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ポンコツ作家と有能編集、自世界を行く  作者: 鍵っ子
二章:ポンコツ、新天地に立つ
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相手との会話を想定しよう

――正直な、所を、話していいでしょうか? 良い? 分かりました。えぇ。私もあの時の悪夢は、話したかった所ですし……前提として、編集さんは全力で、俺と正面から向き合ってくださいました。その上で、あの環境は酷と言わざるを得ませんでした。


『良いですか。繰り返すようではありますが、此方の後ろめたい所を嗅ぎ付けられたらおしまいです。固める必要があります。客観的に見れば、どう足掻いても我々に疑いの目を向けるのはおかしいと言う事実を積み重ねる』

『それは……疑ってますよ、って言われたら?』

『その通り。向こうが此方の話を聞きたいだけ、というなら、あの状況なら不自然ではない、と思われる証言だけで良い。むしろ、下手な事を言えば打撃を受けるのは此方です』


 そう言って始まったのは……先ずは、クイズでした。どういう発言が、客観的な意見ではないのか、客観的な意見なのか。どういう問われ方の時に、その客観的な意見ですら出さず、あくまで何も知らない一般人で押し通せるか。


『では、第一問から行きます。しっかりついて来てくださいね?』

『任せろ! 今の俺なら何とかなる気がする。多分だけども』


 とか、調子乗って言ったのが……間違いだったと気が付いたのは、最初の問題を間違えた瞬間の秒速ビンタがあんまりにもあんまりだった時です……思わず、しゅごい……って言っちゃって。えっ、コレが何回も続くのって思いましたよね。えぇ。


『……あの、あのですね』

『痛いですか? 痛みで反射神経に叩き込みなさい。その痛みを。そしてその痛みで覚えなさい何をしてはいけないのかを。骨の髄まで』

『ぱ、パブロフの犬……!?』


 その後も、指導は続きました。永遠に。そもそも、何処からそんな質問のレパートリーが出てくるんだろうと、疑問には思いました。でも途中からそんな事を考える暇は無くなりましたね。


『どうしました? 後二問ですよ? 二問連続正解すれば終わりですよ?』

『はー……ッ! はー……っ!』

『怯えてはいけません。クレバーに、クレバーに……大丈夫ですよ』

『お、怯えるでしょうよ……だって、下手打つと、お、俺の顔面がまた』

『反応が遅い』(バシィン!)

『へびぇええん!? ま、まだ何も言っていないってのに……!』


 自分より体格倍近い相手からの渾身のビンタがっていう恐怖は凄いですよ。しかも、ちゃんとスナップ聞いてる痛いビンタ。めっちゃ痛かったですよ。頬がブルン、って揺れましたもん。しかもそれを何度もぶち込まれてるんだから……


『……これで、どうですか?』

『――えぇ。合格です。お見事でございました。コレで先生は、どんな事を聞かれようときっと大丈夫になりましたよ』

『っしゃああ! 漸くだ! 漸くだぞぉおおおおお! これで、俺は……自由に!』

『では基礎編が終わったので応用編行ってみましょうか。会話の流れで突然質問したりして見るので流暢に答えられなかったら覚悟してください』


 そこから始まる応用編の地獄ですよ……一回の文章毎に、最初は十何回とかシバかれてたのを思い出しますよ。ビシビシバシバシ凄い良い感じで音が鳴ってたのが記憶に新しいというか。壮絶でした……


『……』

『お疲れさまでした。後はもう本番に臨むだけだと思います。仕上がりは本番を迎えた時に確認しましょうか。とはいえ私も全力を尽くしましたので、自信を持ってください』


 その時は、俺はもう完全に意識を失って居ましたよ……疲れ切って、完全にダウンしたというのもありますがこれ以上起きてたら、『まだ出来ますね先生。よし、こっからは私が実地式で更にしごいていきますよ』と言った様な発言が飛び出しかねなかったので……わざと、という部分はある。


「――あぁ、本当に疲れ切ったよ……それだけの……努力は、した気がするけど」

「一体何処に話しかけていたんですかね先生」

「第四の壁を意識して喋ってみた」

「何やってるんですか」

「いや、今取り敢えず凄い疲れ切ってしまってですね……特に脳味噌を使わなくても助かる様な事がしたかったんだ」


 と言っても、そんな時間が何時までも続くとは思えないけど……で、後は向こうから連絡が来るのを待つだけだ。頑張って潜り抜けたんだから、それまで休養しつつ、じっくりと、体調を整えさせてもらうぞ……


「じゃあ編集さん、向こうが接触して来るまでお待ちしてますんで」

「はい。其方はお任せください。後向こうから接触してくるまでは毎日今やったのを続けますので、頑張りましょうね。しっかり」


 えっ……? ま、いにち……? い、今あまりに過酷過ぎて現実逃避をしてしまったあの苦行をマジで毎日……?


「さぁ気張りましょうね先生。毎日やってれば、きっと完璧になりますよ」

「俺さぁ、もしかして最後の十二日間とか迎えようとしてたりする?」

「大丈夫ですよ。そう遠くない内に、多分向こうから接触してくれますから。まぁ、あんまり長めにかかるようでしたら……その時は、まぁ」

「なんで顔を逸らした!?」


 ええい、でもそれで俺の失言率が下がるのは間違いないんだ。役立つのは間違いないんだ! キッチリ仕上げ切ってやるから覚悟しろ! チクショウ、前回の無垢な演技の精神的ダメージに続け今度は物理ダメージか! チクショウが!




「……」

「先生―? 先生ー? 大丈夫ですかー? 白目向いてますよー? しっかりー?」

「はっ!!? やべぇ、また賽の河原がが見えてた気がする……」


 またぞろ爺ちゃんと、今度はオセロ、将棋、チェスの三番勝負しながら煎餅食べてたよ。いや、正確に言えば食ってたの爺ちゃんだけだけど。なんでか食わせてもらえなかったんだよなぁ。お前は食っちゃいかんぞ、とか言って……ケチ。


「向こうから接触して来ました。勝負は明日です」

「そうかぁ……漸く、俺の努力が報われる訳か」

「えぇ、ここまで疲れ切ったんです。きっとうまく行きますよ……若干やり過ぎたとは思いますし、役立ってほしいんですけど……」

「やり過ぎたと思ってるなら止めて欲しかった!」


 まぁいい。この恨みのエネルギーも全て、向こうさんを騙すのに使えば良いんだ。今の俺の脳味噌は他人を騙すのに特化してるんだ!


「……完璧、だとおもうかいお嬢さん」

「心配性ですねぇ。そりゃあ付きっきりで心をボコボコにしましたから。それを耐え抜いて、ここまでやったんです。やれますよ」


 ふ、そうか……それなら、もう俺は、胸を張って……

 爺ちゃんとの勝負の続きを、ウケに……いける……ぜ……


アンデルセン先生ごめんなさい。


因みにこうやって相手との会話を想定して台本を作ったり、質問を想定したりっていうのは、面接以外でも普通にあるそうです。

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