17話 ブレイカーの仕事
あるお寺の蔵の中。
住職が蔵の大掃除をしていると、
小さなワープゾーンを見つけたらしい。
今日はその確認と処理のため、
タイガードロップに依頼が入った。
「虎落さん。すまんが頼むよ。
物騒で敵わん……」
「住職、安心しとけって話よ。
俺とタイコリンがいるんだ。
大船に乗ったつもりでいな!」
「よろしくお願いします」
そう言うと、住職は蔵から出て行った。
「それじゃ、取りかかるぞタイコリン」
「はーい」
帝呼は羽織っていた薄手のコートを脱ぎ出した。
「……なっ!」
するとアイドル衣装のような、
フリフリの付いたコスチュームが見えた。
――結構露出多め。
「ちょっと、あんまりジロジロ見ないでよ!」
「いやっ……そういうつもりじゃ……」
なぜか、彼女から目が離せない。
そこに父親の狩が割って入ってきた。
また怒られるのかと思いきや――
「これがタイコリンの特殊能力だ」
「?」
「タイコリンは全身から、
自分にだけ視線が向けられる香りを出せるんだ」
「……そんな能力があるんですか?」
「そうだ……。
だから兄ちゃんも釘付けになっちまってるだろ」
「変わった能力ですね」
「これで隠れてる侵略者も炙り出せるし、
ワープゾーンに香りを送り込んで、向こうにいる奴をおびき寄せることもできる。
この仕事にはもってこいの能力だ。
地下ライブでも前列の連中なんて、
みーんなタイコリンに首っ丈よ!」
帝呼は全身からキラキラと光る霧のようなものを放出し、
ワープゾーンへと送り込み始めた。
「さぁおいで、わたしに魅了された侵略者さん!」
――虎落帝呼は能力が発動し、
ワープゾーンの向こうにいる侵略者を招き呼ぶ。
――――――
「あの……社長!」
「親方だ! 馬鹿野郎!」
「……親方!」
「なんだ馬鹿野郎」
「帝呼さん、危なくないですか?」
風の心配はその通りだった。
隠れている侵略者、
魅了されたワープゾーンの向こう側にいる侵略者が、
もし手に余る存在だったら――
帝呼は非常に危険だ。
「安心しな兄ちゃん、ワープゾーンのサイズを見るんだ」
ワープゾーンのサイズは随分と小さい。
直径50㎝ほどだろうか。
「このサイズじゃ、小動物程度の侵略者しか来れん。
大物は来ないってことよ――」
「サイズですか?」
「おそらく、どこぞの星と物品の輸出入に使ってたモンだな」
星同士の法律のようなもので、
各星の資源、食糧、生物の輸出入は禁じられている。
しかし、適当なワープゾーンを作り、
個人で輸出入を行う連中が、後を絶たなかったようだ。
ワープゾーンの位置は、常に固定されているわけではない。
作り出しても、時間が経てば消える。
だが、それは完全に消えたわけではなく、
時間を迎えると、別の場所で復活する。
だからこそ、
地球が総力を上げても完全封鎖ができなかった。
「……そんなことのために作られたモノもあるんですね」
「金のためなら、人間も宇宙人もなんだってやるのさ」
その時だった――
「パパ! ワープゾーンからなにか来るよ!」
「よっしゃー!
いよいよ俺の出番かい!」
そう言うと、狩はハチマキをさらにキツく締めた。
「来たよ!」
ワープゾーンから現れた侵略者――
それは四足歩行の犬に似た生物だった。
「トペット星の犬っころかよ!」
一気に5匹が引き寄せられたようだ。
風は、狩は心配ないものの、
薄着の帝呼が気に掛かった。
「帝呼さんが危ない!」
「大丈夫だ。
タイコリンは魅了と逆の、相手を寄せ付けない香りも出せる」
「えっ……それって、臭いってこと――?」
すると真っ赤な顔をした帝呼が、
こちらを向いて叫んだ。
「違う! 臭いんじゃない!
意識を向けられない香りを出せるだけよ!」
トペット星から来た侵略犬が威嚇する。
狩は背中に携えていたノコギリを取り出し、
刀のように構えた。
「ノコギリで戦うんですか?」
「兄ちゃん……俺の能力を教えてやるぜ」
「!」
「俺は触れたものを硬質化させる能力持ち。
このペラペラのノコギリも、
俺に持たせりゃエクスカリバーよ!」
――ガウ! ガウ!
侵略犬が吠えた。
すると、狩が見得を切って口上のようなものを
読み始めた。
「やいやい、そこの侵略者の馬鹿野郎ども!
ここであったが100年目、俺と会ったが運の尽きー!
この星で馬鹿やりたきゃよ……」
――力強くノコギリを握りしめる。
侵略犬が空気を読んだように静かになった。
そこからの決め台詞――
「俺を殺してからにしやがれ!」
待ってましたと言わんばかりに、
侵略犬が一斉に飛びかかった。
「オラァー!」
――斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ!
狩は一瞬で5匹を切り倒した。
「おぉ! すごい!」
「ちゃんと見てたか?」
「はい!」
「見て学んで精進するんだぜ!」
「はい!」
帝呼がバッグから筒状の機械を取り出した。
小型の懐中電灯に似た機械にスイッチを入れて、
何かをしている。
「あれはなんです?」
「ブレイキットだ。
あれから出る電磁波でワープゾーンを破壊するんだ」
帝呼がブレイキットの設定を済ませ、
ワープゾーンへ向ける。
するとワープゾーンは揺らめきながら消えていった。
それを見た狩は、
よくわからないポーズを取りながら叫んだ。
「これにてぇ、一件落着!」
「はいはい、お疲れさま」
帝呼は見向きもせず答えた。
これが2人の日常なのだろう。
こうして、風は初めてブレイカーとしての仕事を経験した。
本来なら緊張や恐怖が勝って、
落ち着いてはいられないはずだ。
だが風は、
仕事に参加できているという喜びが大きく、
興奮して落ち着いていられなかった。
「おし! 引き上げっぞ!」
こうして、風の初仕事(見学)は無事終わった。
――――――
その日の夜――
「もしもし、紡時さん。今日はどうでしたか?」
「すごく楽しかった!
明日からは俺も戦闘に参加させてくれるって!」
「……まぁ、うちに入ってくるような依頼は、
それほど危険ではありませんから……
紡時さんにとっては物足りないかもしれませんね」
「そんなことないよ。
親方にはいろいろ教えてもらってさ!
帝呼ちゃんにもブレイキットのこと教えてもらえてさ、
すごく楽しかったよ」
笛は風と出会ってから、
こんなに生き生きと話をする彼を見たことがなかった。
少し恥ずかしい家族ではあるが、
風を元気付けているのなら――
一安心、
といったところだった。
「今度のオフの日、わたしもご一緒しますね」
笛にとっても、
なんだか嬉しい1日となった。
――――――
翌日から、風もブレイカーとして勤務するようになった。
基本的には小型のワープゾーンの依頼ばかりで、
戦闘という大袈裟な状況はない。
異星の動物や、
大きめの虫などの駆除が続いた。
笛のオフと風の勤務日がうまく噛み合わず、
なかなか一緒になれなかったが、
毎日電話で連絡を取り合っていた。
互いに励まし合い、
自分たちの明日に備える日が続いた。
風がタイガードロップ株式会社で勤務を始めて、
2週間が過ぎた頃。
予約ではなく、
緊急で入った、ある依頼――
それが、狩と帝呼を最悪の恐怖へ誘うものになることを、
この時の彼らはまだ知らなかった。




