25話 人間側の本気
「状況を報告してくれ」
「はい!
状況は極めて劣悪です。
第6支部の当直メンバーに死傷者多数。
全隊員が揃いつつありますが、隊員、ブレイカーが集まっても対応が間に合っていません。
第5支部、第7支部の救援が待たれます」
「わたしの方から全支部に救援申請をかけた。
だが、他支部も留守にはできない――
向かうメンバーは限られてしまうだろう」
百万遍総隊長が、第6支部の情報官と連絡をとっていた。
「あの……近隣各国への報告は!?」
「……」
「総隊長!?」
「まったく、想像以上だったよ」
「?」
「1番の隣国は、妨害電波を受けているのか通信が遮断されている……」
「はぁ?」
「1番の友好国は、対侵略者用の武器や兵器を購入するよう言ってきている……」
「なんですそれ……?
助ける気がないってことですか?」
「他国も、1ヶ月後を想定していたため、準備や選定がまだと返答があった。
本日中に会議を行い精査するとのことだ……
近日中には返答すると……」
「……そんな……近日中に返事をもらっても」
「あぁ、その頃には侵略が終わっている……」
そんなものなのだろう。
他国に期待している方がおかしかったのだ。
日本に利点があれば別だ。
ただ、自国の利益にもならず、自国の能力者へ被害が出ることに、
他国が率先して手を貸すわけがなかった。
「他国の動きが周到すぎる……」
「?」
「今日のことを知っていたのではないか……?」
他国の動向に、百万遍総隊長は訝しんだ。
しかし、今はそれどころではない――
「剛海と雷鳥は?」
「剛海副隊長は、WZから出現した5m級の巨大ベーダー星人と対峙中。
20数名の隊員がその場で複数のベーダー星人に囲まれています。
極めて危険な状況です!」
「……」
「あっ!」
「どうした?」
「雷鳥副隊長が現地に到着しました!」
「間に合ったか……雷鳥」
――――――
雷鳥の目下には、
5メートルはある巨体のベーダー星人。
そして、侵略者10体に包囲された、
剛海副隊長率いる11名の隊員と、
すでに地面に伏せている7名の隊員たちが見えた。
剛海が巨体のベーダー星人と睨み合っている。
「虎落……あのデカブツの能力分析できるかい?」
「……ユニバース値はありません。
おそらく特殊な能力は持っていない。
ただ……
インパクト値が32t――プロテクト値が35tです」
「インパクト値が32tだって……
このプロテクターの耐久値が12tくらいだ。
わたしが筋肉操作で100%を引き出しても、
耐久限界は20tちょい――直撃したら即死だ」
剛海の率いるメンバーの中に、
虎落笛がいた。
笛の能力は分析――
彼女の目にはすでに、
剛海たちと侵略者の戦力差が、
あまりにも大きく映っていた。
「手の打ちようがない……って顔に出しすぎだ。
虎落……」
「えっ!」
「この時点で諦めてどうする……
ここでわたしたちが踏ん張らないと、
この日本、終わってしまう」
剛海の全身の筋肉が隆起する。
100%の能力発動だ。
血管という血管が浮き上がり、目が血走る。
心臓の音が大地にまで響いた。
彼女の片手には、あまりにも分厚い大剣が握り締められていた。
「あのデカブツはわたしがやる!
それまでみんな耐えろよ!」
そう言うと剛海が巨体のベーダー星人に飛びかかった。
剛海の大剣が巨体のベーダー星人を襲う。
しかし、その斬撃はベーダー星人の片腕によって弾かれた。
渾身の力を込めて振り下ろした斬撃もビクともしない。
「ふざけてるね!」
剛海は一度距離をとった。
「!」
その時、剛海は気付いた。
兵隊のベーダー星人10体が動いていない。
巨大ベーダーと剛海の戦いを、
黙って見ているようだった。
「……ふふふ、そう……。
これは大将戦ってことね。
ここでわたしを討ち取ったと同時に、
ここにいるものすべてを殺すってことか……」
「グフフッ」
「兜被ってるからわからないけど、笑ってるんだ……
むかつくね……」
すると、今まで口を開かなかった巨大ベーダーが喋り始めた。
「お前……女……というものだな。
この中に何匹か女がいるな……」
「……」
「繁殖用に高値で売れる生き物だ。
手足を砕いて、生かしておこう……」
剛海は大剣を構える。
「舐めんな……。
お前らの好きにされるくらいなら、
舌噛んで死んでやるわ……」
「……死にたければ死ねばいい。
女の内臓に値打ちがあるのだ……
質は落ちるが、死ねば臓器だけ取り出して保管する」
「!」
剛海は怒りに震える。
目の前の巨体ベーダーを睨みつけた。
「俺の種を植え付けてやろう。
面白いものが生まれるかもしれん」
「やってみろや! オラァ!」
その挑発に剛海が飛びかかった。
しかし、侵略者は振り下ろされた大剣の腹を殴り、叩き折った。
「なっ!」
「グハハハッ」
もう片方の拳が剛海の身体を打った。
――ボキボキボキボキッ!
「キュッ!」
骨の砕ける音と、
喉から息が漏れ出るような、聞き慣れない声を発し、
剛海が道路に叩きつけられた。
「副隊長!」
剛海の反応がない。
隊員たちが助けに動こうとすると、
兵隊のベーダーたちが立ちはだかった。
「あっ……」
蛇に睨まれた蛙――
隊員たちは恐怖で、もう動けなかった。
低いうねるような声で笑いながら、
地に伏せた剛海に近づく巨大なベーダー星人。
意識を失った剛海の前に立ち、声を上げた。
「この場で俺の種を植え付けよう……
面白いものが生まれれば、
繁殖用として使っていけばいい」
2体のベーダーが剛海の身体を起こし、
プロテクターと制服を破り始めた。
――地獄絵図だった。
目の前で、地獄が行われようとしていた。
全員が恐怖で動けない中、
彼女だけが動いてしまった。
「や……やめ――やめろぉー!」
笛が対侵略者用の拳銃を構え、
大きな声を上げた。
もう、どうにもならないことはわかっているのに……。
その笛の姿を見たベーダー星人たちは、
一様に大声をあげて笑い始めた。
――グフフフフ!
――ケタケタケタ!
――キャハハハハ!
身体の感覚がなくなるような恐怖の笑い声。
それでも、笛は剛海を見捨てられなかった。
「わたしがお前を倒してやる! 馬鹿野郎!」
――パンパンッ!
無駄だとわかりながら、
笛が2回発砲した、次の瞬間――
巨大ベーダー星人の首が、
地面に落ちた。
全員が、時間の止まったような感覚に包まれ、
信じられないものを見たように目を見開く。
首を失った巨体からは、
噴水のように血が噴き上がった。
笛も驚いている。
「わ……わたしが……撃ったから」
彼女が自分の拳銃を見つめる中、
隊員たちは、ある男を見ていた。
全身に雷を纏い、
天空から稲妻のごとく現れ、
金色の槍にて侵略者の首を落とした男――
第6支部・副隊長 雷鳥響を。




