報告書は近日中にな
ユニバンス王国・王都王城内国王仮執務室
「のうアルグスタよ」
「はい?」
気のせいか出かけて帰って来たら、久しぶりに見たパパンが老けていた。
年老いたというよりも疲労困憊にも見える。
さてはまだメイドの尻を揉んで遊んでいるのか?
「普通……帰って来たその日に挨拶に来るものではないのか?」
「あはは。昨日はもう色々と忙しかったので、つい」
「……」
ドロ~ンと澱んだ瞳が僕を見つめて来る。これが死んだ魚のような目か?
「儂も結構忙しいのだがな」
「あはは」
バンバンとパパンが机の上に積まれている書類を叩く。
軽く表紙を覗き見すると『○○家調査報告書』とかになっているから、馬鹿従姉を旗頭に王家の弱体化を狙った人たちの末路とか書かれている感じですか?
そもそも反乱分子の大掃除は僕が仕向けたことではありません。兄さまたちが仕込んでいたことです。僕はそれに巻き込まれた感じなので、こっちに苦情を持って来るのはお門違いです。
「まあそうだが……そんな中、北から客人も来るしな」
「あっはは」
それは認めよう。全力で認めよう。誰が悪いと言えば間違いなく僕であると。
悪いのか? うん悪いな。ただ僕はユニバンスの内情を知らなかった。まさか兄さまがあんなことになっていようとは……うん。頑張れパパン。老いても前国王だろう?
それも比較的最近まで現役だったわけだしね。下半身が不随になっているけど。
「どうせ老い先短いんですから燃え尽きるまで国のために頑張りましょう」
「……お前はそろそろその本音を素直に口にする癖を直せ」
「おっと」
相手の指摘にビックリだ。また本音の野郎が勝手に飛び出していたぜ。
「まあ北からのお客さんは自分の方でどうにかしますんで方向性だけでも決めていただければ……って、オッサンの今の立場ってどんな感じなの?」
「言葉」
「おっと」
何故か本音くんが大暴走していますね。
盛大なため息を吐いたパパンが胡乱げな視線を僕に向けて来た。
あはは。ちょっと座ろうとしていただけですけど? 椅子が僕のお尻を呼んでいたんです。それに別に座るなとも言わないでしょう? 長い話になりそうだしね。
そんな訳でポーラが運んできてくれた椅子に腰かける。
「で、兄さまがあの状態ですし……しばらくは馬鹿兄貴を国王代理にしますか?」
「それも考えたがハーフレンが逃げた」
「流石」
あれは国王って器ではない。脳筋が陛下になって良くなった国など僕は知らない。
獅子心王だっけ? イギリスのあの人とかが良い例である。十字軍だヒャッハーとかして国をドンドン疲弊させた挙句に自身の身代金支払いもの凄い借金を抱えたって話を聞いたことがある。
「で、そうなるとお前にお鉢が回るが?」
「その鉢を目の前の前王様にお譲りします」
「……そう言うと思っていたよ」
でしょう? 僕が国王とか考えただけで発狂します。
待て。国の運営をホリーお姉ちゃんに丸投げしたら……うん。ダメだ。きっとお姉ちゃんのことだから引き換えにとか言い出して毎晩僕の上に跨って来る。ノイエと2人を相手にするとか考えたくもない。
「仕方あるまい。しばらくは儂が国王の代理を務めるしかないな」
何処か悟った様子でパパンが深くため息を吐いた。
「まあ兄さまのことですから、痛みが引けば復帰しそうですけど」
疲れ切ったパパンに慰めにもならない言葉をかけておく。と言うかあの人は本当に無理をして仕事をしそうだ。
「……薬が切れた時などに書類仕事をしているそうだ」
「マジで?」
「うむ」
「「……」」
僕とパパンの気持ちが一つになった。『そんなに働かなくても』と。
「兄さまって本当に貴方の息子なの?」
「ラインリアの息子ではあるな」
「納得」
義母さまの息子なら……どうなの?
「今は色々と我が儘な面を見せておるが、あれは元々愛らしい才女として有名であった」
「ほほう。それを知った種馬が頑張って秘密の花園を侵略したと」
「うむ。実に良き花園であった」
その遠くに向けている視線は何を思い出している? 父親の夜の営みとか聞きたくもないぞ?
「それでアルグスタよ」
「ほい」
「北からの客人はどう扱う予定でおる?」
ポーラが淹れてくれた紅茶を啜りながら僕はその問いに一瞬だけ考えこんだ。
パパンが世間話な感じであの椅子の扱い方を丸投げしてきやがったが……まあ良い。今回は僕が考えよう。
「ユーファミラ王国の王家のみにミールトア公国への販売許可を与えます」
「ほう」
パパンが面白そうに声を上げ、顎を撫でながら続きを促してくる。
「公国としては辺境国からしか薬を買えません。販売価格は辺境国の気持ち次第なので今までのような侵略行為はできなくなります」
「ふむ。すると辺境国は侵略行為を受けることは無くなるな」
「はい。戦費と言うか軍事費は全てドラゴン対策に振れるわけです」
テレサさんが居るとしても一人のみだ。ドラゴンへの対応には一般兵の動員が必要になる。それはつまり兵士たちに対人戦以上の戦いを強いることになる。ドラゴンを相手にしている限り軍事力が低下することも無い。
「それでも戦いばかりに国費を全振りする必要が無くなるはずです。少しは農地の開発をさせます」
「そうすれば辺境国の財政が立ち直ると?」
「はい」
一応事前に今回の旅の報告書をユニバンス王国には運んである。
ゲートを抱えている公国に居たのだからその辺は簡単だ。ユニバンスに行く商人に荷物と一緒に手紙を預ければ良い。一応蝋封した手紙だが、途中で中身を見られても問題の無い内容しか記していない。
『辺境国がめっちゃ貧乏なんです。破産寸前です』と包み隠さずに書いたおかげでパパンもその事実を良く知っているのだ。もし誰かに見られていても……国の恥が世界に広まっただけだよ。
「そして公国もまた争いを止めます」
あの国が今回一番の貧乏くじを引いた国ではある。
どこぞの枯れ木の暗躍により国軍の3割を消失。それを招いた公王の責任問題も噴出しているが、それ以上に問題となっているのは、唯一ドラゴンの相手をしていた魔法使いを失ってしまったことだ。
公国は今後、人の力でドラゴンの対応をするしかない。
討伐は出来ないから人の居ない地域へドラゴンを誘導する感じだ。
「減った国軍でドラゴン対策を強いられるあの国は……もう外と戦うことはできないでしょう」
結果として軍事費の増大と薬の購入費に予算を取られるので、公国もまた内政に予算を多く回すしかない。つまりしばらくは他国との戦争はできない。
「これで北の地は静かになります」
「ふむ」
僕の話を聞いていたパパンが今一度顎を撫でた。
「ただアルグスタよ」
「はい?」
「ユーファミラ王国の王家のみの販売許可には問題があろう?」
「ええ。それは考えてあります」
何せ僕はあのヒャッハーな国に行って色々と話を聞いてきましたので。
「ユーファミラ王国に対しユニバンス王国から多額の援助を行います」
「多額?」
パパンの動きが止まった。
「はい。ああご心配なく。低金利でウチからユニバンス王国に融資しますので」
「……金利に関しては後で要相談ぞ?」
確りしていらっしゃる。
「へいへい。ですが超低金利にしますからご安心を」
本当はウチの金庫から全額出しても良いんだけど、それだと世間的なあれがある。
それを考慮して国からの支援という流れにする。これで世間体は完璧だ。
「それにどうせ反乱分子の貴族たちから財産没収するんでしょう?」
「それはあれだ。別の話だ」
「へいへい」
嫌だね。政治の話は。
「で、援助する条件としてユーファミラ王国には、とある話を持って行きます」
「それは?」
「簡単です。『他国の王族や貴族の血を引く者を王家に迎えない』です」
「ふむ」
あの国の内情を知らないパパンは納得できない表情を浮かべているが、僕はあの国がこの条件を飲むと確信している。と言うか現国王も元はただ将軍である。戦術に優れたあのオッサンが選ばれて国王になったのだ。
「つまり血や家名より実力を選ぶと?」
「そう言うわけです」
だからユーファミラ王国はこの話に乗る。と言うかあの王妃様なら乗る。
乗らないとあの国の国庫は本当にヤバいのだ。
「まあ折角あの国からノイエの椅子が来ているわけですし、一度話をしてみてはどうですか?」
「ふむ。それで相手の様子を探れと?」
「それがお父様の現在のお仕事でしょう?」
「面倒な話ではあるがな」
あはは。だから僕はその面倒が嫌だから国王とかになりたくないんです。
座っていた椅子から立ち上がり僕は相手に対して恭しく頭を下げる。
「退出しても?」
「報告書は近日中にな」
「え~」
何て酷いことを言う親だ。
「普通そうであろう? それよりも優先する仕事があるというのか?」
「あります」
ドンと胸を張って僕は答える。
「リグが来ているからその胸を揉む仕事が」
「……」
パパンの視線がとっても冷たいのです。
えいっ! これだから尻派は。僕もくびれ派だがリグの胸は特別に許しているのだよ!
「まあ働くノイエのお姉ちゃんを眺めていたというのが本音ですけどね」
© 2026 甲斐八雲
主人公が真面目に仕事をしているw
そして現在リグも真面目に仕事をしているわけです。たぶん?




