29話 能力なしの能力
ブラッドは赤いオーラの大剣と、
盾を纏った。
「インパクト値が23t……プロテクト値が27t」
笛が敵のデータを風に伝えた。
「俺って……どれくらいだっけ?」
「わたしの知る限り、両方とも15tだったはずです。
それが最大限かは分かりませんが……」
「現時点では、俺の方が弱いってことか……」
風の目に、あるものが入る。
「!」
風が先に動いた。
ブラッドが身構える。
しかし、風が向かった先はブラッドではなく――
剛海副隊長の大剣が突き刺さっている場所だった。
即座に大剣を掴み取ると、
剣先を侵略者へ向けて構えた。
「インパクト値が32t、プロテクト値が19t……
ベーダー星人に匹敵できるくらい上昇しました!」
「よし!」
「武器……使えるんですか?」
「使えないよ……」
「えっ?」
笛は一抹の不安を感じた。
しかし、
それでも風に頼るしかない。
風は見よう見まねで大剣を構えた。
そして、
そのまま中段から打ち込みに入る。
剛海の大剣を振り回しながらの斬撃――
――ブォン! ブォン!
ブラッドはエターナルで作り上げた剣でそれを受け流した。
そして、斬り返してくる――
風が反射神経だけでかわす。
ブラッドは猛スピードで攻撃を繰り返す。
「おしっ!」
今度は大剣を使って、
すべての攻撃を弾き返した。
――ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ!
激しい撃ち合いのあと、
風は一旦、ブラッドと距離をとった。
「よしっ! なんとか戦えているぞ!
時代劇、見てて良かった!」
「……関係あります、それ?」
息を吐く間もなく、ブラッドが襲いかかる――
激しい打ち合いが始まった。
「!」
戦いを見守る笛の目が、
違和感を捉えた。
「あの左腕の盾……勝手に動いてるような……?」
今度はブラッドが風と距離をとった。
「紡時さん……あの盾、
勝手に動いて、侵略者の身体を守っているように思えます」
「……うん。本当に厄介な能力だ。
オートで動いているし……
斬られる瞬間、その場所に急に現れて奴を守っている」
「それが奴の能力?」
次の瞬間――
瞬きの間に、ブラッドが風との間合いへ入ってきていた。
「!」
腹部に向かって横一線に斬られる――
――パンッ!
そこを斥力でブラッドを弾く。
弾かれた侵略者は後退するが踏みとどまり――
すぐに反撃へ出る。
「早い!」
――斬ッ!
間一髪、風は斬撃を躱した。
「あっ……ぶねぇー!」
笛は能力を解放したまま、
2人の戦いを見ていた。
真紅の侵略者は、
斥力に弾かれたあと、
速やかに体勢を整えて切り込んできた。
斥力を再度発動させる前に攻撃をしてくる――
「……奴は斥力の能力を熟知している。
もともと仲間の力だから、詳しいんだ」
ブラッドは風から目を離さず、
話しかけてきた。
「驚きだ……ダクネスの能力を完璧に近い形で
使えている。コピー能力の使い手か?」
「だから……能力なしで21年生きてきたんだって」
「そんな話、通じると思うのか地球人……」
ブラッドのオーラのようなもので
形どられていた大剣と盾が急に消えた。
「今まで使っていたものは
エターナル……
もう1つの俺の命だ」
「?」
「実態のない、もう1人の俺……
そう思えばいい」
「ちょっと、
何を言っているのかわからないんだけど」
「……わからなくてもいい。
要はエターナルはもう1人の俺であり、能力そのものではない」
「なんだって?」
「エターナルと能力の併用はできない……」
「?」
「お前は強い……研究が必要だ……
それに、繁殖の種としてもいいものを作ってくれそうだ。
他の星の生物と交配もさせたい」
「……そんなの絶対お断りだ」
すると、ブラッドは左足を前に出し、
右足を後ろに置いて、
腰を少し落とすような構えをとった。
「何をする気だ?」
「……埒が明かない。
ここで終わらせる」
笛はその目で分析を続けた。
今のところ、なにも変化はない。
あるとすれば、エターナル値の表示が消えたくらいだった。
「俺は10秒間……
全能力を10倍に引き上げることができる」
「!」
「10秒後、生きていられるかな?」
その言葉を言い終えた後――
笛は言葉を失った。
「インパクト値が187t……プロテクト値が163t……?
あの身体のサイズで、こんな数字が出るわけ……」
次の瞬間――
笛の目に、赤い閃光が走って見えた。
その閃光は、
風の全身に巻き付くように四方八方から攻撃を繰り返し――
倒れることすら許さなかった。
笛の目には、
風の身体から血が飛び散っていくのが見えた。
最初の一撃で、風の意識は飛んでいた。
そこからの地獄の10秒間――
笛は、その惨劇を見ていることしかできなかった。
10秒後――気が付くと、
風の髪の毛を鷲掴みにして持ち上げているブラッドが目に映った。
「ふむ……勢い余って殺してしまったか……」
笛の目に映る風のデータは、
すべて0という数字を示していた。
父親である狩の言葉が脳裏をかすめる。
「発動回数に制限がある能力がたまにある」
「もう絶対に死んじゃいけねぇ!」
次死んだら――
2度と生き返れないかも知れないから。
「紡時さん!
あぁ……どうしよう……紡時さん!」
叫ぶ笛を横目に、
ブラッドは満足そうに言った。
「生きている方が良かったが、
この地球人から繁殖用の種くらいは摂れるだろう」
笛は何度も風のデータを見る。
すべてのデータが0になったままだ。
赤文字で、状態――死亡
と記載されている。
日本は終わった――
笛は唯一の希望だった風の死を確信した。
この化け物に勝てる人間がいるはずがない。
インパクト値187t、
プロテクト値163tを持ち合わせる単体の侵略者。
そんな者、
世界の記録を見ても過去に存在しない。
「おそらく、こいつがこの星の最強だったのだろうな」
笛は俯いたまま、
顔を上げることができなかった。
「連れてきた者たちの半数が地球人に殺された。
……成長したのだな、地球人」
「……」
「後発隊がまもなく到着するが……
それまでに侵略を完了させておくか……」
そう言うと、
風の亡骸をワープゾーンの真下へ放り投げた。
そして、ブラッドが笛へ近づいていく。
「抵抗すれば殺す。
できれば生きた状態で器として使いたい……」
笛にはもう、
抵抗する気力も体力も残されていなかった。
「安心しろ……今からの記憶は消してやる。
お前は痛みも恐怖もなく、ここで終われる。
――光栄に思え」
――今からの記憶は消える。
痛みも恐怖もない。
その言葉に笛は心を動かされ、
自然と受け入れてしまった――
「もう……いいや」
ブラッドの腕が笛の首元へ伸びた。
その時だった――
――パーンッ!
大きな破裂音と共に、
ブラッドの身体が吹き飛ばされた。
笛は咄嗟に我に返る。
そして目に入る。
死んでいる紡時が――
いや違う。
死んでいたはずの風が――
「あぁ……ああ」
こちらへ手のひらを向け、
血塗れのまま立っていた
エナジー値反応あり――
能力――発動中――
能力名――時を紡ぐ者――
死して紡時風の能力が発動し、
四度目の復活を果たしたのだ。




