3話 検査結果は能力なし
3話 判定は、能力なし
19時を目前に――
防星省の役人が2人、家までやってきた。
2人とも身なりをしっかり整えた、
いかにも公務員といった感じの格好だった。
差し出された名刺には、
防星省・第6支部・副隊長
雷鳥 響
防星省・第6支部
伊安 加羅
と、書いてある。
母親は2人をリビングに通し、椅子に座らせた。
「粗茶ですが……」
母親は緊張しながらお茶を出す。
「お気遣いなく。
夕飯時に申し訳ございません。
どうしても、本日中に確認しておきたいことがあったもので……」
そう言うと、副隊長の雷鳥は風を見た。
風はこの人を知っている――
いや、この日本にいて雷鳥を知らない者はいないだろう。
切れ長の目に、オールバックを決めた金髪。
神経質そうな男前――
防星官、期待のエースと言われている1人で、
隊長を務められる力を持ちながら、自らの意思で副隊長にとどまる男だ。
母親も妹も、緊張している。
――もう1人の伊安という女性。
長い黒髪の綺麗な女性防星官だが、
有名な防星官ではなさそうだ。
「紡時さん……ベアルガの動画を見ました。
そして、あなたのことも少し調べました」
「……」
「単刀直入に言います。
あなたの能力を世に役立たせるため、
我々の仲間になってもらえませんか?」
「!」
沈黙が落ちた――
それと同時に、
全員が耳を疑った。
能力なしの風を――スカウト?
嬉しいはずの話だが、
素直に喜べない。
自分が能力なしだと知っているからだ。
「俺のこと調べたって言ってましたけど。
何を調べたんですか?」
「もちろん、君の能力内容と
今までの侵略者とのコンタクト回数です」
「……」
「その上で、なぜ君が能力者認定のライセンスを
取得していないのか。
そしてなぜ、一度も侵略者とコンタクトしていないのかが
不思議でならない――」
一瞬、今日のことをすべて話そうかと考えたが、
ためらった。
いま言うべきことではない――
そんな気がした。
「俺……能力持ちじゃないんです……」
「ご冗談を……
ベアルガを拳一つで倒せる人が能力なしのわけがない」
そこに母親が、声を震わせながら入ってきた。
「……この子に能力はありません。
5歳の時、4回も検査を受けましたが、
覚醒反応がありませんでしたから」
――沈黙。
「それでは、あの映像はどう説明できるのでしょう?」
「……本当に俺もわかんないんです。
俺自身が理解できてなくて……」
それが風の本心だった。
「明日、市役所に能力検査を受けに行こうと思ってるくらいで……」
「!」
「21歳にもなって、受けに行く奴なんていないと思いますけど……」
「その検査、同席させてください」
突然、雷鳥が提案をしてきた。
「何もないと思いますよ……
無駄足になると思うけど……」
「構いません。
ぜひ、同席させてください」
雷鳥の押しに負け、
市役所での能力検査に立ち会われることになった。
「それでは、明日の10時、
市役所の保健課の前でお待ちしています」
「……はい」
えらいことになったと、
風は内心穏やかではなかった。
これで能力持ちじゃなかったらどうなるのか?
いや――能力ありでもどうなるのか、だ。
世界を見渡しても、5歳以降に覚醒した例はない。
もし覚醒が認定されたら、それはそれで大ごとになる。
一体自分は何なのか……
心は不安でいっぱいだった。
防星官が部屋を出て行く――
「紡時さん」
伊安が声をかけてきた。
「失礼します」
そう言うと、風の肩に手を当てた。
温かい何かが身体を包む。
「……異常なし」
「?」
伊安は風の顔を見上げて言った。
「ベアルガから、あれほどの攻撃を受けて
傷一つありません――
完治している……
と、言ったほうが正確なのかしら?」
雷鳥が目を細めた。
「彼女は治癒、回復の専門の能力者です。
念のため連れてきましたが、不要だったようだ」
「……」
「明日が楽しみです」
――――――
自動車に戻った雷鳥と伊安。
「副隊長はどう思われましたか?」
「能力者に間違いないだろう……」
「同感です」
「ただ……」
「?」
「能力者特有の雰囲気を感じない……」
2人はマンションを見上げた。
――――――
「お兄ちゃん……どうすんのよ?
もし防星官なんかになったら、人生勝ち組じゃない!」
「ナギ!
あなたもわかってるでしょ!
風には能力はないの……
この家で能力持ちなのは、お父さんとナギだけよ!」
風はソファに腰掛け、
天井を見上げて考える。
しかし、どれだけ考えても答えは出ない。
すべては明日次第、
今夜は眠れる気がしなかった。
――――――
市役所の保健課前。
風は断ったのに、
母親の指示でナギがついてきた。
約束の10時前には、すでに雷鳥の姿があった。
その隣には伊安ではない誰かがいる。
ショートカットにメガネをかけた、
小柄な女性だ。
「初めまして、第6支部の虎落です。
本日は、わたくしも同席させていただきます」
差し出された名刺には、
防星省・第6支部
虎落 笛
と書かれている――
彼女も防星官のようだ。
メガネの奥に見える目が、
風を見ている――いや、
捉えている。
すべて見透かしているような不思議な視線だった。
しばらくすると風は別室に案内され、
血液検査を受けた。
それからカプセル型の測定器に入り、
精密検査が始まった。
――――――
すぐに検査結果は出た。
防星官の2人とナギを部屋に入れ、
検査員がタブレットを持ちながら風の前に立った。
「えーっ、紡時 風さん。
検査結果ですけど……
残念ながら能力反応は見られませんでした。
結果……能力なし、ということですね」
「!」
風が恐れていた結果。
全員が肩を落とす。
「それでは昨日のベアルガの件はどういうことなんだ?」
雷鳥が呟く。
「彼はベアルガを一撃で仕留め、
ベアルガの攻撃を受けて、傷一つなかったんだぞ?」
「……そう言われましても」
ナギはやっぱりね――
と、いう顔で風を見た。
風は“能力なし”という結果に、心から残念ではあったが、
少しだけ安堵したのも事実だった。
「やっぱり、そんなわけないよな……
一瞬期待しちゃったけど、俺は俺だわ」
精一杯の強がり。
苦笑いを浮かべる風。
今回も覚醒は見られなかった。
落胆する風のうしろで、検査データを見る雷鳥。
しかし虎落は……データではなく――
緑の光を帯びたその目で、ずっと風を捕らえていた。




