穴を終わらせるもの
世界が、止まった。
音も、風も、時間も。
すべてが凍りついたみたいに動かない。
その中心に——
僕と、“本体”。
「……ここは」
声が響く。
現実じゃない。
でも、さっきの黒い空間とも違う。
もっと深い。
目の前に、“それ”がある。
巨大な空虚。
無数の穴。
そして、その奥に——
形を持ち始めた“何か”。
——やめろ
初めて、明確な言葉。
「……やめない」
静かに返す。
「お前がやってること」
影を見る。
広がっている。
“本体”と繋がっている。
「ただ延命してるだけだろ」
沈黙。
——ちがう
「違わない」
はっきり言う。
「削って、埋めて、また削って」
「それで保ってるだけだ」
“それ”が、揺れる。
——それが、せかいだ
「……だったら」
一歩、前に出る。
「終わらせる」
その瞬間。
影が、強く脈打つ。
「……っ!」
頭に、また映像が流れ込む。
無数の“穴”。
それを埋める存在。
繰り返し。
終わらない循環。
「……これが、お前か」
理解する。
「“維持装置”みたいなもんだな」
沈黙。
「でもさ」
拳を握る。
「壊れかけてるなら、意味ないだろ」
影が、さらに深く食い込む。
——やめろ
声が強くなる。
「……やめない」
そのとき。
「それでいい」
横から、声。
魔女だった。
「……あんた」
振り向く。
そこにいる。
でも——
少しだけ、輪郭が薄い。
「最後までやりな」
静かな声。
「私は、ここで支える」
「……支えるって」
魔女は、少しだけ笑った。
「削り残しにも、できることはある」
その瞬間。
魔女の影が、大きく広がる。
僕の影と重なる。
「……っ!」
力が、増える。
「行け」
短い言葉。
うなずく。
「終わらせる」
影が、“本体”全体に広がる。
「これで——」
——やめろ
「終わりだ」
その瞬間。
全部が、崩れた。




