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検査結果は能力なし 〜能力なしで死んだ俺は、なぜか今日も死なせてもらえない〜  作者: 鬼喜怪快
オマケ

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36話 笛ではない誰か




 

 町は騒然としていた。


 侵略者の侵入を許してしまったからだ。


 本部からの連絡は、


 《血洗市――オフィスビルに発生した80cmのワープゾーンより侵略者》


 80cmくらいのサイズなら、ブレイカーに依頼が入ったはず。

 しかし、防星省・第6支部から連絡がくるということは、

 処理に当たったブレイカーの身に、なにかあったのだろう。


 人々が逃げ惑いながら走ってくる。

 その後ろを侵略者が歩いてくる。


 

「……あれはタルポルン星人!」


「タルポルン星人!

 それって危険度Aランクの侵略者よね!?」


「……この前、パパと帝呼を殺しかけた侵略者」


「やばいって……わたしたちも逃げよ」


 

 木庭が笛の手を引いた。


 

「!」


 

 笛は動かない。


 

「笛ちん?」


 

 笛は慌てふためく木庭を見た。


 

「わたしたち防星官だよ……

 みんなと一緒に逃げるわけにはいかないの……」


「何言ってるの!

 わたしたち戦闘タイプじゃないよ!

 何ができるわけでもないじゃない!

 逃げるしかないって!」


 

 笛は胸に手を当て、

 自らを落ち着かせるように言葉を発する。


 

「だからと言って逃げてはいけない。

 できることをするの――

 人々の避難誘導、防星官やブレイカー到着までの時間作り……」


「わ……わたし無理だから……

 研究一筋で生きてきてんだよ……

 時間稼ぎなんて10秒にもならないよ!」


 

 笛が走り出した――


 

「わたしが時間を稼ぐから、木庭はみんなの誘導を!」


「ちょっと!」


 

 笛が2体のタルポルン星人のもとへ向かって走っていった。


 

「誘導の仕方なんて覚えてないよ!

 同じ陰キャなのに、いつからそんな行動的になったのよ!」


 

 今すぐにでも逃げたい木庭は、

 やったことのない避難誘導に就くことになった。


 防星官の到着は早くても5分――


 それまで、なんとか笛と木庭で

 被害を最小限に食い止める。


 笛は携帯していた、

 対侵略者用の小型拳銃を取り出した。


 押し寄せる人波に押し戻され、

 侵略者までは遠い。


 タルポルン星人は、

 逃げ遅れた人間を次々と殺していた。


 

「あいつら……許さない」


 

 笛は多少の距離はあったが、

 建物の影に身を隠した。


 そして分析能力を発動させながら銃を構えた。


 ――インパクト値7.2t、プロテクト値3.4t


 プロテクト値が低く見えるが、

 小型拳銃が効く相手ではない。


 人に当たらない発砲角度と位置を、

 目の能力で確認。


 ――OK!

 ――パンッ! パンッ!

 


 2体に1発ずつ見事に当たった。


 意識をほかに向けてくれれば、

 あとは笛が逃げるだけだ。

 それで少しの時間が作れる。


 銃弾が当たり、よろけた侵略者だったが、

 すぐに体勢を整え、笛の方へ目を向けた。


「!」


 笛は慌てて身を隠した。


「一瞬でわたしの位置を見つけた?

 タルポルン星人は、力だけの宇宙人ではないの?」


 ドスッ ドスッ――


 気がつけば、

 2体のタルポルン星人が跳躍して笛の前に現れた。


 

「あぁ……」


 

 2体の無機質な視線が、笛を見下ろした。


 

「笛ちん!」


 

 避難誘導をしている木庭が、

 笛のピンチに気付いた。


 1体の侵略者が腕を振り上げる。


 笛は絶体絶命の中、

 小型銃を構えて発砲――


 

 ――バンッ!


 

 振り下ろされた拳の音と、

 銃声が同時に重なる。


 笛の小さな身体が吹き飛ばされ、

 オフィスビルの壁に激しくぶつかった。


 

「笛ち――」


 

 今の衝撃で意識を失ったのか、

 笛の反応がない。


 1体のタルポルン星人が笛のもとへ向かう。

 もう1体は、木庭たちの方へ向かって歩いてくる。


 

「や……やっぱり無理だったのよ!

 あんなのに、非戦闘員のわたしたちが立ち向かっていいわけない。

 とっとと逃げないと……」


 

 職務を放棄し、

 避難誘導もせず逃げようとする木庭。


 

「わたしたち防星官だよ……

 みんなと一緒に逃げるわけにはいかないの……」 


 

 ふと笛の言葉が思い返される。


 

「知らん知らん……

 すべて命あってのものでしょう。

 笛ちんは頑張りすぎなのよ……

 こんなことわたしの仕事じゃない――」 


「だからと言って逃げてはいけない。

 できることをするの――

 人々の避難誘導、防星官やブレイカー到着までの時間作り……」

 


 木庭は頭を抱えた。

 


「わたしは研究がしたくて防星官になった……

 人々を守るために防星官になったわけじゃない!

 だから職務放棄にはならない!」


 

 だけど……

 だけれども……


 木庭の足は逃げるのではなく、

 侵略者の方へ向いて動き出していた。


 

「エターナルを飲んだ、笛ちんの研究が終わってない!

 実験材料が奪われそうなのに逃げるだなんて、

 それこそわたしの職務放棄だわ!」


 

 木庭はポケットから何かを取り出して、

 目の前にいるタルポルン星人へ投げつけた。


 ――ピカッ!


 一面を眩しい光が包み、

 侵略者の視界を潰した。


 

「ギギギギギッ!」


 

 タルポルン星人はうめき声を上げながら、

 目を押さえた。

 木庭発案の、護身用目潰しアイテムだ。

 

 その隙に、

 木庭は笛の倒れている場所へ向かう――!


 

「あぁ……」


 

 すでに、

 倒れ込んでいる笛の前に

 タルポルン星人が立っていた。


 木庭は、

 ほとんど使ったことのない対侵略者用の小型銃を取り出す。


 

「動くな!

 動けば撃つ!」


 

 木庭にとって、初めて口にしたセリフだ。


 その声に引かれ、

 侵略者が木庭へ目をやる。


 向けられた視線に、

 恐怖で全身が震える。


「笛ちん!

 動いて! すぐに逃げて! お願い!」


 笛から応答はない。


 

「笛……ッ」


 

 背後にタルポルン星人の気配。

 もう視力が回復している……。


 恐怖で、木庭は動けない。

 振り返った瞬間に殺される気がした。


 笛の前に立つタルポルン星人も、

 木庭を見ていた。


 笛に意識があれば、

 今なら逃げられる。


 でも笛は――


 

「!」


 

 気が付くと、

 笛が立っていた。


 笛はまっすぐな目で木庭を見ている。


 目が合った木庭は、

 実験材料に――

 いや、親友に向かって、

 唇の動きだけで最後の思いを伝えた。


 

「に・げ・て」


 

 ――ジュバッ!


 一瞬のうちに、

 上半身と下半身が切断された。


 

「ゲハッ!」


 

 血を吐きながら崩れていく、

 木庭――


 の、


 目の前にいるタルポルン星人――


「!」


 切断された身体を地に落とした侵略者。


 その状況に、

 我が目を疑う木庭。


 そしてその視線の先には、

 オーラで形取られた大剣を持つ笛が立っている。


 

「笛ちん!」


 

 木庭が笛の名を叫んだ。


 すると笛は、

 ゆっくりと目を閉じ、

 大きく息を吸って吐いた。


 

「緊急事態だ……

 身体は勝手に使わせてもらう。

 放っておけば、こいつらの好きにされてしまうからな……」


「?」


「タルポルン星人ごとき蛮族に、

 やられたとあっては、さすがに恥だ……」


 立ち上がった笛は、

 まるで別人のような雰囲気だった。

 

 それは誰もが一目瞭然でわかるほどだった。


 もう1体のタルポルン星人も、

 笛の異変に気付き、威嚇を始めた。


 

「ど……どうしちゃったの?

 なんか変だよ?」 


 

 笛がオーラの大剣を肩に掲げ、

 こちらに向かって歩いてくる。


 

「……笛ちん!?」


 

 その呼びかけに、

 笛が答えた。

 


「勘違いするな、そこの地球人。

 俺はブラッド――笛などではない」


「えっ?」


「身体を勝手に使うなと言われているが、

 死ぬよりマシだろう……。

 そう思わないか、地球人?」


 笛の身体を完全侵略したブラッドが、

 今、動き出す。






 

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