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ひびの向こう

空が、割れていた。

青の奥に、黒い亀裂。

まるでガラスみたいに、世界そのものに走った傷。

その向こうに——

“何か”がいる。

見てはいけない、と本能が叫ぶ。

なのに、目が離れない。

「……あれが、“本体”に近い」

魔女の声が、やけに遠く聞こえた。

「近いって……」

喉が乾く。

「あれが、全部の“穴”の——」

言いかけて、魔女が口を閉じる。

その瞬間。

ひびの奥の“それ”が、こちらを見た。

ドクン。

心臓が、強く跳ねる。

「……っ」

視界が揺れる。

まただ。

“つながる”感覚。

頭の奥に、直接何かが流れ込んでくる。

——たりない

——まだ、たりない

——うめろ

意味が、わかってしまう。

「……埋めろって……何をだよ……」

答えは返ってこない。

でも。

視線が、僕に固定されている。

「目を逸らして!」

魔女の声。

でも、遅い。

“それ”が、動いた。

ひびの奥から、細い“何か”が伸びてくる。

腕みたいな形。

でも、関節が多すぎる。

ありえない方向に折れ曲がりながら、

ゆっくりとこちらへ——

「下がって!」

魔女が前に出る。

その足元から、あの影が広がる。

黒い、濃い影。

地面を這うように伸びていく。

「来ないで」

低い声。

でも、強い。

影が、“腕”に触れる。

その瞬間。

ギリ、と音がした。

空気が軋む。

“腕”が、わずかに止まる。

「……効いてる」

魔女が小さく呟く。

でも。

次の瞬間。

“腕”が、さらに伸びた。

影を押し返すように。

「……っ、ダメか」

魔女の表情が歪む。

「格が違う……!」

「……っ!」

そのとき。

僕の影が、勝手に動いた。

足元から、ゆっくりと広がる。

さっきと同じ。

いや、もっと強い。

「……やめろ……!」

止めようとする。

でも、止まらない。

影は、一直線に“腕”へ向かう。

「それ……!」

魔女が何か言いかける。

でも——

もう遅い。

影が、“腕”に触れた。

その瞬間。

音が消えた。

色も、空気も、全部。

ただ一つ。

“それ”と、自分だけが存在している。

目の前に、“本体の一部”がある。

さっきの“穴”とは比べものにならない。

圧倒的な空虚。

でも、その奥に——

何かがある。

「……お前……」

声が出る。

不思議と、恐怖はなかった。

代わりにあるのは——

妙な“懐かしさ”。

「……なんでだよ」

わからない。

でも。

知ってる気がする。

すると。

“それ”が、ゆっくりと動いた。

直接、頭に響く。

——みつけた

「……っ!?」

その言葉に、体が強く反応する。

見つけた?

何を?

次の瞬間。

頭の中に、映像が流れ込む。

暗い場所。

何もない空間。

無数の“穴”。

そこに——

何かを“埋めている存在”。

黒い影のようなもの。

形は定まらない。

でも、確実に“意思”がある。

それが、一つ一つ、穴に触れて——

消している。

「……これ……」

息が荒くなる。

「俺……?」

——ちがう

即座に否定される。

でも。

——にている

その言葉が、深く刺さる。

「……俺は、何なんだよ」

問いかける。

今度は、逃げない。

すると。

ほんの一瞬。

“それ”の奥に——

人の顔のようなものが見えた。

——うめるもの

その言葉と同時に。

世界が、戻る。

「——っ!!」

膝をつく。

息が荒い。

頭が痛い。

でも——

目の前の“腕”が、崩れている。

さっきより、明らかに弱っている。

「……嘘でしょ」

魔女の声。

驚きが隠せてない。

「今の……対話した?」

「……わかんない……」

本当に、わからない。

でも。

「……触れたら、壊れる」

それだけは、確信できる。

空のひびが、ゆっくりと閉じ始める。

“それ”が、引いていく。

最後に。

もう一度だけ——

こちらを見た。

——またくる

その気配だけを残して。

ひびは、完全に消えた。

静寂。

何もなかったみたいに、空は青い。

「……ねえ」

魔女が、ゆっくりと近づいてくる。

その目は、完全に変わっていた。

「君さ」

少しだけ震える声で。

「やっぱり、“穴埋め”じゃない」

「……は?」

「もっと上」

意味がわからない。

でも、次の言葉で——

背筋が凍った。

「“向こう側が探してる存在”だよ」

足元の影が、静かに揺れる。

まるで——

呼ばれているみたいに。

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