15話 タイガードロップ株式会社
風は、勤務後の虎落に時間をもらい、
駅前のカフェで相談に乗ってもらっていた。
「そうですね……
すべては能力者認定カードを持っている前提での話ですから……」
「俺……このままじゃ働くところがないんだ。
工事現場に戻ってもいいんだけど、こんな力があるのにもったいなくて……」
「防星省・第6支部は、
その能力者認定カードがなくても採用すると言っているんですよ。
それでも我々のところはダメなのですか?」
「いやっ、本当に嬉しいんだよ……。
でも、防星省内で俺が優遇されているとか知られたら、
周りに嫌われる大きな原因になると思うんだ」
「そんなことを言っていると、
採用してくれるところが無くなって、
今までと変わらない生活に戻ってしまうのではないですか?」
「……それだけは嫌だ。
新しい自分として頑張っていきたいんだよ」
「……」
とはいえ、能力者認定カードがないのだから話が進まない。
風の未来は、完全に暗礁に乗り上げてしまった。
「何かいい案ないかな?
俺、虎落さんしかこういうこと聞ける人いなくて……」
「わっ、わたしは紡時さんを勧誘してる側の人間ですよ。
それなのに、他の職場の斡旋をして欲しいだなんて……」
「斡旋じゃないよ……。
民間企業で採用してもらえる方法を聞いてるだけだよ」
「同じです!」
風が防星省に入れば、
大きく反発する者が現れるのは確かだろう。
衝突を避けて、民間企業に行こうとする気持ちもわかる。
そして、虎落も見ていた風の母親の怒り。
あの剣幕では、防星省の職員として働くことの許可は
下りないのだろうと思った。
「……裏稼業みたいな感じでやっていく案もあるんだけど」
「なにを馬鹿なことを……」
「でも、ツテもノウハウもないから、
何をどうしていいのかすらわからないんだよ……」
「そのために、1年以上の民間ブレイカー勤務と、
侵略者処理案件50回以上が義務付けられているんです。
簡単になれる職業じゃありませんよ……」
「裏稼業にするためのノウハウとか知らない?」
「知らないし、知っていても教えません!」
戦いになるとあれほど強い紡時――
そんな彼の困り果てている姿を見ていると、
放ってはおけなかった。
「……小さな会社ですが、
ブレイカーをしているところで、顔の利くところが1つあります。
話をしてみましょうか?」
「ほっ、本当に!」
「あまり期待しないでくださいね……
断られる可能性もありますから」
「いやぁ……本当に神様、仏様、虎落様だよ」
「……はぁ、わたしは一体何をしているのでしょう?」
こうして虎落は、
風の就職できる企業を紹介することになった。
――3日後、
その会社から、まずは面接をさせて欲しいと連絡があった。
――――――
今日の面接は、
日雇いバイトの面接ではない。
民間の能力者が働く、ブレイカーの面接だ。
今後の運命を決める面接になる――
それを、今から受けに行く。
雑居ビルの3階。
風は、すでに会社の事務所前に立っていた。
横には紹介者の虎落がいる。
「あの……もう少し、肩の力を抜いてください」
「口から心臓が出そうだ……」
「紹介しておいてなんですけど、
そんなにいい会社じゃないですよ」
「いや、面接してくれるだけでも感謝しかない」
一応、ブレイカー会社10社ほどの応募フォームに登録はしたが、
どこからも返事はなかった。
世間を賑わせている人物であることはバレている。
こんなのを採用して、変に目立ちたくないだろう。
それでもって、能力がない――
つまり、企業側には採用するメリットが何もないということだ。
それなのに、この会社は面接をしてくれる。
風にとっては、それだけでもありがたかった。
「とりあえず入りましょう……」
「待って、心の準備が!」
事務所の扉を開けて、
狼狽える風を、虎落が押し込むように入れた。
「紡時さんを連れてきたよ!
面接してくれるんでしょ!」
誰からの反応もない。
沈黙が落ちる――
すると虎落は、事務所の中を堂々と進んでいった。
「おっ、おい!
勝手に中に入っちゃダメだろ――」
虎落を引き戻そうとした風の首元に、
突然――
ノコギリが振り下ろされた。
「ヒィ!」
驚いた風は叫んだ。
ノコギリは首元で寸止めされている。
中年の男性が、鬼の形相で風を睨みつけていた。
「なぜ避けなかった?」
「……へっ?」
「こんなところで襲われるわけがない、と思っていたからか?
それとも――
俺に殺気がないことに気付いていたからか――?
どっちだ、答えろ!?」
風は思考も身体も固まった。
――答えは両方だからだ。
それより――なんだこの危ないおっさんは?
と、思った。
「ベーダーを倒した男と聞いていたが――
所詮こんなものか」
悪態を吐きながら、そのガテン系の男はノコギリを引いた。
次の瞬間だ――
――ポンッ!
軽い音を鳴らし、
虎落がお盆で男の頭を叩いた。
「初対面の人に、なんてことするの!
――パパッ!」
「……パパ?」
パパと呼ばれた男は、頭をさすりながら虎落の方を向いた。
そして第一声――
「パパになんてことするんだ!
――笛ちゃん!」
そのパパは、虎落を笛ちゃんと呼んだ――
つまり――2人は……親子?
――今更ながら、風は気付いた。
紹介された会社名・タイガードロップ株式会社。
タイガー=虎
ドロップ=落ちる
虎、落ちる――虎落……。
「パパがそんなだから、社員の人みんな辞めるのよ!」
「違うぞ笛ちゃん、パパは悪くない。
みんなの根性がなかっただけだ!」
風は虎落の言葉を思い返す。
「……小さな会社ですが、
ブレイカーをしているところで、一つ顔の利くところがあります。
話をしてみましょうか?」
「紹介しておいてなんですけど、
そんなにいい会社じゃないですよ」
どうやら虎落は、
行き場のない風へ――
自分の実家を紹介したらしい。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
風の就職活動が、いよいよ本格化します。
そして――
タイガードロップ株式会社編、突入です!
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