭のようにしなり、
タルポルン星人の足へ巻き付き、地面へ叩きつけた。
オーラの鞭は、
再び笛の小さな身体には不釣り合いな大剣へ戻った。
そして、ブラッドは倒れたタルポルン星人の首元へ
大剣を突き刺した。
「み……見逃してくれ。
何もしない……約束する。
星に……帰るから……」
命乞いするタルポルン星人を見下ろしながら、
笛の中にいるブラッドが口を開いた。
「その程度の覚悟で……侵略に来たのか?
殺しに来るなら、殺される覚悟も持つべきだ」
「……ゆ、許してくれ」
「許す?
勘違いするな……俺は何も怒っていない」
「そ……それなら……」
「目の前にいるから殺すのだ……」
――ズバッ!
地面に差し込んだ大剣を、
右に滑らせながら振り上げた。
タルポルン星人の首が――
宙を舞った。
そして笛は木庭の方を向き、
大剣で突き刺すように飛びかかってきた。
「きゃあぁぁー!」
――斬ッ!
叫ぶ木庭の後ろから襲い掛かろうとしていた、
未確認の3体目のタルポルン星人。
それをブラッドは打ち取った。
「この目、これがこの地球人の能力か。
分析、感知、予測――素晴らしい目だ」
ブラッドは笛の能力を駆使し、
身を隠していた最後の1体も見逃さなかった。
木庭は腰を抜かしてしゃがみ込んだ。
「ふ……笛ちん?」
ブラッドは再び見下ろしながら答えた。
「笛ではない……。
俺はブラッドだ」
「ブラッドって……あの……ベーダー星人の?」
「そうだ、お前に電流を流されたり、
氷漬けにされていたブラッドだ」
「きゃあぁぁー!
恨まれてるー! 殺されるー!」
「少し黙れ。
お前は殺さん。
この地球人に、お前を傷つけるなと言われている」
「笛ちん! やさしー!」
「おい! 静かにしろ!
この地球人が目覚めるだろ!
俺の時間が――!」
「はっ!」
笛の表情が一変し、いつもの顔に戻った。
「……」
「笛……?
今のあなたは……笛ちん?」
「……うん」
「今……ブラッドが出てきて暴れてたよ……」
「……」
「……笛ちん」
笛は大汗をかきながら、
満面の笑顔を取り繕って答えた。
「異星人に……
身体を乗っ取られたフリでしたー!」
「……」
「……なんちゃって」
遠くの空の音が聞こえるくらい静まり返った。
「……無理あるって……笛ちん」
「……あ、あぁ」
「エターナル飲んだ影響、思いっきり出てんじゃん……」
笛が狼狽え始めた。
その時だった――
「虎落さん!」
風が、現場に到着した。
「大丈夫?
タルポルン星人が現れたって聞いたけど!」
しかし、
風の目の前に見えるのは、
タルポルン星人3体の遺体。
「誰がやったの……これ」
木庭は黙って笛を指さした。
「虎落さんが!?」
「あぁ……あぁ」
笛は気が動転して、言葉が出ない。
そこに――
氷河率いる小隊、第6支部の防星官が駆けつけた。
「おいおい!
なんだよ、タルポルン星人がすでに倒されてやがる!」
氷河も驚いている。
しかし、伊安がすぐに風を見つけた。
「彼がいるわよ」
「なんだよ!
あいつがいるのかよ!
そりゃ、退治されててもおかしくねーや。つまんね!」
氷河のセリフに、風が返そうとした。
「いや……俺は何も――」
次の瞬間だった。
「まったく凄まじい強さでしたよ!
タイガードロップ株式会社の紡時さんは!」
「へっ?」
木庭が、訳のわからない絡みをしてきた。
「あなたが来てくださらないと……
わたしたちは殺されていたでしょう!」
初対面の女性が、
無茶苦茶な嘘をついてくる。
言葉が出ない笛――
嘘を吐く初対面の女性――
風は、何か訳があるのだと察した。
とりあえず今は、
2人の話に合わせることにした。
――――――
その日の夜――
笛は、事務所に顔を見せた。
隣には木庭がいる。
風とミーティングすると言って、
狩と帝呼には席を外してもらった。
言うまでもなく、帝呼だけは自分も同席するのだと
うるさかった。
風たちは、
狩に無理やり外食へ連れ出される帝呼の姿を見送った。
そして――
笛が神妙な面持ちで口を開いた。
「2人に……
2人だけに大事な話があります」
「どうしたの虎落さん?
急に改まって……」
「……」
笛は意を決して、秘密を告げる。
「わたしの身体の中には、
ブラッドがいます」
「!」
「タルポルン星人を倒してくれたのは、
わたしの中にいるブラッド……です」
風は、一瞬だけ言葉を失った。
正直、一瞬だけブラッドを“血”のことだと思って聞いている始末だった。
「わたしは……すでに聞いてたから、
驚かないけど……」
「うん」
「こうなったの……わたしのせいでもあるし」
「うん」
「そこは否定してくれないのね」
笛はエターナルを飲んでから、
今日までの出来事を2人に伝えた。
風には、すべてを知って欲しかったから――
木庭は、成り行き上だ――
「虎落さん。どうしてブラッドが身体に入ったの?」
「ちょっとブラッドの体液をコーヒーにして飲んじゃったんです……
これが本当のブラッドコーヒー
なんちゃって……」
「……」
沈黙が落ちた。
しかし、その沈黙を破ったのが、
この話の中心人物のブラッドだった。
「俺とダクネスの能力を使う地球人。
お前とは話がしたかった」
「?」
殺した者と、殺された者が、
思わぬ形で再会を果たす。




