最終話 侵略は続くよ、どこまでも
「今……なんて言ったの?」
「全部――
コーヒーにして飲んじゃった……」
「……そんな冗談いらないから」
「冗談じゃないから……」
木庭はメガネを上げ、
目頭を押さえながら天を仰いだ。
「それってさ……
宇宙人の体液を大量に飲んだってことよね……」
「やめて、その言い方……」
「どこかの民族で、牛の血を飲む習慣があるって聞いたことあるな……」
「……」
「笛ちんが死んだら、その身体研究していい?」
「すぐに殺すなぁ!」
笛は心配もしない木庭に怒り、
研究室を飛び出した。
「待ったぁ!
何か異常が起こるかもしれないから一晩は一緒にいよう!
何かあった場合、わたしも責任取るからさぁ!」
「今晩もしわたしが死んだら、この事実を闇に葬って、
あなたに実験されるだけよ!」
――察しがいい。
とは言わず、木庭は心の中でそう思った。
だが、笛の歩みは止められなかった。
――――――
タイガードロップ株式会社・事務所――
「これは虎落社長、
お招きいただいてありがとうございます」
「いやいや!
風くんにはいつも頑張ってもらってますし、
なんと言っても、うちの娘の命の恩人です。
お母様にどんな職場か見ていただいて、
安心してもらいたかったんですわ!」
「そんな……うちの風が少しでもお役に立てて何よりです。
虎落社長のような方に良くしてもらって、本当に安心しています。
今後とも風をよろしくお願いします」
狩は、かねてより風の家族に会いたいと言っていた。
それが今日、実現したわけだ。
風の母親と、妹の凪が招かれていた。
「いやーはっはっはっはっ!
まったく、てやんでいですなぁ」
「……テヤンデイ?」
狩は舞い上がると、
“てやんでい”と口走る癖があるらしい。
「あと、こいつが一緒に仕事を手伝ってくれてる次女の帝呼です!
風のことをえらく気に入ってましてなぁ!」
いつも1人でやかましい帝呼なのだが、
今日は妙に静かにしていた。
さすがに今日は、
他所行きのキャラを取り繕っているのだろう――
そう思った矢先。
「初めまして……式は年内の予定です。
お母様、ナギちゃん」
紡時家の2人は――
何を思ったのか、しばらく固まっていた。
対する虎落家の2人は――
普段以上に元気だった。
風はふと、
笛がいたらこの場が纏まるのに……と思った。
――――――
ベーダー星人の襲来――
誰も、あの日の映像を撮影できなかった。
外に出ようものなら、片っ端から人々は殺害されていったからだ。
しかし世間の人々は、
ブラッドを倒す風の映像と、
ワープゾーンを破壊する風と帝呼の姿を目にすることになる。
それは半壊した街で、
奇跡的に稼働し続けていた防犯カメラのおかげだった。
一部始終が映っていたわけではない。
しかし、第6支部の精鋭が次々と倒される中、
1人で立ち向かい、勝利を掴んだ英雄の動画は、
毎日のように流された。
そのせいで……
もとい、そのおかげで、
風は日本一有名な男になり――
帝呼は日本一有名な女になり――
タイガードロップ株式会社は、
日本一有名な会社になった。
連日、メディアからのインタビュー依頼が入る。
風の希望で、すべて断るようにしている。
しかし、日増しに風の注目度が上がっていくのも事実だった。
第6支部副隊長の雷鳥は、
まだ風の勧誘を諦めてはいない。
いつか、防星官に引き入れるつもりでいる。
そんな思惑が動いていることを、
この時の風は、当然ながら知らなかった。
そんな風たちは、
今からみんなでディナーに出かける。
狩の行きつけである、
ステーキハウスへ向かうのだ。
本来なら笛も来るはずだったのに、
急な仕事が入ったと言って、キャンセルしてきた。
しかしこの時――
笛の身体の中では、
すでにとんでもないことが起こっていたのだ。
――――――
木庭のいる研究室を出てから、
こんな状態でありながらも、笛はディナーに向かう予定だった。
――しかし。
どうしても参加できない理由ができたのだ。
熱があるわけでもない。
吐き気があるわけでもない。
それでも参加できない理由ができた。
それは、どうしてなのか――?
「おい、地球人……」
「!」
「まさか……異星人の身体に吸収されるとはな……」
「ど、どこからか声が聞こえる!!」
身体の内側から聞こえる声。
それは聞き覚えのある声だった。
「本体の方が長生きすると思っていたのだが、
結局生き残ったのは……こっちだったか……」
「身体が、わたしの身体が侵略されていってる!」
笛の驚きに、
ブラッドが冷静に突っ込む。
「こんな状態で侵略などできるか……」
「?」
「想定外だ……こんなことになろうとは……」
「出て……出ていってよー!」
「勝手に取り入れておいて、
出て行けとは笑止――
出て行けるのなら、すでに出ていっている」
「……どういうこと……
出て行けないって言ってるの?」
「困っているのはお互い様というわけだ……」
笛は思考も身体も凍りついた。
「あなた……わたしの身体のどこにいるの?」
「お前の血の流れと同様に、
身体中を巡っている」
「出て行けないの!?」
「無理そうだな……」
「……」
「……」
「……どうすんのよ?」
「まぁ……末長くよろしく頼む」
その日からしばらく、
笛は仕事を休んだ。
有休を使った――
働き詰めだったから、
ゆっくり休んでほしい。
そんなみんなの気持ちとは、
大きくかけ離れた理由があった。
笛の身体に侵略者が入ったからとは、
誰も知らないし、言えない。
――――――
能力がない人間は、ゴミとして扱われる世界で、
今まで風は、地の果てを歩んできた。
そんな彼は、
一度死んでから人生が大きく変わってしまう。
世間からの注目。
防星官への引き抜き。
会社からの期待。
社会からの期待。
21年間味わったことのない出来事を一身に受けて、
彼はこれからの日々を過ごしていく。
こんな生活が続けばいいのに――
風はそんな淡い願いを抱きながら、
たくましく生きていく。
翌日、笛からエターナル吸収のことを伝えられても、
やっぱり、たくましく……否。
そこは随分と頭を抱え込んで生きていくようだ。
――――――
「虎落さん。どうしてブラッドが身体に入ったの?」
「ちょっとブラッドの体液をコーヒーにして飲んじゃったんです……
ブラッドコーヒー、なんちゃって……」
「……」
――ドン引き。
完
全33話、最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました。
紡時風と虎落笛の1ヶ月間の物語、
少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
能力者でありながら能力者と認められず、
不遇な人生を送ってきた少年。
そんな彼が最後の最後で、
その能力で大切な人たちを守り、
世界を救う。
この物語は、そんなお話でした。
これにて本編は完結となります。
……とはいえ、書いているうちに
「ここだけは書いておきたいな」
と思う話が残ってしまいました。
後日、番外編として投稿予定ですので、
よろしければそちらもお付き合いください。
そして7月中旬からは、
『処刑された最強呪術師、魔法世界で唯一の禁忌となる
〜鬼を従えし異端の転生者〜』
第二部の投稿を再開予定です。
こちらは全55話で完結済みのため、
約2ヶ月かけて最後まで投稿していきます。
また次の物語でお会いできれば幸いです。
『検査結果は能力なし
〜能力なしで死んだ俺は、なぜか今日も死なせてもらえない〜』
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。




