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検査結果は能力なし 〜能力なしで死んだ俺は、なぜか今日も死なせてもらえない〜  作者: 鬼喜怪快
本編

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13話 遠くなる背中

13話 遠くなる背中



「あの……わたしは分析が得意であって、

 感知は専門外なんですけど……」


 

 夜のビルの屋上で、

 紡時風と虎落笛は、街を見下ろしていた。


 

「その目に映るもので、違和感を感じたら教えて欲しいんだ」


「……」


「俺、1人じゃ探せないし……

 どこにワープゾーンがあるだとか知識もないんだ」


 

 虎落は渋々タブレットを取り出した。


 

「部外者には見せてはいけないのですが……」


「それは何?」


「確認されているワープゾーンの位置を記したアプリです」


「確認しているのに壊さないの?」


 

 見かけたワープゾーンは基本的には破壊。

 重要なものは国管理となり、すでに保護対象になっている。

 それなのにアプリを見る限り、ワープゾーンはたくさんある。


 

「そう簡単な話でもないんですよ」


「?」


「何者かが、そのワープゾーンを使って地球に来たとします。

 すると、そのワープゾーンは“生きている”ことになるので、

 破壊が可能になるんです」


「……生きてたら破壊が可能?

 死んでたら――破壊してはダメ?」


「はい。

 これが難しいところなんです。

 ゴールのないワープゾーンは、出入り口が地球側にのみあることになります。

 もし考えもなしに破壊すると、抜け道のないエネルギーが地球側に向いて、

 大爆発を起こすのです」

 

「……」


 

 虎落の説明に、

 風は言葉を失った。


 初めて知る、この世界の現実に驚いた。


 

「ところでわたしが異変に気付いたとして、

 その場所までどうやっていくのです?

 他のブレイカーに先を越される可能性だってありますよ」


「……そう簡単に先を越されたりしないでしょ。

 みんな、俺たちみたいに探したりしてないだろうし」


「ブレイカーのみんなは必死に感知してますよ。

 していないのは防星官くらいです。

 我々は、ブレイカーさんが対処できない案件や、

 一般市民からの緊急要請に動きます。

 自分たちから、侵略者を探しに行ったりは基本的にしませんから」


 

 いろいろと棲み分けがあるようだ。

 彼女との会話は、風にとって本当に勉強になるものだった。


 

「この近隣だけに絞って探しても、

 見つからないと思いますよ……。

 ブレイカー間では、仕事は早い者勝ちというルールがありますし……」


「……飛んでいけばいいかなって」


「……飛んでいく?」


「!」


 

 次の瞬間――

 虎落の目が、何かを感じた。


 

「北北西に違和感を感じます!」


「?」


「現場までの距離や、敵のスペックなどは

 わかりませんが……」


「でも……いるんだね?」


「……おそらく」


 

 はっきりとした場所はわからない。

 だが、明確に“何かがいる”と感じた。


 

「俺についてきてくれる?」


 

 男性からの、愛の告白――

 虎落は頭の中が真っ白になった。


 

「抱きしめても問題ない?」


「あっ、あぁ……急にそんなこと言われても……

 順序があって……場所もこんな……」


 

 紡時は虎落を抱き抱えた。


 

「それじゃ、いくよ!」


「……はい?」


 

 虎落は緊張のあまり声も出せず、

 黙ったまま風の顔を見上げていた。


 

 ――ビュンッ!


 

 虎落は、空を飛んでいることに気付く。

 正確に言えば、ビルの屋上から目的地へ向かって跳躍をしていた。


 

「ヒイイイィィーッ!

 星が……星が近いぃぃー!」


「あまり喋らないで、舌を噛むよ!」


 

 5回……いや、6回ほど跳躍しただろうか……


 

 ビルから離れて数分後には――目的地に着いていた。


 

 ――――――


 

 都市から離れた田舎町。


 

 山間にあるその集落は、都会の22時とは程遠く――

 外を歩く者の姿など、すでに見られなかった。


 その静寂の地は――

 さらなる静寂へと誘われることになる。


 集落近くにある山手でワープゾーンが浮かび上がり、

 2体の異星人が、地球への侵入を果たしていた。

 

 

 ペルン星人――

 地球人より一回り大きな身体を持ち、その凶暴性のため

 地球との交信はない。


 見た目が鬼のような形相をしているその侵略者は、

 人間の母娘を目の前に座らせて、ワープゾーン前に腰掛けていた。


 親子は絶望の中にいるのだろう、

 叫ぶこともなく俯いていた。

 その傍には家族だろうか――男性の遺体が転がっている。


 

「もう少し若い個体を持ってこい……

 さっき持って来た者は繁殖機能の無い

 年老いた個体だった」


「異星人の差などわかるかよ……

 男と女の違い、歳の差……俺にわかるわけがない」


「必要なのは生物を生み出せる女の方だ。

 男の方がついて来たら殺せばいい」


「女というのは他星で高値で売れるのだろ……

 それくらいは心得ている」


「地球人との間に生まれた生命体の多くが、

 特殊能力を持つらしい――人気がある理由はそこだ」


 

 鬼のような顔をした侵入者は、

 腕に巻きつけた機械の画面を確認する。


 

「急げ。

 この星の戦闘員に気付かれれば厄介だ。

 今後の活動に関わる」


「――わかっている。すぐに戻る」


 

 ペルン星人が引き返すため、

 もう一度集落に足を向けた。


 ――その時。


 

 ガサガサガサ――ズザンッ!


 木々の枝を折って、空から風と虎落が落ちてきた。


 

「いっ……たたたーっ!」


「ごめん……着地の仕方考えてなくて」


「い……いいえ。

 しかし、あっという間の到着でしたね。

 跳躍だけで移動だなんて凄すぎます」


「斥力を応用して自分を弾いて飛んでみたんだ」


「――よく思いつきましたね……そんなこと」


「なんかさ……心の中で、できる!

 って、囁かれたんだよね」


「……囁かれる?」

 


 2人は夜の山に違和感を感じ取り、ここまで来た。

 その先には、感じた通り侵略者の姿があった。


 そして人間の親子と――男性の遺体。



「虎落さんの言った通り……いたね」


「……わたし、感知できましたね。驚きです」

 

「で、――人が殺されている?」

 

「あれはペルン星人!」


 

 風は侵略者に警戒しながら、虎落に質問を続けた。


 

「ペルン星人といえば、人攫いで有名な?」


「そうです。

 地球人をさらって、能力持ちの子孫繁栄を目論んでいる連中です。

 ヴィジョン星人との間でしか能力持ちは生まれないと、

 正式な発表があったのですが――このような連中が後を絶ちません」


「あいつらの力はどんなものなの?」


「インパクト値が2tない程度です……。

 紡時さんの今のインパクト値は55kgほどなので、

 正面からぶつかれば、確実に殺されます」


「……でもあいつら最初のクマより弱いってことだよね」


「そうです。

 戦闘時に見せる、あなたの力には遠く及びません」

 

 

 ペルン星人が銃のようなものを構えた。


 

「女は持って帰る。

 男は不要だ、殺せ――」


 ――ビンッ!


 

 発光とともに光線が走り、風の胸に当たった。


 

「痛っ……!」


 

 風は撃たれた部分をさすった。


 ただ――

 それだけだった。


 

「間違いなく当たったはずだ……

 出力を間違えたか?」


 

 ペルン星人が首を傾げた。


 

「痛ったぁ! 何だよ今のは?」


「光線銃です。6tほどのインパクト値があります。

 当たったのがわたしなら即死でした……」


「ってことは、やっぱり……

 俺は普通じゃないんだな……」


 

 風は呆然としている母娘と、

 横たわる父親らしき男性の遺体に目をやった。


 胸が痛んだ。

 

 光線銃の痛みではない――胸の痛み。


 

「今、自分の中で疑惑が確信に変わったよ」


「……どのような?」


「……俺は――普通じゃない」


 

 そして一拍置いて続けた。


 

「たぶん……俺は、

 みんなに受け入れられない存在だと思う」


 

 虎落の背筋に、微かな寒気が走った。


 2体のペルン星人は、再び風に銃口を向ける。


 

 次の瞬間――


 

 突撃した風の攻撃により、

 ペルン星人は声も発せぬまま地面に伏していた。


「インパクト値、約8t……」


「これでも、かなり力抑えたんだけど……」


 倒れた異星人を見下ろしながら、

 風は自分の手をゆっくりと握った。


 

「……俺、強いな」


 

 どこか他人事のように呟いた。


 その言葉に――

 虎落は、なぜか返事ができなかった。


 目の前にいるはずなのに、

 風が少しだけ遠くに見えた。






 

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