知ってたよ!
ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸
あ~スズネ君。仕事中に呼び出して済まない。
はい? 義母さまが起きるまでは暇だから大丈夫?
そう言えば君は義母さま面倒を進んでみていてくれたとか。
できればノワールに対する配慮を、はい? 義母さまが望んでいるのにその邪魔はできない?
ある意味でメイドの鏡だな君は。素晴らしいよ。
で、あっちでガチで泣いている君の先輩が居るわけだが、何を言ったの? はい? 昨日僕から言われたことをそのまま伝えた? そのまま伝えたらあの馬鹿はあんな状態に?
ちょっと待て。伝えた言葉をもう一度どうぞ。脚色無しでありのままでね。
『先輩。ご主人様が義腕の無い先輩は邪魔なだけなので暇を与えるとのことです』
はい。注目。
スズネ君? 良いですか? 今からユニバンスのメイドさんたちに広まっている悪しき風習に対し天誅を加えたいと思います。
効率求め過ぎて端折り過ぎだから! もう別の言葉やん! 僕が言った言葉を絶妙に脚色して別のモノになってるやん!
はい。まず犯人のスズネ君はそこで正座……って元々サムライガールな君の正座は違和感が無くてダメだな。あれだ。洋風の罰を考えよう。
はい? どこから湧いた悪魔よ?
ふむふむ。なるほど。スズネ君。今日から君はしばらくこっちのメイド服を着用するように。
はい? フリフリしすぎて邪魔ですと?
そういう服です。俗に言うゴスロリ仕様です。そのフリフリが良いんです。そんな訳で君はしばらくそのフリフリミニスカゴスロリ衣装で過ごしなさい。
悪魔さん。抵抗なくその場で着替えてますが本当にあれって罰になるのですか? はい? 着せたかっただけ? お前にも罰が必要なようだな? あん?
ちっ……逃げたか。
あ~コロネくん。そんな訳で君への暇は解雇という意味ではありません。純粋に休暇です。
はい? 休みは要らないって……何を言ってるの? 人は休みを得るために働くものなんだよ?
休みの無い日常なんて間違っている! 僕はお昼の休憩ですら確りと決められた時間休みたい人なのだ! むしろそれ以上休みたい! と言うか余り働きたくない! 毎日ノイエとゴロゴロしていたい!
そんな訳で休みなさい。
はい? どうせ屋敷に居ることになるから休めない?
ふむ。確かに。
これはあれか? 福利厚生の一環として別荘を解放……してもドラゴン対策しないといけないから面倒だしな。王都内の宿泊施設で休めるようにするとか考える必要を感じた。
とりあえずお前は休め。その辺のソファーに座って溶けてて良いから休め。
なぜそこまで頑なに働こうと……ん? 廊下が騒がしいが何かあった?
って義母さま! そんなはしたない格好で走り回らない!
はい? ノワールとセシルはまだ寝てます。
ってウチの娘を拉致しようとしない! 喰らえジャンボハリセン!
で、コロネ邪魔だからっ! 人の足に抱き着くな! そして『パパ』と呼ぶな! 周りのメイドさんたちの視線が生暖かくなっただろうが! ウチにお前みたいな馬鹿な娘は……これか。
「そんな訳で義母さま。これもウチの娘(仮)(笑)なのでこっちを抱きしめててください」
猫持ちをしたコロネを突き出す。
「いやぁ~! わたしは小さな子じゃないとダメなの~!」
「胸は小さいので大丈夫です」
「そだちますから~!」
えい煩い。それ以上騒ぐなら2人揃ってハリセン連打の刑だぞ? それが嫌なら黙ってあっちで座ってなさい。
コロネを抱えた義母さまがリビングの隅にある一人掛けのソファーに移動する。どうやらそこが彼女の定位置らしい。
「ってごしゅじんさま~!」
「ん。頑張れ」
「ふえぇ~!」
義母さまに抱き締められたコロネが必死に抵抗しているが、まああの人はその気になればノイエですら抱き締めて頬ずりする人なのであの馬鹿が逃げられるわけもない。
捕らわれたコロネを義母さまがスリスリしている。結局スリスリできれば誰でも良いのか?
「あ~疲れた」
朝から僕は何をしているのだろうか?
「ねえ」
「はい?」
呼ばれて顔を動かせば、リグが冷たい視線で見つめていた。
いつの間にやらノイエも姉を抱えソファーに移動していたようで……そんな後ろからの鷲掴みは大変羨ましく思います。
「つまり僕も揉めと?」
「……」
「冗談でございま~す」
リグの視線が冗談の領域を過ぎ去ったのでふざけるのもいい加減にしておく。
「で、リグさんリグさん」
「なに?」
妹に揉まれる姉の返事も冷たい。
「しばらく滞在可能?」
「……」
スッと彼女は視線を動かす。僕も釣られて動かせば、2人の視線の先にそれが居た。悪魔だ。
何故か天に向かい指を一本立てて……君は何がしたいのですか? そのポーズは何よ?
「兄さま」
「ほい」
「しばらくわたしは忙しいから、後よろで」
「はい?」
「でわ!」
言って小柄なメイドから悪魔が去った。
何故ならスッと妹様は掲げていた腕を下ろして何事も無かったかのようにエプロンの皺を伸ばして……うん。もうメイドモードだ。
「あの馬鹿は何故逃げた?」
「……」
僕の問いにポーラが小さく首を傾げる。
「色々と確認作業があるとかなんとか」
ああ。そんなことを言ってたね。
「まあ良いか」
良いとしておこう。
「で、リグの滞在期間が謎なんだけど?」
「それでしたら聞いてます」
「本当?」
「はい」
妹メイドさんが元気良く口を開いた。
「頑張って子供を授かれと」
「そりゃ~頑張るけど?」
「おい」
何故かリグさんの方から冷めたツッコミが聞こえて来た。
あはは。何を言っているのかねリグさんや? 君が出て来たのに僕が頑張らないと思っているのですか? 否! 僕は頑張りますが何か?
「ん。わたしも一緒に頑張る」
「「……」」
ノイエの声に僕とリグが自然と口を閉じた。
他意はない。他意はないのだが、ノイエさんはほどほどで良いんだよ?
「負けない」
君は常に勝者だと思いますが?
「あら? リグの声がすると思ったら」
と、静かな足取りでセシルを抱いたセシリーンがやって来た。
色々とあってお風呂上がりの彼女からは独特の色香を感じる。つまりこれが人妻の色香かっ!
「ノイエ。手を離して」
「ん」
リグがノイエの拘束から脱出し、セシリーンの元へ向かう。
察した彼女も自分が抱いている娘を素直に相手へ引き渡した。
「ごめんね。少し診るよ」
「?」
何も理解していないセシルが医者の手によって色々と調べられる。
未熟児として産まれたセシルだが、以後の成長はビックリするほど順調で……まあたぶんノイエが何かしたのだろうが、それでも医者の診察は有り難い。
ノイエの加護的な力が何処まで有効か謎だしね。
「ん。異常なし」
「本当に?」
「うん。ちゃんと目も見えているはずだよ」
「……」
その言葉にセシリーンが一番の安堵を覚えた様子だ。
セシルの目が見えているっぽいと前から言われているが、母親はどうやらそれを疑っている感じだった。自分が生まれつきの盲目だったから仕方ないのかもしれないけどね。
「あれ? もう1人は?」
「あっ」
リグの声に気づく。我が家の長女はベビーベッドに放置プレイだ。ここはお父さんが、
「ん」
「……」
颯爽と娘を連れてこようとしたら、瞬足でお嫁さんが抱えて来た。
何この敗北感は?
「貸して」
「はい」
セシルを母親に戻しリグは次いでノワールを受け取る。
「こっちも元気だね」
「はい」
医者の診断結果にノイエが『わたしの娘だから』と言いたげに胸を張っている。
君ってば基本育児を姉に丸投げしていますよね? ノワールの世話はほぼセシリーン任せだよね?
「そんなことはない」
「本当に?」
「むぅ」
僕の声にノイエが拗ねた。
「アルグ様も何もしていない」
「そんなことはない」
僕は子育てする気満々なんです。ただ子供が僕の手から逃れるのです。
新解釈とかではありません。手のかからない子供なんだよ。
「それに昨日僕とノワールの間には太い絆が生まれました。だからこの子も」
我が子に手を伸ばしたら、可愛い長女がその手をペシッと払う。
そしてノイエに抱き着いて全力で甘える。
ほほう。つまり娘よ。パパよりママの方が良いというのかね?
「知ってたよ!」
世の法則にパパは勝てないのである!
© 2026 甲斐八雲
ノワールとしてはノイエが一番です。
でもあの前王妃様から守ってくれるパパにも気を許し始めてますw




