22話 侵略前夜
事務所からの帰り道。
風と笛は、一緒に駅まで歩いていた。
帝呼も一緒に帰りたがっていたが、
明日の仕事の準備を手伝うため、事務所に残されている。
「能力の回数制限……だってね」
「……すみません。
わたし、そこまで考えてなくて……」
「虎落さんが謝ることじゃないよ。
親方が気付いてくれてよかった……
俺だって、死にたくないんだよ」
「変な質問ですが……
死ぬ時って、どんな気分なんですか?」
「……そうだね。
一言で言うと――恐怖かな」
「恐怖……」
「怖いし、痛いし……
意識が無くなる瞬間は、
すごく悲しくなるんだ」
「……」
「できることなら、
俺だって二度と味わいたくないよ」
「それは……そうですよね。
わたし、紡時さんは“死んだら強くなる”って部分ばかり見ていて……
その前提に、“死んではいけない”ってことを、
考えていなかった……」
「でも親方が、
“死んじゃいけない”って言ってくれて、
なんか安心したんだよ……。
やっぱり親方は、すごい人だよ」
「……本当は、
大したことない人なんですけどね」
それから2人は、
互いに軽く手を上げて駅で別れた。
次は4日後に事務所で会う約束をして――
また笑顔で会えると信じて――
この時の2人は、
日本に危険が“こんなにも早く”訪れるとは、
予想すらしていなかった――
――――――
翌日、日本政府は、
この1ヶ月以内に危険度の高い侵略者の襲来が予想されると発表した。
国外退去や物品の買い占めなどが起こらないよう、
あえて緊急性を煽らなかったこともあり、
国民はその発表にさまざまな反応を見せた。
150年前のWZ同時多発事件との関連を危惧する者は、
ベーダー星人の再来に備え始める。
しかし、ほとんどの人には現実味がなく、
どこか他人事のように受け止めている者が多かった。
本格的な危機へ備える者は、まだまだ少なかった。
その一因として、
先日襲来したベーダー星人を倒した者の存在が大きかった。
ベーダー星人。
学校の授業では、
“恐ろしい侵略者”だと教えている――
しかし――日本には、あの侵略者を倒した男がいる。
その安心感が、
人々から危機感を奪っていた。
また、日本政府が“1ヶ月以内”と期限を示したことも、
原因だったのかもしれない。
世間は、
明日も、1時間後も、1秒後も、
すべて“1ヶ月以内”に含まれていることを忘れていた。
日本政府から発表があった夜――
防星省・第1支部、第12支部の管理地域に、
中型のワープゾーンが多発した。
近隣の支部、
または民間のブレイカーたちが動員され対応へ向かう。
ワープゾーン多発地域では、
さすがに人々も危機感を持ち始めた。
しかし、それでもなお――
“防星省がなんとかしてくれる”
“ブレイカーが守ってくれる”
そう考える者が大半だった。
侵略者そのものへの危機感は、
目に見えて薄れていた。
防星省とブレイカーたちの奮闘が、
逆に国民の危機意識を下げてしまう――
そんな皮肉な結果となっていた。
――――――
地球の文明が進んでいるのなら、
侵略者の文明も進んでいる。
それは当然のことだった。
しかし地球は、
地球人と地球資源を守るため、
他星との交信を極力控えてきた。
そのため地球側は、
宇宙の情報をほとんど得られていない。
だからこそ各国は、
独自のルートを使い、
他星と密かに交信している。
どれだけ他星の情報を持っているか――
それが、その国の力だった。
日本もまた、
独自ルートで他星と交信を行い、
最新情報を握っているつもりでいた。
実際、日本は守られていた。
それは優秀な防星官と、
ブレイカーたちの存在が大きかった――
この頃の日本は、
自分たちが世界の先を行っていると、
思い込んでいた。
しかし後に、情報戦において日本は、
大きく出遅れていたことを知る。
この時すでに隣国では――
“その日”
“その時”
“その場所”に、
ベーダー星人が襲来することを、
把握していた国すら存在していたらしい……。
日本がWZ同時多発事件を発表してから3日後――
防星省・第6支部管轄地域の上空に、
直径10mにも及ぶ、
巨大なワープゾーンが出現する。




