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検査結果は能力なし 〜能力なしで死んだ俺は、なぜか今日も死なせてもらえない〜  作者: 鬼喜怪快
本編

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19/48

19話 危険度Aランク


 

 そこには壁に全身を打ち付けられ、

 力無く項垂れる帝呼の姿があった。


 吐血した跡が見られる。


 帝呼へ向かって歩く侵略者の前に、狩が立ちはだかった――

 彼は全身に深い傷を負い、立っていること自体が奇跡だった。


 その異様な侵略者は、

 感情や知性など微塵も感じさせない目で2人を見下ろした。


 

「女は持ち帰る――新しい生物を作るため――」


「……持ち帰るのは俺にしとけや。

 ……バカみたいにわんさか子供産んでやるからよ。

 あいつなんて持って帰っても、いいもん産めねぇよ……」


 

 歩みを止めない侵略者――


 

「なぁ……俺にしとけって……」


「……地球の男は、ゴミ同様――宇宙の常識。

 後ろの女は――死ぬまで――繁殖用として使う」


「……ざっ――けんなオラァーッ!」


 

 硬質化したノコギリを振り上げた。

 次の瞬間――


 ――ビンッ!


「!」


 

 腹部に熱を感じた狩。

 自分の脇腹に目をやる――


 右腹の一部が吹き飛び、血が溢れ出ていた。


 

「うあぁぁぁー!」


 

 狩はその場に倒れ込む。


 侵略者は、気絶している帝呼の首根っこを掴んで持ち上げた。


  

「まだ若い個体だな――20、30体は産めるだろうか――」


「……は……離せや……俺の……タイコ……」


 

 腹部を吹き飛ばされても、狩は立ち上がった。


 娘を救うため――

 何がなんでも侵略者の思い通りにさせないために――


  

「タイコリンは……助ける……。

 絶対に……連れて行かせない――」


「よく喋るゴミだ……」


「帝呼……お前は助かる。

 こんないい娘が、こんなところで死ぬわけがねぇ。

 神さんが……そんなこと許すわけねーんだ!」



 侵略者に飛びかかろうとする狩。


 

「邪魔だな……死ね」


「うおあらぁーっ!」


 

 ――ズドオォーンッ!


 

 ――――――


 

 それより少しだけ時間を遡る。


 狩と帝呼は、仕事用の車で県境にある病院までやって来た。

 突如、病院の中庭にワープゾーンが確認されたからだ。


「パパ。

 ここ終わっても、次の仕事入ってくるんじゃない?

 なんかワープゾーンが大量発生してるってニュースで言ってるし……」


「……兄ちゃん残しときゃよかったなぁ?

 連れて来とけば、いろいろと勉強できたかもしれねぇ」


「でもさ、彼って入りたてなのに、

 めっちゃ頑張ってくれてるじゃない。

 今日は帰らせてあげて正解だと思うよ」


「タイコリンも明日ライブだろ!

 早く帰りたかったろうに……」


「わたしが受けちゃったからね、この仕事。

 でもすぐ終わるっしょ」


 

 病院の患者は可能な限り別棟に避難させていた。


 それにここは80㎝のワープゾーン。

 緊急性、危険性は低いものに属する。


「なんか、2mものとか2.5mもののワープゾーンから

 厄介な侵略者が出てきてるんだって!」



 スマホのニュースを見ながら、

 帝呼が驚いていた。


 

「……まぁ、その辺りは大手の連中に任せてだな。

 俺らはこじんまりと世間のお役に立てればいいんだ」


「ふふっ……だね」


 帝呼は全身からキラキラと光る霧のようなものを放出した。


 敵を誘き寄せる、魅惑の香り――



 このワープゾーンは発見されてから2時間、

 侵略者の出入りは確認されていない。


 彼女は香りを周囲へ拡散するのではなく、

 ワープゾーンへと送り始めた。


 

「さぁおいで、わたしに魅了された侵略者さん!」


 

 これは虎落家のいつもの段取り。


 帝呼の香りで侵略者を引き寄せて、

 狩のエクスカリバーで敵を切る――


 それで依頼達成率100%の実績を残してきた。



 油断があったのだろうか……

 いや――

 この時から、日本に異常事態が迫っていたのかもしれない。


 

「パパ、なんか来てるよ!」


「おう!

 ここからは任せろや。タイコリンは隠れてな!」


「はーい」


 

 次の瞬間――

 ワープゾーンから、侵略者の手が見えた。


 

「でっけぇ手だな、おい!」


 

 両腕が出ると、今度は顔が見えた。

 どうやら水泳の飛び込みのような姿勢で、

 ワープゾーンを潜り抜けてきたらしい。


 その侵略者のクリクリした目に、狩は知性の無さを感じた。


 その通り、その侵略者はワープゾーンに身体が引っかかり、

 出て来れないでいる。

 必死で踠いている様子が、なんとも馬鹿らしかった。


 

「なんだよこのバカはよぉ。

 自分のサイズとワープゾーンのサイズも考えず、

 タイコリンに引き寄せられて来ちまったみたいだぜ!」


「なんか見たことない侵略者よね。

 何星人だろ?

 スマホで調べよー」


 

 この時点で、すでに仕事は終わったような空気になっていた。

 あとはこのまま侵略者の首を切ったら終わり。


 

「やいやい、そこの侵略者の馬鹿野郎!

 誰の許しをもらって、ここまできやがった!

 この星で馬鹿やりたきゃよ……」


「それって絶対にやんないとダメなの?」 


「見得切ってる最中に話しかけちゃいかん!」


「あっ……ごめん」


「ったくよ……兄ちゃんにも口上叩き込んでんだぜ」


「うわぁー! 迷惑ぅー!

 だから社員誰も残らないんだよ……」


「黙れぃ!

 えーっと……続きは――どっからだっけ?」


「それ、いい加減にやめたら?」

 

「ええい!

 簡略版だ!

 この星で馬鹿やりたきゃ、

 ――俺を殺してからにしやがれ!」


 

 口上を言い切った狩。

 彼は満足そうな顔を見せた。


 

「えっ!」


「!」


 

 突然の帝呼の声に、狩が反応する。


 

「どうしたタイコリン?」


「その侵略者……スマホで調べたらタルポルン星人だって」


「なんだそりゃ、可愛らしい名前じゃねーの」


「危険度Aランク……避難対象の侵略者って書いてある……」


「このバカのどこが危険度Aランクなんだよ……

 挟まってんだぞ」


「でも……ネットには避難対象って――」


 

 帝呼がスマホから、父である狩に視線を戻した時――

 タルポルン星人は、3mを超える巨体を見せながら、

 狩の真後ろに立っていた。


 

「パパ……?」


「あん?」


「……うしろ」

  

 ――バキッ!


 

 巨体からの拳が狩を襲った。


 

 ――ドカンッ!


 

 病院の壁に狩がめり込む。


 

「パパッ!」


 

 帝呼はすぐに意識を拡散させる香りを放った。

 これが効けば、

 狩と帝呼から興味を無くし、場所を移動してくれるはず――

 だった。


 ――ドゴンッ!


 無情にもタルポルン星人の拳が帝呼の上半身に直撃し、

 吹き飛ばされた。


 

「ブハァ!」


 

 身体を壁に激しく叩きつけられ、血を吐く。


 そのまま意識を失い、帝呼はもう立ち上がれない。


 

「タイコリン!」


 

 全身を硬質化させていたおかげで、なんとか攻撃を凌いだ狩。

 しかし今の一撃で、自分たちでは手に負えない相手だと判断ができた。


 スマホを取り出し連絡を入れる。


 その相手とは――笛だった。


 

「もしもし、パパ?

 ごめん、今忙しいんだ。あとでいいかな?」


「白梅市の病院に大至急救援をよこしてくれ……」


「パパ? 聞いてる……

 今ワープゾーン大量発生で大変なんだって――」


「タルポルン星人が現れた……

 タイコリンがやられた。

 俺も……ダメだろう……」


「!」


「時間作るから……早く救援をくれ……

 町に出たら、どえらいことになる……」


「パパ? 何言っているの?

 タルポルン星人って、どうしてパパがそんな危険な奴を……」


「医療系の奴も頼む……

 タイコリンだけは絶対に助けてやってほしい」


「パパッ!」


 ――ツー・ツー・ツー


 

 電話が切られた。


 笛の頭の中は真っ白になる。

 この非常事態に、救援要請など無理だ。

 ましてや、防星官の家族のために組織を動かすなど、

 許されるわけがない。


 父親のあんな声を笛は聞いたことがなかった。

 だからこそ、本当に緊急事態なのだと一瞬でわかった。


 笛は思考が止まりそうになりながらも考える。


 家族の一大事に、

 家族のために動けない――何もできない。


 どうすれば助けられる。

 誰が助けに向かえる。

 時間がない。

 現場まで一瞬で移動できる者などいない――


 震える手、

 流れる汗、

 詰まる声、


 そんな状態の中――


 ――紡時風。


 ふと彼の顔が浮かんだ。


 今日は18時で帰ると言っていた。

 風は現場にはいない――?


 笛は慌ててスマホを取り出した。

 

 そして時計が22時を回った頃――発信。


  

「もしもし!

 虎落さん、大丈夫かい――?」

 


 そんな風からの第一声に対し、

 笛は涙を必死で抑えながら言葉を絞り出した。


 

「紡時さん――パパと……帝呼を……

 助けてやってもらえませんか?」


「!」


「かなり……危険な状況のみたいで……

 帝呼が……やられたって……」


「……すぐ行く。場所、教えてくれる」


 

 風は最後まで聞かず、即答した。


 

「絶対に助けるから……泣かないで」

 

「……ありがとう……ございます」


 

 愛する家族を救うために頼った男は、

 大切な仲間を守るために動き出す。




 

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