二重三重の作戦
「まだ疑われてるとすれば……ねぐらまで尾けてくる可能性は十分あります」
「ねぐら突き止められたらヤバいんじゃないの……!?」
「えぇ。ですからここはスピード勝負かと思います。彼らが我々を追いかける前に出来るだけ距離を離して……出来なかったら、詰みです」
「でも向こうさんは肉体労働のプロだぜ? それ振り切れって」
「振り切れるようにすればいいんですよ。単純明快です」
「どうやって……ってこっちってねぐらじゃなくない?」
「えぇ。少々と予定は違いますが、打っていた手を使いましょう」
打っていた手……って、待って、これって町の外れの方に向かってらっしゃいますけど、此方の方向には見覚えがァァァアアアアアア冥府の扉が見えて来てるゥウウウウウ!?
「えっ!? な、何を頼むの!?」
「私達が、あそこに居る、と証言してもらいます。ただし、少し変則的にはなりますが」
「変則的」
「ようは、時間を稼げればいんです。なら彼らには三味線を一つ弾いて貰って、兵士の皆様が其方に釘付けになっている内に私達はねぐら迄スタコラサッサです」
「――あ、成程?」
って事はコレ、俺達こっからねぐらに全力で逃げ出す事になるのか……ちょっと肺が持ちそうにありませんけど、仕方ない。やるしかないかぁ。後は、どれだけ彼らが、俺達をどこまで留めてくれるかだなぁ……
「――出来て、まぁ日が落ちるまでだが。それで十分か?」
「えぇ。ありがとうございます。それだけあれば十分です。それより……大丈夫ですか?」
「任せろ。あのスカした面の野郎を騙くらかして、んでもって慌てる顔の一つでも見れるかもしれないってんなら、一つ本気も出せるってもんさ」
……兄ちゃん、それいくらなんでも見え見え過ぎじゃないの? そんなに不自然な勢いで張ってもバレバレ。もうちょっと、上手い事やらないとねぇ……ま、万が一それなりに高かろうと俺には勝てないだろうけどな。
「――フルハウス。残念だったな」
「ふっ……やっぱり乗って来たか、坊主」
「なんだと?」
「上手い事カードゲームをやるコツは、知ってるようだが……経験が足りねぇ。絶対に勝てる札の時は、徹底的に相手をゲームに乗せる事も必要なんだよ――フォーカードだ」
「ごぎゃあああああああっ!?」
ま、まさか……俺が……金を積むのを……待っていた、と……へ、編集さんから預けて貰った僅かなお小遣いが……全滅……悪夢……すっからかん……! め、めのまえがゆがむ……ノーカウントだろ、こんなん……っ!
「まっ……まだだっ……! 俺が密かに貯め込んでいたへそくりが未だあるっ……!」
「ふふ、まるでボケた老人だな。坊ちゃん。自分が沼に嵌ってる事も気が付かずに前へ前へと進んでいくその姿……狩られる対象……ククッ……ネギ背負った鴨……!」
「こっちにこい……近寄ってこい……食いちぎってやる……!」
未だ、命は残ってる……張れる……っ! 全力をかけて、戦う! 俺が! 悪夢を見せてやる! ここから奇跡、逆転を見せてやるってんだ!
「ハイハイそこ迄ですよ先生」
「ちくしょう! 放せっ! まだだっ! 終わってない! 俺の命はまだ残ってる!」
「それ磨り潰したら本格的にパチカスですよ先生。さ、彼らが来るまでに急いで逃げますよ。全力で。捕まりたくないでしょう?」
「それよりも……っ! 俺には、付けなきゃならない決着が!」
「ではすみません。お世話になります。まぁ此方もそれになりにお支払いをしてるので、頑張って頂かないといけないですけれども」
あーチクショウ俺の勝利の栄光が! 遠ざかっていく!
「やめて! おねがい! あと一回で勝てるの! いや、勝つまで金を注ぎ込めば勝てるんだからぁ! 絶対に勝つんだよぉ!」
「では失礼します。ほら行きますよパチカス」
「誰がパチカスだぁオラァ!? あっ、閉まった踏ん張りそこねアァアアアアアア」
って言うかやめて引き摺らないでお尻が痛いめっちゃズリズリ痛い! 止めて! 痛い痛い限界限界もう無理無理ケツが燃える! く、くそっ! 幾らギャンブルに注ぎ込んだって言ったってここまでされる謂れはないわい!
「全く……本気でギャンブルをやるならいざ知らず、場所の空気に流されてあんなテンションになってるのが情けない……」
「そりゃあギャンブルってのはあんまりよくない事ってのは……ん?」
なんかおかしい事言わなかった? 本気でギャンブルがどうこうって……? あれっ?
「ギャンブル、というのはやりすぎなければ健全な趣味だと思いますよ。ああいうスリルを嗜まなければ、人間ドンドン歳を取って行ってしまいますから。ですが、場の空気に流されてやるのは宜しくないとは思います。歯止めが利かなくなりますから」
「えっえっえっ?」
「まぁ、それはそうとして……急ぎますよ」
あっ、編集さんってギャンブルについてそう言う風に考えてたんだ……うん。そうですね。適切にやってこそですよね。なんか、俺自身ちょっと冷静にならないといけないですね。金をそんなバカスカ注ぎ込むもんじゃないですよね。
「――すいませんなんか」
「謝らなくて大丈夫です。反省してくれればそれで……それより、急いで逃げますよ。彼らは日没まで、と言ってくれましたが、本当にそれだけ持つかが分からない以上、出来る限り急ぐ必要があります」
「つっても、絶対に殴り合うようにはしないんだろ? あくまで店の奥に居る様に見せて、でも踏み込めない様に、こう、店に居座り続ける」
「そうですね。向こうとしても、殴らずに誤魔化し続けられる時間が日没、という事でしょうがでも……我々を見つける為に強硬手段に打って出る可能性も無きにしも非ずです」
そ、そこまでする!? ちょっと怪しいくらいの感覚で!? いや、疑わしきは罰せよの時代もあるにはあったし……否定はできないか……
「兎に角、そうなった場合でも、見つけられない位には急いで距離を取る必要があります」
「……ここまでやってダメだったら洒落にもならないけどなぁ」
「最悪を想定するのは基本ですよ……とはいえ、早めに行動しておくのはそれだけではないですけれど」
……逃げるだけじゃないんだ。まぁ確かに、逃げるだけなら、もうちょっとゆっくりと歩いても不思議じゃない、とは思いはするけども。
「えっ?」
「覚えてませんか。あの人は、ある程度の時間をかけて商いをしてから国を出ていくと。で、帰りがけに私の話を聞いてくださっていたのを見つけましたので……渡りをつけておいてよかったですよ本当に」
「あの人……商人さんか?」
「えぇ。一応の一手に、と。酒場で待っていてくれている筈です。行きましょう」
アンデルセン先生ごめんなさい。
ご、ご都合主義じゃないもん……(震え声)




