それでも残るもの
光が、弾ける。
気づくと——
地面に倒れていた。
「……っ」
ゆっくり起き上がる。
空は、普通だった。
ひびもない。
黒いものもない。
「……終わった?」
周りを見る。
町。
人。
全部、ある。
「……あれ?」
違和感。
パン屋。
店主がいる。
顔が——
ちゃんと見える。
「……戻ってる」
思わずつぶやく。
人々の声。
笑い声。
全部、“普通”だ。
「……成功、したのか」
でも。
「……あれ」
足元を見る。
影。
「……動かない」
普通の影だ。
「あれ……」
あの力がない。
「……」
理解する。
「……消えたのか」
そのとき。
「そうだね」
後ろから、声。
振り向く。
魔女が、立っていた。
でも。
「……あんた」
少しだけ、透けている。
「やっぱり、こうなるか」
魔女は苦笑する。
「……どういうことだよ」
「バランス、取ったから」
「……」
「君が壊して」
「私が支えた」
少しだけ、空を見る。
「その分、こっちが削れた」
「……それって」
魔女は、優しく笑った。
「消えるってこと」
心臓が強く鳴る。
「……ふざけんなよ」
一歩、近づく。
「なんでだよ」
「必要だったから」
あまりにも静かな答え。
「この世界、穴がなくなったら」
少しだけ、間を置いて。
「もう、“削る必要”ないでしょ」
その言葉の意味が、ゆっくりと染みてくる。
「……じゃあ、あんたは」
「役目、終わり」
魔女は、少しだけ目を細める。
「悪くないでしょ」
風が吹く。
その体が、少しずつ消えていく。
「……待てよ」
手を伸ばす。
でも、届かない。
「……名前」
最後に、それだけ言う。
魔女は、少し驚いた顔をして——
「忘れちゃった」
そう言って、笑った。
そして——
消えた。
沈黙。
風の音。
空は、青い。
「……」
足元の影は、もう動かない。
でも。
「……まあ、いいか」
小さくつぶやく。
「これで、普通だ」
空を見る。
どこまでも、何もない空。
でも——
ほんの一瞬だけ。
何かが、こちらを見ている気がした。




