16話 ようこそ虎落家へ
事務所のソファに、
タバコを咥えながら腰掛ける虎落の父親。
虎落 狩――
元大工の親方。
現・タイガードロップ株式会社・代表取締役社長、
兼、タイガードロップ・ブレイカー担当。
白髪混じりの短髪にハチマキ。
白のタンクトップにニッカポッカという、
いかにも大工らしい格好をしている。
その横で――
そんな父親を怒りの形相で、見下ろす笛が立っていた。
「パパ! ごめんなさいは?」
「なんで俺がよ……」
「初対面の人にノコギリ振り回すなんて警察案件だよ!
バッカじゃない!」
「冗談だって、そいつもわかってるよ!
なぁ、兄ちゃん?」
無茶苦茶なフリをされているが、
採用がかかっている風には頷くしかなかった。
「話のわかる兄ちゃんでよかったなぁ、笛ちゃん!」
「パパがね……」
「で、この優男を採用して現実を教え込めばいいんだろ?」
「その言い方……」
「笛ちゃんは今から仕事かよ?」
「わたしは今日遅番だから今から仕事。
2人に同行できないわ」
風には2人の会話内容がよくわからなかった。
ただ、“採用”という言葉だけは聞き逃さなかった。
「よし、兄ちゃん!
さっそく仕事に行くぜ。
俺がブレイカーのなんたるかを、
手取り足取り、腰取り教えてやんぜ!」
「えっ……?」
「えっ? じゃねーよ。
イエッサー、親方! だろうがそこはよぉ」
「俺、採用してもらえるんですか!?」
「笛ちゃんの頼みだもんよ……仕方ねーだろ」
何年ぶりだろうか。
忘れるほどの年月――
風は、心の底から叫びたくなるほどの喜びに震えた。
「ありがとうございます!」
思ったより大きな声が出た。
「ビックリさせるんじゃねーよ、兄ちゃん!」
「虎落さん、ありがとう!」
うっすら涙を浮かべながら、
喜びのあまり、風が虎落を抱きしめた。
「はうっ」
硬直して無抵抗になる虎落――
「テメェー!
俺の笛ちゃんに何してくれてんだコラァー!
クビだクビーッ!」
そのときだった――
「何騒いでんのよ、うるさいわねぇ」
1人の女性が事務所に入ってきた。
「帝呼!」
「どうせまた、パパがダル絡みしてるんでしょ……」
「お前までなんてことをいうんだタイコリン!
こいつが笛ちゃんを抱きしめたんだぞ」
白い髪にポニーテールがよく似合う美人。
可愛らしい顔をしているが、気は強そうだ。
――笛の姉だろうか?
「今日、笛ちゃんが男連れて来るって言ってたのが彼?」
「そうだ!
とんでもねぇ変態だぜ!」
挨拶もそこそこに、
帝呼は風を舐めるように見てくる。
「なんか頼りなさそうね、君」
挨拶代わりの先制パンチ――
この家族、まともなのは笛だけのようだ。
「笛ちゃんが男連れて来るなんて珍しいから楽しみにしてたんだけど、
やっぱりねーって感じ……」
「帝呼! あなた、失礼よ!」
「ごめんごめん。
今日は彼のこと、ちゃーんとフォローしてあげるから怒らないの」
「……もう!」
帝呼は笛を揶揄うように、
頭をポンポンと叩いてから風の前に立った。
「はじめまして。
笛の妹の帝呼です。よろしくね!」
「俺は……紡時風です。
こちらこそ――
……えっ? 妹さん!」
虎落帝呼――
虎落家・次女。
タイガードロップ株式会社・取締役、
兼、ブレイカー。
兼、地下アイドル。
笛と違い、
色気のある容姿に加え身長も163㎝あるため、
よく姉に間違えられる。
「わたしの方が姉に思われがちだけど妹よ。
わたしの方が可愛いからって、目移りしないでよね。
笛ちゃんが妬いちゃうから……」
「もお! いい加減にしなさい!」
風は少しだけ、
とんでもないところに来てしまったのではないかと不安になった。
「おぉ!
そろそろ現場に行くぜ。
笛ちゃんに対する行為は許せねぇが、
仕事に遅れる奴はもっと許されねぇ!」
「ちょっと待ってね。
すぐに着替えてくるわ」
帝呼が事務所の奥へ着替えに行った。
防星官には任務用の専用コスチュームがあるが、
ブレイカーは好きな格好が許される。
企業によっては、
コスチュームの格好良さや可愛らしさで
入社希望者を増やしているところもある。
「それじゃ、わたし仕事行くから」
「おう! 気をつけてな、笛ちゃん!」
笛が風を見た。
「紡時さん、ごめんなさい……
こんなところを紹介しちゃって……」
「何を言ってるの……
本当にありがとう、クビにならないように頑張るよ」
「1ヶ月間はアルバイト採用だけど、
続けられそうなら来月から正社員雇用にするみたい。
お給料面に関しては、後でメールで送るので見ておいてください」
「何から何まで……
虎落さんには感謝しかないよ」
「……いえ、感謝だなんて。
こんな家族ですから、
従業員がみんな辞めていくんです。
紡時さんも結局……」
「俺……絶対に頑張るから!」
「……」
笛の目には、風の姿が頼もしく見えた。
彼なら大丈夫だと、
笛は知っている。
なぜなら、
風の強さを1番知っているから――
今から風は、
人生初のブレイカーとしての仕事をする。
その最初の仕事は、
虎落親子の仕事見学からだった。
――――――
大型のバンで移動。
後部座席には、
大工時代の道具や工具が大量に積まれている。
そのせいで、
運転席のベンチシートに3人横並びで座らなければならなかった。
真ん中に――風が座らされていた。
当然だが、かなり狭い。
「ちょっと紡時くん、
わたしの方に寄りすぎじゃない?」
「おいこら!
笛ちゃんだけじゃなくタイコリンにまで手を出すのか!
許さん!」
――風にとって、
この車での移動時間が1番疲れたらしい。




