ファンの皆様こんにちは
――駆けるその影を、必死になって下っ端共は追いかけます。けれど、彼らがどれだけ必死にしつこく追いかけようとも、彼女の軽やかな足取りは遠すぎて。館から奥様に化けた『白兎』が抜け出してしまった時には、もう全てが手遅れだったのです。
『――悪いね。君達とはもうお別れの時だ』
『さ、先回りだ! 先回りして捕まえろ! 絶対に逃がすな!』
『無駄だよ。君達のような鈍間な上に、頑張り屋でもない亀では、僕を捕まえる事なんて出来やしない。ああ愚かな亀さんや。降りてかけっこでもしてみようか? それでも僕は捕まえられないと思うけどね』
そういって、『白兎』はケラケラと笑います。盗まれてしまったキラキラの王冠はあぁ、戻ってこないのでしょうか……いいえいいえ、まだ一人。残っているではありませんか。彼女の前に立ち塞がる、一匹の『亀』が。
『待て、『白兎』!』
『――そうだ。僕を捕まえるのは、何時だって、地道な努力と、諦めない心で、鈍くても、ずっとずっと真実を追いかける。君のような男だとも。『亀』くん』
チビで、鈍間でも。調べものばかりで、頭でっかちとバカにされても。彼女の事を良く考えて調べ上げ、そしてその動きを読み切った。そんな『亀』は誰よりも早く、『白兎』の前に現れる事が出来ました。
『王冠を、返すんだ』
『ふふ、それは出来ないとも。幾ら親愛なる隣人たる、君の頼みでも。いつも通り、僕を捕まえて放さないでくれれば、その情熱に負けて返してしまうかもしれないけど、ね?』
『……やっぱり、捕まえるしか、ないのか』
『君が慈悲深いのは知ってるけどね。でも、僕が求めるのは、君が僕を追い詰める情熱なんだ』
だから、と彼女は、恍惚とした表情で『亀』に告げました。
『僕を、情熱的に抱き締めて……もう、話さないでおくれよ。愛しい鈍間な『亀』さん』
『君を捕まえるぞ……『白兎』!』
今、月下にて始まるは、兔と亀の最後の決戦。怪盗と追跡者の舞踊。その決着が何時付くのか。それは……未だ、誰にも分かりません。
「――この辺りで、結構皆様引き込まれていましたね」
「大当たりって感じだなぁ」
「で、この成果ですよ」
「わーおジャーラジャラ入ってらぁ、大量だぁ。ビックリするレベルだ」
「行ってもそこまで馬鹿みたいな金額と言う訳でもありませんよ。大体が小銭ですし。一番高い貨幣とかはあんまり入ってませんし」
……もう貨幣の種類を見分けられるくらいには沢山のお金を見て来たんだなぁと思う。流石最前線で資金をガンガン集めてくださってるだけある。しかし、それでも結構な金額は入ってるだろうしなぁ。
「しかし、酒場に来てまで私の監視だけしかしないとは、随分とまぁ暇人ですよね。彼らも」
「そうねぇ。どこでお金を使っていらっしゃるというのか……うーん?」
「言い方は悪いですけど完全にストーカー染みているというか」
いやぁ完全に他人の尊厳を傷つける類の発言が聞こえたんですけども。まぁ、それは兎も角としても……いや、待てよ? 少し気になったんだけども。それだけ投げ銭が袋に入ってるなら、もしかしてだけど。
「そう言えばさ。その人たちはお金投げたりはしてなかったの?」
なんて……いや、まさか監視対象の人を見てる間に、ぽーい、なんて軽い感じで投げ銭なんてするような呑気なバカ野郎いる訳ないか。
「してらっしゃいましたよ?」
「はいはい、してらっしゃいました……ああんましたぁ!?」
「軽い感じで。ぺぺっと。しかも楽しそうにしてらっしゃいました。その後に改めて任務を果たそうと近づいてきたのは、完全にギャグにしか見えませんでしたけども」
あ、そうなの。銭を投げてくださったのですか兵士さん……あの、何でしょう……うれしいはうれしいんだけど、凄い微妙な気分になって来た。よっしゃやったぜ、と言って良いのか。それともお前ら何やってんだと言うべきなのか。
「因みに、えっと、どれくらい?」
「袋の中に入ってる金貨、あるじゃないですか。ちょこっとずつ」
「えぇまぁ。何枚くらいだこれ……んー……分からないけど。まぁ少ない事は間違いないけど」
「それ全部兵士さんが投げてくださったものですよ。一応ご報告しておくと」
「おーん随分と豪快な投げ銭だなぁ! ビビっちゃったんだけど!?」
最高の貨幣をそんな気軽にぶん投げるとか、お前ら本当に監視任務か? 王子の国の方でファンになったから、折角だし見に行ったついでに任務でもしようかなぁ、的な。そんなノリじゃねぇお前ら。違うの?
「……そっかぁ。これからお得意さんになってくれるかなぁ。いや、もしかしたら元からお得意さまだったのかもしれないけども」
「元からお得意様。あぁ、もしかして、だから聞き込みもそこまで積極的では無かった?」
「可能性はないでもないけど、だとしたら職務怠慢すぎると思うんだが?」
うーん……でも、こういうのって現代でもあるよね普通に。なんか暇な時間が多い外回りとか利用して、ゲーセン通いするとか。そう言う人の話聞いた時、『バレないんですか!?』って聞いたら『会社の人間はそこまで会社の人間を意識して見てませんよ』って言われた衝撃。
「まぁ、それはそれとして……これだけ集まれば当分の資金は大丈夫だろうな」
「そうですね。食事も、紙も、インクも。タップリ買い込む事も出来ると思いますし」
「後はノンビリ待つだけだなぁ。少なくとも俺は」
「そして仕事をするだけです」
「ハイハイ新作新作。任せろってんだガール」
もう新作を所望される辺り、容赦がゼロって言うのを悟ってしまう。とはいえ、書くのはこの前の続きだし、凡そ三話位の構成にしてあるし、続きを書くのは全然問題は無いけど。さて、どんな続きにしようかなぁ。
「――しかし、もしあの人たちの中にファンが居るとすれば」
「ん?」
「使えるかもしれませんね。案外。我々が味方として振舞う為に。やってみましょうか?」
「やってみる、って何を……?」
「懐柔、というか、取り入る為の作戦と言うか」
あー。成程?
「やってみる?」
「どうせこのまま待っているよりは、まだマシではないかと思うのですが」
んー、まぁそりゃあそうだけど。しかし、本当にファンが居るかどうか、って言うのが最大の問題って言うか……まぁ、ファンだったら続き書いたら寄ってくる……か? 俺の話は誘蛾灯かなんかかさては?
アンデルセン先生ごめんなさい。
よーし、先生、ファンを悪用しちゃうぞー




