選ぶ側
「……守る」
気づいたら、そう言っていた。
自分でも驚くくらい、迷いはなかった。
「……ここで終わるのは、違う」
拳を握る。
震えてる。
でも、止めない。
「全部壊れるかもしれないって言われても」
空を見る。
ひびは、もう広がりきっていた。
その奥に、“何か”がいる。
「それでも」
一歩、前に出る。
「勝手に決められるのは、ムカつく」
魔女は、何も言わなかった。
ただ、少しだけ目を細める。
「……そっか」
小さくつぶやく。
その声は、どこか安心したみたいだった。
「じゃあ」
ゆっくりと、前に出る。
僕の隣に並ぶ。
「最後まで付き合うよ」
「……いいのかよ」
思わず聞く。
「止める側だったんだろ」
魔女は、少しだけ笑った。
「今回は違う」
空を見る。
「間違えるなら、自分で選ぶ」
その瞬間。
空が、完全に割れた。
黒い裂け目。
そこから、“本体”の一部が現れる。
前より、はっきりしている。
形がある。
でも、安定していない。
無数の腕。
無数の目。
そして——
無数の“穴”。
「……っ」
息が止まる。
見た瞬間、理解してしまう。
あれは、この世界そのものだ。
——うめろ
頭の中に、声が響く。
前よりも、はっきりと。
「……やるしかない」
魔女の声。
足元の影が広がる。
さっきよりも、深く、濃く。
「君は、“触れろ”」
「……」
「私は、“抑える”」
短い作戦。
でも、それしかない。
「……わかった」
息を整える。
怖い。
でも。
足は、前に出る。
“本体”の腕が、伸びてくる。
さっきよりも速い。
重い。
空気が潰れる。
「っ!!」
魔女の影が、迎え撃つ。
黒い影が絡みつき、動きを止める。
「今!」
叫ぶ。
走る。
一直線に。
頭の中に、声が響く。
——おまえは、うめるもの
——もどれ
「……戻るかよ」
歯を食いしばる。
目の前に、“穴”がある。
本体の一部。
触れれば——
一瞬、迷う。
本当にいいのか。
壊したら、どうなる。
でも。
「……決めたんだよ」
手を伸ばす。
影が、それに重なる。
触れる。
その瞬間。
全部、見えた。
世界の構造。
削られた人間。
積み重なった“穴”。
それを、無理やり維持している仕組み。
そして——
崩れかけている現実。
「……っ」
息が詰まる。
無理だ。
こんなの、一人でどうにかできる規模じゃない。
でも。
「……だからって」
影が、強く広がる。
“穴”に食い込む。
「そのままにするかよ!」
バキン、と音がした。
“穴”が、崩れる。
一つ。
また一つ。
“本体”が、揺れる。
——やめろ
声が、初めて“焦り”を含む。
「……効いてる!」
魔女の声。
でも。
同時に。
足元の地面が、崩れ始める。
「……っ!?」
周りの建物が、歪む。
空間そのものが、揺れている。
「やりすぎ!」
魔女が叫ぶ。
「世界ごと崩れる!」
「……っ」
止める?
でも。
目の前には、まだ“穴”がある。
——うめろ
声が、さらに強くなる。
「……違うだろ」
小さくつぶやく。
「埋めるんじゃない」
影が、さらに広がる。
「終わらせるんだ」
その瞬間。
影が、“本体”全体に触れた。
世界が、止まる。




