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触れてはいけないもの

——“穴”」

その言葉と同時に、世界が歪んだ。

目の前の“それ”は、形を持たない。

でも、確かにそこに“ある”。

見た瞬間、理解してしまう。

あれは、存在してはいけないものだ。

「逃げて!」

魔女の声。

でも、足が動かない。

視線が、外せない。

「……っ」

頭の中で、何かが軋む。

見てるだけなのに、

何かを“削られてる”感覚。

「ダメ!」

魔女が腕を引く。

でも、その瞬間。

“穴”が——

こっちを見た。

「……あ」

声が漏れる。

見られた。

いや。

“つながった”

そんな感覚。

次の瞬間。

世界の音が消えた。

色も、消えた。

あるのは——

真っ黒な空間だけ。

「……ここ、どこだよ」

声が響かない。

自分の体すら、はっきりしない。

でも、“何か”はいる。

目の前。

さっきの“穴”。

今は、少しだけ形がある。

人の輪郭に近い。

でも、中身がない。

空っぽ。

「……お前、何だよ」

問いかける。

返事はない。

代わりに。

頭の中に、直接“音”が流れ込んできた。

——かえせ

「……っ!?」

意味がわからない。

でも、言葉だけは理解できる。

——かえせ

——かえせ

——かえせ

繰り返される。

「何をだよ……!」

叫ぶ。

すると。

“穴”が、ゆっくりと手を上げた。

その動きに合わせて——

僕の頭の中に、映像が流れ込む。

知らない景色。

知らない人。

笑っている。

泣いている。

怒っている。

たくさんの感情。

たくさんの記憶。

それが、一瞬で——

消えていく。

「……っ、やめろ……!」

頭を押さえる。

痛い。

痛い痛い痛い。

「それ、俺のじゃないだろ……!」

でも、わかる。

これは——

削られた人たちの残りカスだ。

“穴”の中に溜まってる。

「かえせって……」

息が荒くなる。

「これ、全部……?」

“穴”は、何も言わない。

ただ、こちらを見ている。

空っぽのまま。

そのとき。

ふと、気づく。

自分の足元。

影。

そこにあるはずの影が——

「……動いてる」

僕が動いてないのに、

影だけがゆっくりと広がっていく。

まるで、意思を持っているみたいに。

「……なんだよ、これ……」

影が、“穴”の方へ伸びる。

止めようとする。

でも、止まらない。

「やめろ……!」

声が震える。

でも——

影は、“穴”に触れた。

その瞬間。

「——っ!!」

世界が、弾けた。

現実に戻る。

路地。

魔女。

息が荒い。

でも。

目の前の“穴”が——

崩れている。

「……は?」

信じられない。

さっきまで圧倒的だった存在が、

ノイズみたいに揺れている。

「……今、何したの」

魔女の声。

初めて、明確に驚いている。

「……知らない……」

本当にわからない。

ただ——

「触れたら、壊れた」

そうとしか言えない。

“穴”が、こちらを見ている。

さっきとは違う。

明らかに、警戒している。

「……ありえない」

魔女が小さく呟く。

「普通は逆なのに」

「逆って……」

「触れたら、削られる側」

でも。

今回は違った。

“穴”が、ゆっくりと後退する。

逃げるように。

そして——

そのまま、消えた。

静寂。

風の音が戻る。

遠くで、人の声。

何もなかったみたいに。

「……ねえ」

魔女が、ゆっくりとこっちを見る。

その目は、さっきまでと違う。

「君さ」

少しだけ、間を置いて。

「本当に“人間”? 」

心臓が止まりそうになる。

「……は?」

「いや、冗談じゃなくて」

真剣な声。

「今の、完全に“向こう側”の動きだったよ」

「……」

言葉が出ない。

「しかも」

僕の影を見る。

「削るんじゃなくて、“壊した”」

背筋が冷える。

「……どういうことだよ」

やっと絞り出す。

魔女は少し考えてから、言った。

「簡単に言うと」

静かに。

でも、はっきりと。

「君、“穴”に対抗できる側」

「……」

「いや、もしかしたら——」

少しだけ、声が低くなる。

「同じ側」

その言葉の意味を考える前に。

足元の影が、ゆっくりと揺れた。

まるで——

喜んでいるみたいに。

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