圧迫される覚悟
「あの、俺がミスって紙を無駄遣いしたのは確かだけど。まだ許容範囲だと思うんだよ。だからそんな凄い穴が開くくらい見つめて居なくてもいいと思うんですよ多分ですけど」
「黙って書きなさいスットコドッコイ。最悪の可能性にこんな簡単に行きつくとは」
「さ、最悪の可能性って。一枚無駄にしただけじゃないですか!」
「一枚? 無駄にしただけ? 紙の高さを分かって言ってらっしゃいますかその戯言」
……何も言えねぇ……紙が安くて消耗品と呼ばれていた時代の人間だからか、どうしてもその辺りを意識し損ねてしまう……一枚くらい別に使っても構わんやろ、ってなってしまうのはどうしてなんだろう本当に。
「無駄にした分、書けば大丈夫です。しかも私の監視付きです。ミスも何もなくスムーズにいくこと請け合いでございます。頑張ってください」
「でしたらさっきから三回もリトライにするのご勘弁願えませんかねぇ!」
「だって、情熱を込めたいのは分かりますが……幾らなんでも勢いで誤魔化し過ぎと申しますか」
「言い方ぁ!?」
くっそ、誰が勢いで誤魔化してるじゃ。痛い所を突きおってからに! でもそこはパッションで誤魔化す位が良いんじゃないかと思ったんだけど、ダメでしたか。分かりましたよこん畜生。書けばいいんでしょう書けば。
「……で、何をどう直せばいいってんだ」
「先ずはここですね。感情のみで発言するのではなく、きちんとこうなるに至る理由等を。例えば亀と呼ばれる……彼はどういう役職なんでしょうか」
「……探偵擬き?」
「なら、白兎との出会いとかもしっかりとですね」
うーん真っ当な事を言いなさる。そんな事言われたら小説家としては何も言えず……とはいえその辺りノンビリ描写してる場合なのかな。どうなんですか?
「でも、その後につなげるとなるとなぁ……?」
「その後の展開だとか――だからこそ過去に関してはしっかり――」
「テンポを重視しないといけないというか――設定ばっかり凝ってても見向きもしない――問題はそれこそ展開を――」
「――で、ここがこうつながるから……こ、これでどうだってんだ! 完璧だろう! 文句があるなら言ってみろヘイガール!!」
「ハイオッケーです。お疲れさまでした」
「しゃあああああおらああああああん!!!」
仕上がった……!! どうだ! 完璧に仕上げてやったぞ! 完璧と言えるかはちょっと微妙だけどな! じゃあなんで完璧って言ったかって? ギャハハハハ! アホだねお前、そんなもの完璧って言い張っておけば自分に自信が持てる気がするからに決まってるじゃん!
「良し! 取り敢えず寝る前に終わった! 水浴びてきまーす!」
「桶に水くんでありますよ?」
「そっかありがとう! っしゃああガッツリ浴びるぞオラァアアア!」
こういう時の水浴びは気持ちが良いって相場が決まってるんだ! ハイバッサリと服を脱ぎ捨てたら上から全力でバシャアッと……
「……冷たい……テンションも落ちる……」
「何度目ですかそれ浴びるの。冷たいのなんて分かってるでしょうに」
「いやぁ、テンションも上がってたし、勢いで誤魔化せるかな、と思ったけど……うん、でもいい感じに頭も冷えたよ」
さて、頭が冷えて気になってきたんだけれども。さっきはそうかなぁ、で流しちゃったけど絶対にダメでしょうよ流しちゃ。えっと、タオルで拭いて拭いて……いや、ここからなら聞こえるか。普通に大声出せば。
「へんしゅうさーん!」
「なんですか?」
「あのさー! その兵士の皆さま! その後なんか行って帰ってた!?」
「何か反応があればもうちょっとマシだったんですけけど。それ以外には何も」
んー、そうかー。仕方ないなぁ。
「ただ、『後日此方から話を聞きたい、とかなるかもしれませんけどその時はよろしくお願いして頂けると本当にありがたいのですが』とは言ってましたけど」
「いやそれちゃんと反応返してらっしゃいますけど!? 正確に報告してください!」
あの、凄いあり得そうだったよ? 何かしらありそうな反応だったよ? ヤバいよ? なんでそれで微妙な反応とか言ってらっしゃってるの!?
「やっぱり喧嘩売られてると思われてんじゃん!? ああもう『やっべーこれ間違いなく悪印象与えたよなー』とかそんな甘い事考えてた俺がバカだった……!」
「……それが本当に先生の考えて居るような様な物であれば良かったんですけど」
「だって怯えたような瞳で見てたんじゃないの!?」
ご自分でも言ってたじゃないの!? 圧迫面接かけて! いや圧迫とは言ってないけど……そんな中で怯えてるような瞳で見てないとか言うの? ウソよそれは!? 俺だってそんなもん『あっ、下手な事言うと俺は東京湾でコンクリ詰めなのね』って分かるわ。
「それはそうなのですが。気になったのが、そんな怯えた中でも、そのままだったというか」
「全く意味が分からんのだが?」
「言葉は流暢だったんですよ。さっき、私は流暢に話していたでしょう?」
「まぁそうだな。別に貴女さんが向こうの感情を再現する意味もないし……相当怯えた声で話してただろうなぁ」
「そのままです」
……何? そのまま? そのままって、もしかして?
「私が話したそのままに彼らは喋っていました。流暢に、まるで用意されたセリフを言ったかのように流暢に、です。正直な話、圧迫であることは自覚していましたけど」
「自覚はしてたのかアンタ」
「そりゃあ自覚してますよ。流石にアレで自覚ない、となるとただのサイコパスですし」
じ、自分でそれを言うのか……サイコパスとまでは思ってないけどもさ。でもまぁ、えげつない事をやりなさるとは思ってたけども。しかし、そんな編集さんが『あっ、コレ圧迫ですね』と自覚するレベルでの事をやって、それでも流暢に話してた、のか。
「……そうなる覚悟が出来ていた?」
「のかもしれません」
「つまりどういう事だってばさ」
「……それは。分かりませんけど。少なくとも、悪影響を与えた、と言うことは無いのではないかと思うのですが。如何でしょうか」
……いやー、如何なんでしょうか。もし本当に覚悟していたとするなら、可能性は?
「向こうが、こっちと接触する機会を考えてた……って事か?」
「もしかしたら」
アンデルセン先生ごめんなさい。
なんざん でした




