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気づかれた側

「——走って」

その一言で、体が勝手に動いた。

振り返らない。

振り返ったら終わる気がした。

でも。

気配が多すぎる。

足音はしない。

なのに、すぐ後ろに“何人もいる”。

「こっち!」

魔女の声。

細い路地に飛び込む。

壁が近い。

息が詰まる。

「……っ!」

走る。

曲がる。

また曲がる。

でも。

「……追ってきてる」

振り向かなくてもわかる。

距離が縮まってる。

しかも——

バラバラじゃない。

同じタイミングで動いてる。

「……なんだよ、これ……!」

「群れ」

魔女が短く言う。

「一体化してる」

意味がわからない。

でも、理解したくもない。

「止まって」

突然、魔女が言った。

「は!?」

「いいから!」

強引に腕を引かれる。

そのまま、狭い建物の影に押し込まれる。

壁と壁の間。

人一人分の隙間。

「ここで」

「いや、無理だろ——」

「静かに」

口を塞がれる。

そのまま、息を殺す。

——来る。

空気が変わる。

さっきまでの街の気配じゃない。

重い。

冷たい。

「……」

路地の入口。

人影が一つ、現れる。

顔は見えない。

でも、わかる。

“さっきの人たち”だ。

一人じゃない。

その後ろにも、また一人。

さらに、その奥にも。

「……っ」

声を出しそうになるのを、必死でこらえる。

彼らは、止まる。

そして。

同時に、首をこちらに向けた。

見えてないはずなのに。

「……」

沈黙。

時間が止まったみたいに長い。

心臓の音がうるさい。

聞こえるんじゃないかってくらい。

そのとき。

「……いない」

一人が、そう言った。

声は普通。

でも、どこか空っぽ。

「ズレてるだけ」

別の誰かが言う。

「すぐ戻る」

その言葉に、背筋が凍る。

戻る?

何が?

「じゃあ、先に処理する?」

別の声。

「いいね」

全員が、同じタイミングで頷く。

そして——

一斉に、別の方向へ歩き出した。

「……っは……」

やっと息ができた。

膝が震える。

「……今の、なんなんだよ」

声がかすれる。

魔女はすぐには答えなかった。

外の気配が完全に消えるまで、じっとしていた。

「……まだ」

小さくつぶやく。

「完全にはバレてない」

「完全って……」

「さっきの、“気づかれた”ってやつ」

魔女が壁にもたれながら言う。

「君、見すぎた」

「……」

否定できない。

影が消えた瞬間、

確実に“何か”が変わった。

「見られるとね」

魔女が続ける。

「向こうも気づく」

「……は?」

「君が“認識した”ってことは」

目を細める。

「向こうからも“認識される”ってこと」

言葉が、重い。

「だから追ってきた」

「……」

頭が追いつかない。

でも、感覚的にわかる。

やばいルールだ。

「……じゃあ、もう終わりじゃん」

ぽつりと言う。

「見たらバレる。見なかったら意味ない」

「うん」

魔女はあっさり頷いた。

「詰んでるね」

「……おい」

思わず睨む。

「冗談」

少しだけ笑う。

でも、その目は真剣だった。

「だからさっき言ったでしょ」

一歩、近づく。

「“壊す側”になるかって」

「……それ、どういう意味だよ」

魔女は少しだけ考えてから、言った。

「簡単に言うと」

僕の影を指差す。

「それ、使うの」

「……は?」

影を見る。

普通に見える。

でも、さっき——

あいつの影は、動いた。

「君のそれ、普通じゃない」

魔女の声が、少し低くなる。

「“向こう側”に近い」

「……そんなの、どうやって」

「知らない」

即答だった。

「でも」

少しだけ間を置く。

「さっき、逃げるとき」

僕を見る。

まっすぐに。

「一瞬だけ、ズレたでしょ」

「……え」

思い出す。

走ってるとき。

距離が、おかしかった。

近づきすぎたり、遠すぎたり。

「気づいてないだけで」

魔女が続ける。

「もう始まってるよ」

背中に冷たいものが流れる。

そのとき。

「……あれ」

魔女が小さく呟いた。

「どうした」

「静かすぎる」

言われて、気づく。

さっきまであった街の音が——

ない。

人の声も。

風の音も。

何も。

「……まずいね」

魔女の顔が、初めてはっきりと緊張する。

「今度は何だよ」

ゆっくりと、魔女が前を見る。

その視線の先。

路地の出口。

そこに——

誰もいないはずなのに、“何か”が立っていた。

形が、定まらない。

人に見える瞬間もあれば、影にしか見えない瞬間もある。

「……あれは」

魔女が、小さくつぶやく。

「来るの、早すぎるでしょ」

「何なんだよ、あれ……」

喉が乾く。

魔女は、ほんの一瞬だけ迷ってから言った。

「——“穴”」

その瞬間。

それが、動いた。

「逃げて」

魔女の声。

でも今度は——

間に合わない距離だった。

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