郎中
短いですが投稿します。
「韓信、交替だ」
「はい隊長、では休息に入ります」
韓信は去りながらも背後からの視線を感じた。
郎中隊の中で一人浮いている事を韓信自身自覚している。
また隊長が韓信の事をあまりよく思っていないのも知っていた。
そもそも項羽は旗揚げの時、地盤であった会稽の若者達八千人を引き連れていた。
その八千人の若者達は皆、項羽に心酔しており強固で特別な信頼関係に結ばれている。
であるから郎中を含め項羽の側近はほとんどが会稽の若者から選ばれていた。
後になって范増や黥布、鐘離昧などの外様と言ってよい人物達が脇を固める事になってくるが―。
警護職である朗中には項羽の好みで屈強な者が選ばれており、韓信は線が細かった為にどうしても悪目立ちしていた。
また周りの者みたく項羽を心酔などしていなかったために反りと言うか、意見が合わないこともしばしばだった。
そして――
「韓信聞いたか?
大将に項将軍と沛公が選ばれたらしいぞ?」
こうやって活躍目覚しい鐘離昧と個人的に親しい事も周りから嫉妬の様な、やっかみの様な良く思われない原因の一つになっていた。
「沛公が?
大将が二人という事か?」
だが、韓信からすればそんなものは知った事ではない、全く言いがかりにも等しかった。
だから鐘離昧と今まで通り接しているが、周りからするとそれすらも気に食わないらしい。
(ふん、何とも見苦しい事だ)
心の中で毒づきながら鐘離昧と話を進める韓信。
「ああ、それで二方面作戦を択るらしい」
「なるほど……その二方面と言うのは函谷関と武関か」
「流石だな、その通りだ。
ついでに言うと先に関中入りを果たした将を王に封じるらしい」
それを聞いて韓信の顔が驚きに変わる。
「項将軍か沛公が王になるのか」
「まぁ、ほぼ項将軍で決まりだろうがな。
沛公軍ごときに後れは取らん。
戦も弱いし」
鐘離昧は自信ありげにそう一人語ちるのだった。
しかし韓信の腹の中では
(果たしてそうだろうか?
これまでの様な戦い方では項羽軍が先に関中入りするのは厳しいかもしれん……)
と考えていたが、それを口にする事はなかった。




