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検査結果は能力なし 〜能力なしで死んだ俺は、なぜか今日も死なせてもらえない〜  作者: 鬼喜怪快
本編

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28/48

28話 唯一、戦える者


 

 そこにいるすべての者が、

 その男だけを見ていた。


 どうしようもない地獄に、突如現れた人物を――

 始まった侵略という宴に、割って入ってきた人間を――


 

「紡時……さん……」


 

 朦朧とする意識の中、笛は風の存在に気が付いた。


 

「逃げて……」


 

 能力の発動が止まる前に見た、2体の力。

 その得体の知れなさに、風ですら危険だと笛は悟っていた。


 

「雷鳥さん……剛海さん……

 2人をこんなにするような危険な奴を放っていけないよ」


 

 微笑みながらラバーニは歩み寄ってきた。


 

「この星の言葉……

 飛んで火に入る夏の虫……と、言ったかな?」


「何? お前?」


「君たちのよく知る侵略者だよ」


 

 ――パチンッ!


 

 ラバーニは、手を叩いて大きな音を鳴らした。

 笛はその所作に気付き、さらに絶望に落ちた。


 ここにいる全隊員の能力発動が止まった直前に見た動き、

 それと同じだったからだ――


 これでは風も――


 

「そこのお漏らしさんや、

 その辺の死に損ないの連中は知っていることだけど……

 君はもう……能力を使えない」


「?」


「僕の能力は変わっていてね。

 手を叩いた音を聞いた者は、一斉に能力を封鎖されるんだよ」


「能力を封鎖……?」


「うん。

 だから、その辺の死に損ないたちは、

 威勢は良かったけど、無抵抗のまま殺されていく可哀想な連中……」


「……なんてことを」


「可哀想だろ?

 でもね……」


「!」


「今の君も、それなんだよ……」


 

 ラバーニの手が風に迫る。


 

「すぐに殺してあげるよ――」


「!」


 

 放心状態だった笛が叫んだ。


 

「逃げて! 紡時さ――」


 ――バキバキバキバキッ!


 風の拳が、ラバーニの顔にめり込んでいた。


 

「えっ?」


 

 笛の口から声が漏れた。


 

「!」


 ――ズドドドドドーンッ!


 殴られた侵略者は、

 建物という建物を突き破り吹き飛んでいった。


 笛はその衝撃に理解が追いつかず、

 思わず口にした。


 

「どうして……?」


 

 その質問に、風は振り返らず答えた。


 

「だって俺……能力ないし」


 

 風はそのまま、

 10体の兵隊ベーダーへ襲いかかった。


 気付けば最初の1体の首が飛び、

 2体目は地面に叩き潰され、

 残る8体も数秒で沈黙した


  

 ――だって俺……能力ないし


 

 それは、

 普通に聞けば、

 あまりにも理解不能な答えだった。


 風には、そもそも封じる能力が存在しないのだ。


 能力なし――

 だからこそ、

 今この場で唯一戦えた。


 能力がない人間は、ゴミとして扱われる世界。

 その能力のない人間が、

 初めて侵略者を追い詰めた瞬間だった。


 次に笛が風を見た時には――


 10体の兵隊ベーダーは、

 すべて地面に伏していた。


 そして風は、

 真紅の兜と鎧を纏うベーダー星人を睨みつけていた。


 真紅の侵略者と風が向き合う。


 ここで負ければ、

 日本は終わる。


 

 ――ドオオオオオーン!


 

 そばにあったマンションが崩れる。


 立ち昇る砂埃の中を、

 ラバーニが歩いてくる姿が見えた。


 

「地球人ごときがぁ!」


「!」


 

 風がラバーニに目をやった。


 

「ブラッド!

 こいつは僕が殺す……邪魔をしないでくれ!」


 

 先ほどまで余裕を持っていた雰囲気は皆無だった。


 潰れた顔をさらに歪め、

 怒りの形相で向かってくる。


 風はラバーニに手のひらを向けた。


 真紅のベーダー星人ブラッドは、

 何かに気付き、ラバーニへ静かに呟く。


 

「退け……死ぬぞ」


「腹が立って退けないんだよぉ!」


 

 ラバーニの上半身が膨れ上がった。


 

「へっ?」


 ――ズバーンッ!


 

 大きな破裂音とともに、

 白の侵略者は爆ぜた。


 斥力による身体内部での反発――

 それによる破裂。


 同じベーダー星人だった者の能力だ。


 ブラッドは黙って、

 飛び散った仲間の残骸を見下ろした。


 

「これは……ダクネスの力」


「ダクネス?

 あの黒い鎧のベーダー星人のことか?」


「……なぜ地球人が使える?」


「知らないよ……

 そいつに殺されて生き返ったら、

 使えるようになってたんだ」


「……ダクネスを殺したか?」


「こっちも、いっぱい殺された」


 

 ブラッドが手を前方にかざすと、

 赤いオーラで型取られた巨大な剣が浮かび上がった。


 それを掴み取り、

 地面に突き刺し風を睨んだ。


 

「!」


 

 ラバーニを倒したことで、

 笛の目に能力が戻りつつあった。


 

「見える……侵略者のデータが見えるわ!」


 

 笛は慌ててブラッドに目を向ける。


 

「!」


「……エターナル値が発動してる」


 

 ブラッドの左腕に、

 赤いオーラで型取られた盾が浮かび上がった。


 ――またエターナル値が反応した。


 

「あの赤いオーラのようなものがエターナル?

 オーラなのに質感を感じる……なんなの?」


 

 ブラッドが口を開いた。


 

「ベーダー星の天戦神てんせんしん……

 それを2体も始末するとは、いささか信じられん」


「てんせんしん……?」


「お前は持ち帰ろう……

 ダクネスの力を奪っている……

 研究すべき対象だ」


「素直に応じるわけないだろ!」


 

 そのやり取りを、

 笛は黙って聞いているしかなかった。


 他の仲間たちは大きなダメージを負い、

 全員意識を失っている。


 今、この場にいるのは風とブラッド、

 ――そして笛の3人だけだ。


 今から彼女はこの星を賭けた、

 否――この日本を賭けた戦いの、唯一の目撃者となる。


 彼女以外誰も知らない、

 知ってはいけない戦いが幕を開ける。




 

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