27話 能力封鎖
2体の格の違うベーダー星人の出現に――
雷鳥率いる隊員たちは、
恐怖で指先ひとつ動かせないほど、身体を硬直させていた。
そこへ白いベーダーが、
剛海を回復している伊安の方へ顔を向けた。
「死にかけた仲間を……回復しているんですね?」
隊員たちの背筋が凍る。
地球の言葉を話す侵略者は珍しくない。
だが――
しかし、流れるような日本語を話し――
敬語まで使う侵略者など、誰も見たことがなかった。
白いベーダー星人は、
ゆっくりと伊安のもとへ歩いていく。
伊安を殺すつもりか?
それとも、
伊安と剛海を繁殖用として捕獲するつもりなのか?
――パチンッ!
そいつは手を叩いて大きな音を鳴らした。
そして呟き出した。
「ゴミを回復させたところで、ゴミが増えるだけです。
――もう……いいでしょう?」
笛はずっと分析を続けていた。
侵略者が手を叩いた瞬間、
ユニバース値が動いた。
それは能力発動の合図だったようだ――
一瞬だけ能力名が見えた。
読もうとした、その時――
笛の目から、見えていたすべての文字と数値が消えた。
「えっ?」
同時に、伊安の回復能力も止まる。
「……ど、どうして?」
慌てる隊員たち――
しかし、それは笛や伊安だけではなかった。
雷鳥の稲妻――
氷河の凍気――
影井の立体影――
すべての能力が同時に消え、
再発動させることができない。
その場にいる全員が、
能力を使用できなくなっていた。
「どうしてだ! どうして凍気が発動しない!」
「俺の影も顕現できない……!」
「回復をしないと……剛海副隊長が死んでしまう!」
白いベーダーは腕を組みながら、
クスッと笑った。
「地球人の失敗は……
宇宙と閉鎖的な関係を作ってしまったことにあるね」
「!」
「地球人は、自分たちを守りすぎた。
だから宇宙の情報が入ってこない……」
「……」
「この長い時間の中で、
地球人はヴィジョン星人としか混ざっていない」
そう言うと、
白いベーダー星人は兜を脱ぎ始めた。
そこから現れた顔は、
薄い紫色の肌ではあるが、
顔立ちだけを見れば極めて地球人に近かった。
「僕の顔……君たちと似ているだろう?」
「……お前は何者だ?
ベーダー星人ではないのか?」
雷鳥が問うた。
「そういうところだろうね。
地球人の残念なところ……いや、日本人の悪いところは」
「何を言っている!」
「他の国の人たちは、もっと知っているんじゃない?
宇宙のこと、侵略者のことを……」
「?」
「今日、我々がここへ来ることも、
他国の連中は知っていたと思うよ」
「なに!?」
雷鳥は驚きの声を上げた。
「ベーダー星人なんて、
そもそも単一種として存在しないんだよ。
僕たちは、様々な星の生物を掛け合わせて生まれてきた者……
いわば捨てられた生物――
ベーダー星なんて、そんな生物ばかりが集まった異質な星なんだよ」
侵略者の語る内容は、
日本が認識していた情報とはまるで違っていた。
「僕には地球人の血が混じっている。
繁殖用だった日本人の女に、
この言葉を教えてもらったんだ――うまいもんでしょ?」
「!」
「大きな国は、
適当な星と付き合いをしているはずだよ。
それなりの対価を払ってね」
「対価だと……」
雷鳥は苛立ちを隠さず聞き返した。
「そうそう……
その対価で、情報、技術、武器……
色々手に入れているんだよ」
「ふざけるな……
我々がそんな交渉に耳を傾けると思っているのか?」
「対価を払って、
我々と付き合う方が賢明だと思うよ……
現にこの日本だけが情報戦で出遅れている……
仲良くしようよ」
対価――
それは女や物資を侵略者へ差し出すことだ。
「お前たちが友好的なら話は変わっていただろう。
しかし、お前たちの本質は侵略者……
一生かけても折り合いがつかない相手だ」
「うーん。やっぱりダメか。
敬語……久しぶりにおさらいしてきたんだけどね」
その時、
真紅のベーダーが初めて口を開いた。
「ラバーニ……飽きた……
もう殺せ……」
「能力者は生かして、
兵隊として置いておきたいんだけど……
ダメかい? ブラッド?」
「2度……言わせるな」
「はいはい……」
ラバーニと呼ばれた白いベーダー星人は、
雷鳥たちへ向き直り、結論を告げた。
「めんどくさいから、君たちを殺すことにするよ……
占領してから、周りの国をどうするか決める。
よその星と繋がりがあると、
手が出しづらいからね……」
「思い通りに行くと思うなよ!
侵略者!」
「能力も発動できない分際で、
イキがるなって……」
次の瞬間――
雷鳥は頭を地面へ叩きつけられ、
そのまま意識を失った。
数人の隊員が恐怖に耐えきれず、
叫び声を上げながら逃げ出そうとした。
――バジュッ!
――バジュッ!
――バジュッ!
兵隊ベーダーの手によって、
隊員3名が処分された。
「女は殺さない……良かったね。
君たちには、まだ価値があるから……」
――ドウゥン!
1人の女性隊員が、
対侵略者用のライフルを構えて発砲した。
弾丸はラバーニのこめかみに直撃する。
――しかし、まるで効いていない。
「いい腕してるね……」
ラバーニは微笑みながら女性隊員へ近づき、
その両腕を引きちぎった――
「ぎゃあぁあぁー!」
断末魔のような叫び声が一帯に響く。
――絶望
能力が使えたところで勝ち目などなかった。
それすら封じられた今、
もう絶望しかない。
笛は恐怖で腰が抜けたのか、
動くことすらできなかった。
目の前では、
無抵抗のまま仲間たちが次々と駆逐されていく。
氷河――
影井――
剛海――
他の隊員たち――
誰も抵抗できず、
おもちゃのように弄ばれていた。
「やめてぇー!」
「いやぁーっ!」
伊安と剛海副隊長が、
髪を掴まれ、引きずられながら連れて行かれる――
捕虜にされるのか……
いや、繁殖用の器だろうか。
「ねぇ、君……」
笛は、
真横にラバーニが立っていることにすら気づかなかった。
そして、声を掛けられても、
顔を上げる気力すら残っていなかった。
「かわいそうに……
よっぽど怖いんだねぇ。
……お漏らししちゃってさぁ」
笛はそんなことにすら気づけないほど、
深い恐怖の中にいた――
ラバーニは、
怯えきった笛を見下ろした。
「君……
身体が小さいから、器に不向きなんだよね。
鮮度が下がるから嫌がられるんだけど、
ここでサッと殺して、
臓器だけ持って帰ってあげるよ」
「……」
「うんうん……大丈夫だよ。
首を引きちぎって、
しっかり血抜きしてから取り出してあげるからね」
そう言うと、
ラバーニの手が笛の頭へ伸びた。
――パーンッ!
笛に触れる寸前、
ラバーニの手と身体が見えない力に弾かれる。
侵略者は大きく吹き飛ばされたのだ。
「なんと……これは」
驚きながらも、
ラバーニは綺麗に着地を決める。
「斥力……か?」
真紅のベーダー星人・ブラッドも、
その見覚えのある能力に反応を見せた。
侵略者たちが一斉に、
その場に立つ者へ目を向ける。
突然現れた、来訪者――
「遅くなってごめん……
もう、大丈夫だから」
そう言った男は、
笛を護るように立ちはだかっていた。
紡時 風――
彼が、ようやく到着したのだ。
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次回の28話、
実は作者が本作で一番書きたかったエピソードです。
ここから物語は最終局面へ向かいます。
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